INTERVIEW

ポリキャット―山下達郎ら日本産アーバン・ポップス愛するバンコクからの新たな刺客に金澤寿和(Light Mellow)が迫る

ポリキャット『土曜日のテレビ』

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  • 2017.10.27
ポリキャット―山下達郎ら日本産アーバン・ポップス愛するバンコクからの新たな刺客に金澤寿和(Light Mellow)が迫る

日本のシティー・ポップやAORの大ファンを公言するタイ・バンコク在住のシンセ・ポップ・トリオ、ポリキャット(POLYCAT)。彼らが10月11日にリリースした日本デビュー盤『土曜日のテレビ』を引っ提げた来日ツアーを開催中だ。公演では日本語詞曲も収録された同作からのナンバーはもちろん、山下達郎“Someday”など彼らがリスペクトする日本産の楽曲のカヴァーを披露するなどファンを大いに魅了しているそうだが、ツアーもいよいよ明日10月28日(土)、東京・代々木公園でおこなわれる〈earth garden ”秋” 2017 第13回代々木クラフトフェア〉でのステージが最後となる。

ここでは最終公演を目前に、音楽ライターの金澤寿和氏がポリキャットへ行ったメール・インタヴューを掲載。数々のアルバムやコンピ作品をリリースしている〈Light Mellow〉シリーズのプロデュースに、〈AOR Light Mellow〉や「Light Mellow 和モノSpecial」などの書籍の著者としても知られ、日本一AOR~シティー・ポップを知り尽くしているとも言える氏に、彼らの音楽性の旨味を紐解いてもらっている。これを読んで興味を持った人はぜひ明日のライヴに足を運んでみてほしい。 *Mikiki編集部

(左から)トング(ギター)、ナ(ヴォーカル/シンセサイザー)、ピュア・ワタナベ(ベース)

 

タイの音楽シーンは隆盛期。僕らはオールドスクールなシンセ・ポップを演っているし、どちらかというとインディー路線かな

山下達郎や角松敏生など、ソウルやファンクの香りがする和モノの都市型ポップスに影響を受けたアジアの若手インディー・グループが、昨今注目を集めつつある。先陣を切ったのは、インドネシアから登場したイックバル。既にtofubeats、Negicco、Especia、スカート、星野みちるらと共演を果たして着々と支持を広げているが、その後を追うように、今度はタイ・バンコクからニューカマーが現れた。80s感覚のシンセ・ポップを今様にアップデートした3人組、ポリキャットである。結成は2011年。

「チェンマイのパブでよく演奏する仲間だったんだ。ある時、たまたま映画〈ハングオーバー! 2〉に出演するチャンスがあって、それから自分たちの楽曲でデモを制作するようになった。それがバンドのスタートだよ」

タイでは既に2枚のアルバムを発表し、2作目『80 Kisses』(2016年)がヒット。インディー・バンドの枠を飛び越し、世代を跨いで支持を広げているそうだ。タイ国内の音楽フェスにも多く出演し、ライヴ・バンドとしての実力を蓄えつつある。

「『80 Kisses』は、僕らもあそこまでヒットするなんて予想していなかった。最初のアルバム『05:57』(2012年)も、セールス的にはあまり良くなかったからね。『80 Kisses』も似たようなセールスだろうと思っていたんだ。でも、蓋を開けるとそうじゃなかった。だから、僕らにとってあのアルバムは、僕らの期待を良い意味で大きく裏切ってくれた最高のアルバムなんだ」

不勉強にしてタイで発売されているアルバムは聴いたことはないが、きっとメンバーの成長ぶり以上に、彼らを取り巻くシーンが急速に変貌を遂げ、受け入れ側の準備が整ってきたのではないか。要するに、需要と供給のバランス、タイミングが合ってきた、ということである。彼らのPVがYouTube で再生回数1000万回を超えたというのは、まさしくその証左だ。

2016年作『80 Kisses』収録曲、再生回数が1000万回を超えた“Teardrops”
 
同アルバム収録曲“Friday On The Highway”
 

東南アジアではシンガポールがかなりの音楽都市として知られ、また近年ジャカルタではエリア最大級の音楽イヴェント〈Java Jazz Festival〉が開催されているが、果たしてタイの音楽シーンはどのようになっているのだろうか?

「今のタイの音楽シーンは隆盛期と言えると思う。いろいろなジャンルの音楽で溢れているから。大きく分けるとポップ・ミュージックとタイのカントリー・ミュージックがメインで流行っているね。ただ、そのカントリー・ミュージックの新世代が、いま着々と人気を獲得している感じだよ。メイン・ストリームには食い込まないけれど、ヒップホップもインターネットを通じて徐々に認知されている。僕らはどちらかというとインディー路線だね。レーベルもそうだし、オールドスクールなシンセ・ポップを演っているし。でも僕らに近いアーティストは、THE TOYSやLOOK PEACH、TELEXTELEXDCNXTRなど、結構存在しているんだ」

前述した、ポリキャットに先駆けて日本デビューしたイックバルの存在は知っているのだろうか?

「知らなかったから、いま調べたよ。たぶん僕らと似たような音楽性だよね。すごく好きだな。コード進行とヴォーカルの声がすごくイイね」

イックバルの2014年の初作『Amusement Park』収録曲“Chasing Your Shadow”
 

これまでにJ-Popのカヴァーを少なからず取り上げているイックバルだが、自身のオリジナル曲に日本詞を載せたのはポリキャットの方が先。日本デビュー盤『土曜日のテレビ』収録曲のうち4曲は、誰もがビックリ、シッカリした日本語で歌われている。

「最初のアイデアでは、タイ語で歌うシティー・ポップだったんだ。だけど、レーベル・オーナーの助言で、〈日本らしい音楽をやるのに、なぜ日本語で歌わないんだい?〉って訊かれてね。〈確かに!〉って僕らは思ったんだ。だから日本語で歌ったんだよ」

なるほど、日本に住んでいるとあまりわからないが、東南アジアの音楽マーケットに於いて、日本がどのようなポジションにいるのかが伝わってくるエピソードだ。韓流のように芸能チックなメジャー・アーティストたちとは大きく違うインディー・シーンで、しかし彼らは地に足がついた歌をカジュアルに歌い、同世代からの共感を得ようとしている。少し前であれば、彼らはきっとガレージ系のオルタナティヴなポップ・ロックを演っていたことだろう。それがいまでは、シティー・ポップやAORになっている。日本ほどではないが、アナログ・レコードを愛でるリスナーたちも少なからずいるそうだ。歌詞はまずヴォーカルのナ(RATANA JANPRASIT)が最初にタイ語で書き、それを日本語に翻訳しているそう。

 

J-Popは僕らにとって自己表現みたいなもの

それでは、日本のシティー・ポップスのどんなところに惹かれているのだろうか?

「日本の音楽文化は物凄く独自路線を行っていると、僕らは考えているんだ。とても興味深いよ。例えばアメリカの70年代から80年代のソフト・ロックやAORといったジャンルの音楽を、日本ではうまく採り入れて、新たなジャンルとして確立している。まさに僕らが好きなシティー・ポップといったジャンルがそうだよね。僕たちが所属しているレーベル、スモールルームでは渋谷系の楽曲をプロデュースしているし。とにかく、J-Popは僕らにとって自己表現みたいなものと言えるんだ」

ナのフェイヴァリット・アルバムを訊いてみると、山下達郎『RIDE ON TIME』、安全地帯『安全地帯IV』、カシオペア『MINT JAMS』、久保田利伸『SHAKE IT PARADISE』といったあたりが挙がってきた。今回の来日ライヴでも、山下達郎“Someday”と久保田利伸with NAOMI CAMPBELL“La La Love Song”など、日本語のカヴァー・ソングを用意し、ヤンヤの喝采を浴びたと聞く。アルバムを聴いてさらに思い浮かべるのは、角松敏生や大沢誉志幸、吉田美奈子、EPO、中原めいこ、杉山清貴&オメガトライブなど、その多くは80sのアーバン・スタイルを取り入れたアーティストたち。主なキメ手はポリフォニックな広がりのあるシンセサイザー群と、やや(イヤ、かなり?)チープなリズム・プログラミング。音はリヴァーブ感たっぷりながら、あまり奥行きがなく、立体感には乏しい。東南アジア圏の文化というと、ちょうど日本の昭和の時代に通じるモノがあるが、彼らの楽曲にはそうしたヴィンテージなサウンド、懐かしいテイストや空気感が蔓延しているのだ。だから当時をリアルに知る世代はノスタルジーを刺激され、メンバーと同じ世代はその手作り感覚を〈いままで体感したことがない〉とフレッシュに受け止める。

ポリキャットの2015年のライヴ映像
 

少し甘くナイーヴさを孕んだヴォーカル、美麗ながらも儚いコーラス・ハーモニー、そして耳馴染みの良いキャッチーなメロディー・ラインも、ポリキャットの大きな魅力だ。例えば、宅録で音楽制作に目覚めた人が、同朋を集めてバンド遊びを始めたような……。そんな身近さ、親近感がココにはある。

筆者が個人的に思い浮かべたのは、ビートルズのオーケストラ・アレンジを手掛けていた英国のポップ職人、リチャード・アンソニー・ヒューソンのシンセ・ポップ・プロジェクトであるラー・バンド。80年代前半にヒットを飛ばした彼らは、ブリティッシュ・ジャズ・ファンクの流れを汲んでいたが、砂原良徳が90年代に彼らのヒット曲“Clouds Across The Moon”(全英6位)をカヴァーし、クラブ方面で大きく再評価が進んだ。最近も星野みちるがこの曲をネタ化しており、時代の巡り合わせの妙を感じてしまう。聞くところによれば、ポリキャットのメンバーは他に、Suchmosやnever young beachなど同時代的に活躍している日本のグループにも興味を持ち、自分たちの音楽性にも反映させているとか。また日本以外の洋楽アーティストで影響を受けたのは、ナがマイケル・ジャクソン、プリンス、スティーヴィー・ワンダー。ピュア・ワタナベ(PURE WATANABE)は、ビートルズ、ボブ・マーリー、オーストラリアのテーム・インパラ。そしてトング(Tong、PARAGORN GUNJINA)は、ジャスティスやアンダーソン・パーク、フランスのオンラーを挙げてくれた。世代的にマイケルやプリンスは当然だろうが、ビートルズからアンダーソン・パークまで、その嗜好性の幅広さには驚かされる。それぞれが活躍する時代には40年、50年の開きがあろうとも、彼らのようなジェネレーションには、すべてが同時代の聴いた音楽として耳に入るワケだから、何処かで一本の線に繋がっているのは間違いない。

ラー・バンドの85年のシングル“Clouds Across The Moon”
 

さて、日本デビュー盤となる『土曜日のテレビ』。アルバム・タイトルが謎だが、それはタイでは日本のアニメを毎週土曜日の朝に放送しているからとか。そして収録曲7曲中4曲が日本語で歌われるナンバー。残り3曲が、アルバム『80 Kisses』には入っていたタイ語詞の楽曲をチョイスし、エクステンデッド・ヴァージョンで収めている。この新曲群と『80 Kisses』からのピックアップの違いは?

「やっぱり日本語で歌っている、ということに尽きるかな! あとはムードを出すために使ったサックスやトランペット、トロンボーンの音。フュージョンやファンク、ジャズの要素も採り入れてみたかったからね。ピュア・ワタナベの好きなバンドがカシオペアだから、その影響もあって、このアルバムの楽曲のハーモニーはすごく良くなったと思う。正確に言うと、彼はカシオペアの真似をした演奏をしているよ」

POLYCAT 土曜日のテレビ FABTONE(2017)

日本のシティー・ポップ系アーティストでカシペオアの影響を口にする人はほぼ皆無だと思うが、実はヨーロッパの若いAOR系アーティストたちの間では、彼らは意外なほど根強い人気がある。80年代中盤のカシオペアは、ちょうど海外進出に熱が入っていた時期で、アルバムのリリースのみならず、毎年のようにヨーロッパ・ツアーに出て、レヴェル42やシャカタク、アイスランドのメゾフォルテといった欧州勢のジャズ・ファンク・グループと肩を並べるほど結構な支持を得ていた。その頃ライヴに足を運んだり、レコードを買ったりしていたファンの息子・娘たち世代が、家にあったレコードを聴いてカシオペアのファンになったりしているらしい。おそらく同じ現象が、東南アジア主要エリアでも発生しているのだろう。ところが本国日本では、フュージョン・バンドというレッテルが邪魔をし、熱狂的ファン層を獲得している一方で、その支持の裾野は一向に広がらないジレンマを抱える。ポリキャットのメンバーのように、カテゴリーやイメージの固定概念を持たずにいることは、彼らの音楽的ルーツを探る意味で案外重要なコトかもしれない。

カシオペアの83年のライヴ映像
 

何より日本の若いシティー・ポップ・ファンは、親の影響で子供の頃からユーミンやら大滝詠一らの都会派ポップスを刷り込まれ、洋楽にも自然に慣れ親しんできた。学校ではアイドル全盛だったのに、少数派や孤立しがちな彼らはそれを横目で見ながら、数少ない同朋たちでヒソヒソと音楽を語り合ってきている。でもそれだけ耳が肥えているから、サウンドへのコダワリが強く、音楽愛も深い。そして近隣国からやってきたポリキャットやイックバルにも、そうしたコミュニティーに支持される要素が自然に備わっている。

「今回の来日には、最高に興奮しているんだ。日本の音楽文化には、日本人の誠実さが顕著に出ていると思う。日本では違法ダウンロードが少ないし、みんなちゃんとチケットを買ってライヴへ行くでしょ。タイでは残念ながら、日本とは真逆だから。だから、日本という国に来ることがとても楽しみだったし、日本にいる間に精一杯のことをやるつもりだ。ライヴではドラムとギターがサポートで付いてくれてるよ。僕らのライヴでは、いつもそうしているんだ」

J−Popの新しい潮流の一角を、アジアの同胞国からやってきた若手グループが担う。そんな傾向が生まれてきた昨今。最近はアイドルの影の仕掛け人が本格派のサウンド・クリエイターだったり、脱アイドル組がシティー・ポップをめざしたりすることも珍しくない。真の音楽ファンが望んでいるのは、使い捨てのコマではなく、より音楽的なアーティストがシッカリした活動を継続して展開していけること。ポリキャットはそうした海外参入組の、これから先頭を歩む好グループなのである。

 


Live Information
ポリキャット 来日ツアー

2017年10月28日(土)東京・代々木公園earth garden
〈earth garden ”秋” 2017 第13回代々木クラフトフェア〉
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