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コートニー・バーネットに続く逸材! ポップでパンクな元気娘アレックス・レイヒーから歩む、オーストラリア最新音楽地図2017

アレックス・レイヒー『I Love You Like A Brother』

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  • 2017.10.18
Photo by Kane Hibberd

 

海外の音楽シーンを熱心に追いかけているリスナーであれば、ここ数年のオーストラリアがいかに素晴らしいアーティストの宝庫だったかは実感していることだろう。いまや巨大フェスのヘッドライナーも射程圏内となったテーム・インパラは言わずもがな、〈元インパラ〉のニック・オールブルックが率いるポンド、彼らの出身地でもある地球でいちばん美しい街パースから飛び出したメチル・エチルといったギター・バンドに、フルームやニック・マーフィーのようなエレクトロニカ系のプロデューサーまで、その充実ぶりは何度目かの黄金時代を予感させる。もちろん、アヴァランチーズの16年ぶりの復活も忘れがたいサプライズだった。

そして何と言っても注目すべきなのが、第58回グラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされた稀代のリリシスト=コートニー・バーネットの登場を経て、百花繚乱の様相を呈しつつあるシンガー・ソングライター(以下、SSW)の存在である。そこで今回は、10月18日にリリースの『I Love You Like A Brother』でデビューを飾るアレックス・レイヒーを主人公に、彼女の生の言葉を借りながら、豪州シーンの〈いま〉を彩るSSWたちをご紹介していこう。

ALEX LAHEY I Love You Like A Brother Dead Oceans/Hostess(2017)

 

ポップ・パンクにも通じるサウンドが武器の才媛、アレックス・レイヒー

現在25歳、かつて99年製のブルーのトヨタカローラに乗っていたというアレックス・レイヒーは、オーストラリア第二の都市として知られるメルボルン出身。13歳のときからギターを手に独学で作詞・作曲を始めていたそうで、高校時代には気の合う男友達と組んだ7人組のポップ・ファンク・バンド、アニモーでヴォーカル/アルト・サックスを担当し、大学ではジャズ・サックスを専攻していたという経歴の持ち主だ。

アニモーの2013年のスタジオ・ライヴ映像。楽曲はパッション・ピット“Little Secrets”のカヴァー
 

しかし、厳格な教育環境で学ぶことに違和感を抱き大学をドロップアウトすると、大好きな歌とギターを猛特訓。その才能は早くも開花し、2016年に5曲入りのEP『B-Grade University』(自虐的なタイトルもナイス!)を自主レーベルからリリースするやいなや、Bサイドのシングル曲“You Don’t Think You Like People Like Me”がPitchforkでベスト・ニュー・トラックに選ばれるなど、国内外の音楽メディアがこぞって絶賛したのである。〈もし私がアイビー・リーグの女のコだったら、もっとバイトのシフトに入れてもらえると思う?〉とぼやく“Ivy League”の劣等感あふれるユーモラスな歌詞や、ファズまみれで痛快なギター・サウンドの融合から、誰もがコートニー・バーネットに続く逸材としてアレックスを取り上げた。

〈コートニーはオーストラリアから生まれた素晴らしいアーティストだし、私もすごく大好きなアーティストなの。だから良心的な比較だと思うし、光栄だわ。2人とも〈ありのまま〉の自分でいることを大事にしているアーティストだと思うんだけど、実際に彼女に会って話したことはないからわからない。でも、もしかしたら共通点がいっぱいあるのかもしれないね〉

※以下、文中の発言は筆者がライナーノーツ執筆時に行ったインタヴューより引用

その後のアレックスはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、オーストラリアでもっとも影響力のあるラジオ局〈Triple J〉でのヘヴィー・ローテーション獲得を皮切りに、国内最大級の音楽フェス〈Splendour In The Grass〉に出演し、ストロークスらと並んでメイン・ステージのトップバッターを務め上げた。今年2月には憧れのティーガン&サラのサポート・アクトとして自身初のUKツアーを敢行し、続く4月にはなんと、地元で開催されたシンディ・ローパー&ブロンディのジョイント・ツアーで前座も務めたのだから驚きである。そんな大舞台での経験もプラスに働いたようで、この度、デッド・オーシャンズから届けられたファースト・アルバム『I Love You Like A Brother』には、メソメソしたバラードなど皆無。イントロからわずか1分でオーディエンスを爆発させるオープナー“Every Day's The Weekend”を筆頭に、もはや全編が拳を突き上げてシンガロングしたくなるパンチラインの応酬だ。

本作を象徴するアンセミックな一体感と突き抜けたサウンドは、グリーン・デイやブリンク182、オフスプリングといったポップ・パンクの系譜に連ねて語ることも可能だろう。〈高校生の時にいちばん好きだったバンドはヤー・ヤー・ヤーズだった。ベタなロックンロールも大好きで、部屋の壁にずっとラモーンズのポスターを貼っていたの!〉と豪語するだけあって、彼女が奏でる音楽には、そんじょそこらのバンドマンも顔負けのエネルギーが漲っている。もちろん、遠距離恋愛の恋人が暮らしていたパースへの愛憎を歌った“Perth Traumatic Stress Disorder”や、元カレの口癖だった〈どうせ33歳で死ぬんだから〉というジョークをさりげなく織り込んだ“Backpack”など、ウィーザーのリヴァース・クオモすら引き合いに出される歌詞世界も存分に堪能してほしい。

 

コートニー・バーネットを中心に広がる、豪州シーンの新たな見取り図

〈特にアルバムの青写真とかコンセプトは無かったのよ〉と語るアレックスだが、この良い意味でウェルメイドかつ取っ付きやすいプロダクションは、プロデュースからエンジニアリング、ミキシング、さらに楽器演奏まで手がけたオスカー・ドーソンの功績が大きいはずだ。

彼は2010年までベルリンを拠点に活動していた豪州バンド、デュークス・オブ・ウィンザーのギタリストで、現在はホーリー・ホーリーというユニットを率いるメルボルン・シーンの重要人物。初期のミシェル・ブランチを彷彿とさせるSSW、アリ・バーター(彼女は『I Love You〜』にもコーラスで参加)のデビュー・アルバム『A Suitable Girl』(2017年)をプロデュースしているほか、先述の『B-Grade University』のレコーディングも全面的にバックアップするなど、アレックスの良き理解者であると同時に、SSWの魅力を引き出すのが本当に上手い。では、メルボルンで暮らすアレックスにとって、オーストラリアの音楽シーンはどんな刺激があるのだろうか?

ホーリー・ホーリーの2017年作『Paint』収録曲“True Lovers”
アリ・バーターの2017年作『A Suitable Girl』収録曲“Please Stay”
 

〈私自身もすごくエキサイティングだと思ってるわ。なかでもジュリア・ジャックリンは大好きで。彼女とは友達でもあるんだけど、素晴らしいソングライターでありパフォーマーだと思っているから、海外でも認知度が上がってきたことが自分のことのように嬉しい。私が知ってるメルボルンのアーティストでオススメなのは、私の友人でもあるアイリッシュ・ギリガン(Eilish Gillian)。彼女はエレクトロニクスを上手に取り入れた音楽を作るんだけど、作る曲作る曲、絶対みんなにウケるだろうなって曲を生み出すの。あと、ミドル・キッズっていうシドニーの3人組もとても良いバンドよ〉

ジュリア・ジャックリンの2017年の楽曲“Eastwick”
アイリッシュ・ギリガンのパフォーマンス映像
ミドル・キッズの2017年作『Middle Kids』収録曲“Your Love”
 

そしてオーストラリアといえば、真打ちのコートニー・バーネットもアレックスとほぼ同時期に新作をリリースする。それも、米フィラデルフィア出身の長髪の吟遊詩人=カート・ヴァイルとのコラボ・アルバムという、これ以上ないほど理想的な組み合わせだ。その作品『Lotta Sea Lice』には、ダーティー・スリーのジム・ホワイトとミック・ターナーをはじめ、近年はPJハーヴェイのツアーにも帯同するミック・ハーヴェイといった〈ニック・ケイヴ人脈〉のレジェンドが参加しているだけでなく、ウォーペイントのステラ・モズガワ(実は彼女もシドニー出身)も3曲でドラムを叩いている。先述したアレックスの発言や、『Lotta Sea Lice』のクレジットを頼りに、彼らのディスコグラフィーをディグってみるのもおもしろいだろう。

コートニー・バーネット&カート・ヴァイルの2017年作『Lotta Sea Lice』収録曲“Continental Breakfast”
 

ここまで、本稿ではあえて〈女性シンガー・ソングライター〉という言葉を使ってこなかったが、優れた音楽を前に人種や性別でバイアスをかけることほど野暮なことはない。以前、メルボルンを拠点とするフォーク・ロック・シンガーのジェン・クロアーが、音楽業界において女性がいかに不平等な扱いを受けてきたのかを発信した文章が話題になったのだが、アレックスも〈音楽を作るうえで自分のジェンダーを打ち出すつもりはないし、関係ないじゃん、と思ってる〉と、彼女の声明を支持するひとりだ。

コートニーのファンには言うまでもないが、そのジェンこそがコートニーの恋人であり、上に貼った“Continental Breakfast”のビデオにも登場している。彼女はコートニーが主宰するレーベル〈ミルク!〉のマネージャーも務めており、メルボルン・シーンにおけるゴッドマザー的な存在だと思ってもらえば良いだろう。〈ミルク!〉にもフレイザー・A・ゴーマン(Fraser A. Gorman)、ジェイド・イマジン(Jade Imagine)、ハチク(Hachiku)といった魅力的なSSWが多く在籍しているので、この機会にチェックされたし。お互いのビデオにカメオ出演することも多いようで、彼らの人間性やレーベル内の温かなヴァイブスも垣間見える。

ジェン・クロアーの2017年作『Jen Cloher』収録曲“Forgot Myself”
 
フレイザー・A・ゴーマンの2015年作『Slow Gum』収録曲”Book Of Love”
 

そういえば、職業作家から押しも押されぬポップ・スターへと転身を遂げたシーアもまた、オーストラリアのアデレード出身。日本と同じく孤立した国でありながら、J-Popのようにガラパゴス化することなく、常に欧米のシーンとの同時代性が感じられるのは、やはり英語圏ならではの強みなのかもしれない。あなたもぜひ、深くて広〜いオーストラリア音楽の沼にハマってみてはいかがだろうか?