Photo by Kane Hibberd

海外の音楽シーンを熱心に追いかけているリスナーであれば、ここ数年のオーストラリアがいかに素晴らしいアーティストの宝庫だったかは実感していることだろう。いまや巨大フェスのヘッドライナーも射程圏内となったテーム・インパラは言わずもがな、〈元インパラ〉のニック・オールブルックが率いるポンド、彼らの出身地でもある地球でいちばん美しい街パースから飛び出したメチル・エチルといったギター・バンドに、フルームやニック・マーフィーのようなエレクトロニカ系のプロデューサーまで、その充実ぶりは何度目かの黄金時代を予感させる。もちろん、アヴァランチーズの16年ぶりの復活も忘れがたいサプライズだった。

そして何と言っても注目すべきなのが、第58回グラミー賞で最優秀新人賞にノミネートされた稀代のリリシスト=コートニー・バーネットの登場を経て、百花繚乱の様相を呈しつつあるシンガー・ソングライター(以下、SSW)の存在である。そこで今回は、10月18日にリリースの『I Love You Like A Brother』でデビューを飾るアレックス・レイヒーを主人公に、彼女の生の言葉を借りながら、豪州シーンの〈いま〉を彩るSSWたちをご紹介していこう。

ALEX LAHEY 『I Love You Like A Brother』 Dead Oceans/Hostess(2017)

 

ポップ・パンクにも通じるサウンドが武器の才媛アレックス・レイヒー

現在25歳、かつて99年製のブルーのトヨタカローラに乗っていたというアレックス・レイヒーは、オーストラリア第二の都市として知られるメルボルン出身。13歳のときからギターを手に独学で作詞・作曲を始めていたそうで、高校時代には気の合う男友達と組んだ7人組のポップ・ファンク・バンド、アニモーでヴォーカル/アルト・サックスを担当し、大学ではジャズ・サックスを専攻していたという経歴の持ち主だ。

アニモーの2013年のスタジオ・ライヴ映像。楽曲はパッション・ピット“Little Secrets”のカヴァー

しかし、厳格な教育環境で学ぶことに違和感を抱き大学をドロップアウトすると、大好きな歌とギターを猛特訓。その才能は早くも開花し、2016年に5曲入りのEP『B-Grade University』(自虐的なタイトルもナイス!)を自主レーベルからリリースするやいなや、Bサイドのシングル曲“You Don’t Think You Like People Like Me”がPitchforkでベスト・ニュー・トラックに選ばれるなど、国内外の音楽メディアがこぞって絶賛したのである。〈もし私がアイビー・リーグの女のコだったら、もっとバイトのシフトに入れてもらえると思う?〉とぼやく“Ivy League”の劣等感あふれるユーモラスな歌詞や、ファズまみれで痛快なギター・サウンドの融合から、誰もがコートニー・バーネットに続く逸材としてアレックスを取り上げた。

「コートニーはオーストラリアから生まれた素晴らしいアーティストだし、私もすごく大好きなアーティストなの。だから良心的な比較だと思うし、光栄だわ。2人とも〈ありのまま〉の自分でいることを大事にしているアーティストだと思うんだけど、実際に彼女に会って話したことはないからわからない。でも、もしかしたら共通点がいっぱいあるのかもしれないね」。

※以下、文中の発言は筆者がライナーノーツ執筆時に行ったインタヴューより引用

その後のアレックスはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いで、オーストラリアでもっとも影響力のあるラジオ局〈Triple J〉でのヘヴィー・ローテーション獲得を皮切りに、国内最大級の音楽フェス〈Splendour In The Grass〉に出演し、ストロークスらと並んでメイン・ステージのトップバッターを務め上げた。今年2月には憧れのティーガン&サラのサポート・アクトとして自身初のUKツアーを敢行し、続く4月にはなんと、地元で開催されたシンディ・ローパー&ブロンディのジョイント・ツアーで前座も務めたのだから驚きである。そんな大舞台での経験もプラスに働いたようで、この度、デッド・オーシャンズから届けられたファースト・アルバム『I Love You Like A Brother』には、メソメソしたバラードなど皆無。イントロからわずか1分でオーディエンスを爆発させるオープナー“Every Day's The Weekend”を筆頭に、もはや全編が拳を突き上げてシンガロングしたくなるパンチラインの応酬だ。

本作を象徴するアンセミックな一体感と突き抜けたサウンドは、グリーン・デイやブリンク182、オフスプリングといったポップ・パンクの系譜に連ねて語ることも可能だろう。「高校生の時にいちばん好きだったバンドはヤー・ヤー・ヤーズだった。ベタなロックンロールも大好きで、部屋の壁にずっとラモーンズのポスターを貼っていたの!」と豪語するだけあって、彼女が奏でる音楽には、そんじょそこらのバンドマンも顔負けのエネルギーが漲っている。もちろん、遠距離恋愛の恋人が暮らしていたパースへの愛憎を歌った“Perth Traumatic Stress Disorder”や、元カレの口癖だった〈どうせ33歳で死ぬんだから〉というジョークをさりげなく織り込んだ“Backpack”など、ウィーザーのリヴァース・クオモすら引き合いに出される歌詞世界も存分に堪能してほしい。