INTERVIEW

お金のためでなく人間らしくあるために―ルーシー・ローズ×ROTH BART BARONが語る、音楽のもたらすシンプルな喜び

お金のためでなく人間らしくあるために―ルーシー・ローズ×ROTH BART BARONが語る、音楽のもたらすシンプルな喜び

イギリスの女性シンガー・ソングライター、ルーシー・ローズが通算3枚目のアルバム『Something's Changing』をリリースした。前作『Work It Out』(2015年)からおよそ2年ぶりとなる本作は、彼女が南米を弾き語りでツアーしていたときの経験を元に制作されたという。そのため、アコギと歌に主軸を置いた非常にシンプルでオーガニックなサウンド・プロダクションとなっており、彼女の声や息遣いがより間近で感じられるような仕上がりとなった。

また9月13日〜15日には、本作を引っさげ日本ツアーを敢行。筆者は14日に東京・渋谷 WWWで行われた公演を観に行ったのだが、南米ツアーを追ったドキュメント・フィルムを上映したのち、2人のサポート・メンバーを迎えた最小限のバンド・セットで登場。新作を中心に“Nebraska”や“Shiver”など代表曲も披露した。アコースティック編成にも関わらず、その演奏には強力な〈リズム〉があり、フォークはもちろんソウルやロック、カントリーなどさまざまな要素がシンプルなアレンジに詰め込まれていることを、あらためて強く感じたステージだった。

今回は、彼女の2016年の来日公演でオープニング・アクトを務めたり、Mikikiの連載ではメール・インタヴューを行ったりと、ルーシーと以前から交流を持ち、バンドとしてもルーシーのお膝元にあたるロンドンで完成させた楽曲“Damian(UK mix)”“ATOM(UK mix)”“dying for”を発表したばかりのROTH BART BARONを率いるフロントマン、三船雅也を迎えて対談を行なった。お互いの音楽的な共通点についてはもちろん、ルーシーの朋友であるジャック・ステッドマン(ボンベイ・バイシクル・クラブ)のこと、もちろん新作についてなど、話題は多岐に及びながら、和やかなムードで話は進んだ。

※来日間近なロンドンのフォーク・シンガー、ルーシー・ローズ(Lucy Rose)にROTH BART BARON三船がインタヴュー!

LUCY ROSE Something's Changing Communion/HOSTESS(2017)

 

人間らしさを表現しようすると、完璧さが逆にフェイクになることもある

――まずは三船さんから、昨日のルーシーさんのライヴの感想をお聞かせください。

三船雅也ROTH BART BARON「前回の来日公演は彼女1人だったので、静寂をコントロールするようなパフォーマンスが印象的だったんですけど、今回はサポート・メンバーの2人がハーモニーを聴かせるなど、ソロではできない〈立体的なアンサンブル〉を奏でていたのが良かったです。新作『Something's Changing』からの楽曲も、これまでにない試みがあって楽しめました」

――ルーシーさんは、手応えはどうでした?

ルーシー・ローズ「前回のときに最前列にいた人が、今回も同じところにいたからちょっとしたデジャヴを感じましたね(笑)。今回はアルバムをリリースした直後ということもあって、そのなかの収録曲を中心に演奏したんですけど、お客さんも楽曲をちゃんと把握した上で、観に来てくれていたのは嬉しかったです。自分は〈完璧主義者〉というタイプではなくて、〈今回はあれもできた〉〈これも上手くいった〉〈次はこんなことにも挑戦できそう〉っていうふうに楽天的に考える人間なので、バンド・メンバーも含めてお客さんと楽しく演奏できたのも良かったですね」

――そもそも三船さんは、ルーシー・ローズの存在をどんなきっかけで知ったのでしょうか?

三船「最初に観たのは〈BBC Sessions〉(UKのTV番組)でした。そのときに確かラナ・デル・レイのカヴァーをやっていて、それですごく興味を持ったんですよ。ジャック(・ステッドマン/ボンベイ・バイシクル・クラブ)はアコースティック・ギターを、もう一人のメンバーはヴィブラフォンをプレイしてて、彼女だけひとりぼっちで別のブースで歌っていたのだけど、その声がとても印象に残っていました。彼女がソロのシンガー・ソングライターだと知ったのはそのあとで、“Shiver”という曲にとても衝撃を受けたんです。この曲はすごく寂しげで、でも暖かくて、まさに“Shiver”っていう感じ。それですごく気に入ってレコード・ショップに走りました。それが僕の最初の体験でしたね」

ルーシー「あれはもう、5年くらい前の話よね」

ルーシー・ローズの2012年作『Like I Used To』収録曲“Shiver”のセッション映像
 

――お互い、ミュージシャンとしてどんなところに共感しますか?

ルーシー「もし私がケイティ・ペリーのような音楽をやっていたらまた全然違うと思うけど(笑)、ジャンルやスタイルなどではなく、音楽に対するスタンスそのものが、私たち2人の共通点なのだと思います。音楽に何を求めているのか、自分にとって音楽とはどんな存在なのか。決してお金のためではなく、自分自身の頭の中にあるイメージを表現しようとしていること、そういう姿勢に共感するというか」

三船「もっとも大事なのは、自分自身で楽しみながら曲を作ったり演奏したりすることだと思う」

ルーシー「そうね、それってすごく大変なことでもあるけど、でも〈楽しむ〉って大事なことだわ」

三船「僕は、壁にぶち当たったときにはいつも、最初にギターを手に取ったときの喜びを思い出すようにしているよ。ルーシーの音楽はとてもナチュラルだし、そこには常に人間らしさが宿っているよね」

ルーシー「人間らしさを表現しようとしていくなかで、パーフェクトな形やサウンドっていうのが、逆にフェイクになることがある。それよりも、自然らしさとか人間らしさというものを表現したいな」

ルーシー・ローズの2012年作『Like I Used To』収録曲“Middle of the Bed”

 

音楽の喜びと悲しみは、コインの裏表のように切り離せない

――お互いの音楽のなかに、共通のルーツなどは感じます?

三船「おそらく彼女もニック・ドレイクとかが好きだと思うんですけど、特に 『Pink Moon』(72年)のような、極力オーヴァーダブを排したギターやピアノだけの、とてもシンプルなアルバムには僕もインスピレーションを得ています。聴いていると幽体離脱してしまいそうな(笑)、他の世界に連れていってくれるような音楽が好きなんです」

ルーシー「もちろん、私もニック・ドレイクは大好きですね。実は、彼とは生まれ育った場所が同じで、友人や家族に知り合いがいるんですけど、彼らから聞いた話によれば、ニックはいつも〈自分の音楽を誰も好きでいてはくれていない〉っていうふうに感じていたそうなんですね。深い孤独や葛藤を常に抱えていて、そのなかからあんなに美しい音楽が生まれていた。誰かをハッピーにする音楽を作ることってとても大変だし、シンプルなことじゃないし、だからこそ深みもあるのだなと思っていますね」

ニック・ドレイクの72年作『Pink Moon』収録曲“Things Behind The Sun”
 

三船「確かに、簡単なことじゃないですよね。音楽の喜びと悲しみは、コインの裏表のように切り離せない。だからこそ、魂が浮くような感覚を音楽に求めているのかもしれないし、そこが音楽の魅力の一つでもあるんじゃないかと思いますね」

――ルーシーさんは、影響を受けた音楽をどんなふうにオリジナルなものへと昇華させていますか?

ルーシー「サウンドというよりは、レコーディング方法に影響を受けることが多いし、実際に憧れているミュージシャンのサウンド・プロダクションを真似てみることはありますね。例えばニール・ヤングやジョニ・ミッチェルって、ものすごく勇敢なレコーディングの仕方をしているじゃないですか。クリックやメトロノームも使わず、オーヴァーダブも一切なしの一発録りとか。そうすることで、その場で生まれたアトモスフィアをそのまま捉えようとしている。そういう部分には影響を受けていますね」

三船「ちょうど今朝、ジョニ・ミッチェルの『Blue』(71年)を聴きながらここに来たんだ」

ルーシー「それはヘヴィーなスタートね」

三船「そんなことないよ、今日は天気がいいし、とても気持ち良く聴けたよ(笑)」

ジョニ・ミッチェルの71年作『Blue』収録曲“A Case of You”
 

――先ほどジャック・ステッドマンの話が出ましたけど、ルーシーさんは18歳のときに地元ウォリックシャーからロンドンへ移住したそうですね。そこでジャックに出会ったことがキャリアのターニングポイントだったと思うんですが、彼のことをどう評価しているかをあらためて教えてもらえますか?

ルーシー「ジャック自身が東京からものすごくインスピレーションを得ている人ですよね。なので、彼を通して私も東京と深い繋がりがあるのかもしれない(笑)。ミュージシャン同士って、時にライヴァル意識を燃やしてしまうことってあると思うんですけど、彼はそんなところがまったくなくて。常に私のことを、心から応援してくれているんですよ。とにかく才能があって、人としても素晴らしい。ムカつくくらい完璧(笑)。今はこうしてソロで活動しているけど、〈70歳になったら、自分たちの軌跡を振り返るようなフォーク・ミュージック・アルバムを作ろうよ〉って彼が言ってくれたので、その日が来るのを楽しみにしています(笑)」

※後述されるミスター・ジュークス名義での作品『God First』は日本のジャズ喫茶にインスパイアされた

三船「ジャックの新しいアルバムは聴いた?」

ルーシー「『God First』でしょう? 素晴らしいよね。彼は確か〈サマソニ〉に来てた?」

三船「そうそう、僕は残念ながらライヴを観ることができなかったけど」

ルーシー「初めて来日したときは〈ここに行ったほうがいいよ〉っていろんなアドヴァイスをくれたの。ほんと、日本のどこに行っても彼の残り香がある(笑)」

三船「まさに彼は〈日本オタク〉だよね(笑)。僕はまだ会ったことがないんだけど、いつかゆっくり話をしてみたいな」

ルーシー「きっと楽しいと思うよ」

ミスター・ジュークスの2017年作『God First』収録曲“Grant Green”
 

――三船さんのROTH BART BARONは、今年UKレコーディングのため渡英して、そこでボンベイ・バイシクル・クラブのメンバーとも知り合ったそうですね。UKでの活動について語ったReal Soundのインタヴューで三船さんは、〈今何かが起きているのはやっぱりヨーロッパ〉とおっしゃっていましたが、それについてもう少し具体的にお話ししてもらえますか?

三船「今年5月にロンンドンへ行って、一か月ほど滞在したんです。その時にちょうどルーシーは南米ツアーに出ていたので、残念ながら会えなかったんですけど。で、ちょうど僕らが滞在中に、マンチェスターのアリアナ・グランデのライヴ会場で、例のテロ事件が起きてしまって。ロンドンの街も、一瞬で暗いムードになったのを感じたんです。日本では今までほとんどテロが起きたことがないから、電車は毎日時間通りに来るし、清潔だし、セキュリティーも万全で。すべてのシステムが一見完璧に見えるし、世界中の人々が求めているものを持っているのかもしれない」

――そうですね。

三船「もちろん、日本も見えないところでたくさん問題を抱えてはいるんですけど、そんな一見完璧なシステムのなかで、失敗しない生活を送っていることが、時々つまらなく不安にさえ感じるんですよね。〈俺は本当に生きているのか?〉って。でも、そういう考え方がロンドン滞在中のテロによって、ハンマーで打ち砕かれたような気持ちになったんです。テロの被害に遭った人たちのインタヴューとか、ラジオで聞くたび本当に堪えてしまって。〈自分に何ができるだろう?〉って真剣に考えたんですけど、最終的に目の前にある自分の音楽が、唯一できることだと思って。同時に、クラウドファウンディングで僕らをサポートしてくれた方たちのことが頭に浮かんで来て、それで続けることができたんですよね」

※今回のUKでの活動は、クラウドファンディングサイトのCAMPFIREで集めた資金を基に行われた

ROTH BART BARONがロンドンでレコーディングした新曲“dying for”
 

ルーシー「そうだったんだね。私自身、ロンドンに住んでいていちばん誇りに思うのは、やはりマルチカルチュラルな街だということなんです。本当にいろんな人が暮らしていて、例えば地下鉄に乗っても本当にさまざまな人種の人たちが乗り合わせている。そこがロンドンの素晴らしいところだと思うし、例えば今回のようなテロが遭ったとしても、人種間の歪みが起きるようなことはほとんどなくて、悲しみをみんなで共有し、乗り越え、より強くなろうとする。そういう姿を見ていると、私はロンドンに住んでいて良かったと心から思いますね」

ルーシー・ローズの2017年作『Something's Changing』収録曲“Moirai”のロンドンでのセッション映像

 

歌詞とメロディーだけで成立する強い楽曲を、自分1人で作り上げることがテーマだった

――ルーシーさんの新作『Something’s Changing』を聴いても、フォークのみならずいろいろな音楽性を吸収した音楽のように思います。例えば“Second Chance”という曲にはソウル・ミュージックからの影響も強く感じました。

ルーシー「そうですね。例えばキャロル・キングは、フォークとソウルを融合させた音楽を作っていましたよね? 60年代のシンガー・ソングライターには、そういった側面を併せ持った人は多かったと思うんです」

ルーシー・ローズの2017年作『Something's Changing』収録曲“Second Chance”
 

――確かに。ジェイムス・テイラーやローラ・ニーロ、ジュディ・シルあたりはそうですね。あと、ちょっとポール・ウェラーにも通じるような気がしたんですよ、『Wild Wood』(93年)の頃の。

ルーシー「ほんとに(笑)? あ、でもなぜ私の音楽を彼が〈好き〉って言ってくれるのか、今の話でわかった気がする。あと、うちの親がモータウンを聴いていたのも影響されているのかも。ウェラーはノーザン・ソウルの大ファンですものね。うん、今の見解はとってもおもしろいわ」

ポール・ウェラーの1993年作『Wild Wood』収録曲“Wild Wood”
 

――三船さんの『Something's Changing』についての感想を聞かせてもらえますか?

三船「前回のライヴでも“Moirai”はやっていて、それを覚えてたから個人的に盛り上がりました(笑)。アルバム全体としては、これまでの延長線上にあるアコースティックなサウンドだけど、よりナチュラルに、よりシンプルに曲を作っているなと思いました。確か、南米ツアーからインスピレーションを受けたと聞いたけど」

ルーシー「そう。ソロでツアーを始めたのが今回は大きかった。バンド編成じゃないから音数も少ないし、〈つまらないギグになってしまうんじゃないか〉っていう心配が、最初のうちはあったんです。でも、ツアーを続けていくうちに徐々に自信も勇気も湧いてきて。自分が作る曲そのものを強いものにしていこうというのが、今作の方向性になりましたね。サウンド・プロダクションに凝ったり、ノイズを導入したりすることで、カッコよくてエッジーなサウンドにすることも出来たのかもしれないけど、まずは歌詞とメロディーだけで成立する強い楽曲を、自分1人で作り上げるというのが大きなテーマでした」

三船「ライヴ前に流していたショート・ドキュメンタリーでも語られていましたけど、長いツアーをくぐり抜けて生み出した本作は、まさしくルーシー自身の奥底が見えるような、正直なアルバムだと思いましたね。個人的には、今までの作品のなかでいちばん好きです」

ルーシー「どうもありがとう! 今日は本当に楽しかったわ」

三船「こちらこそ。ありがとう!」

ルーシー・ローズの2017年作『Something's Changing』収録曲“Floral Dresses ft. The Staves”
 

■ROTH BART BARON
新曲“dying for”、本日10月4日(水)に配信スタート!
“Demian(UK mix)”、“ATOM(UK mix)”、好評配信中!

Live Information
10月8日(日)〈朝霧JAM〉富士山麓朝霧アリーナ・ふもとっぱら
10月21日(土)〈noid presents “Magical Colors Night” in Tokyo〉東京・新代田FEVER
11月9日(木)〈EP release party "dying for”〉東京・新代田FEVER
12月23日(土・祝)〈Live at "文翔館”〉山形県郷土館「文翔館」議場ホール

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