東京を拠点に活動し、2016年の〈フジロック〉では〈ROOKIE A GO-GO〉に出演するなど、この数年インディー・ファンからの注目が集まりはじめている5人組、Wanna-Gonna。まだ20代前半という若さながら、アメリカン・ルーツの芳醇な香りを匂わす彼らが、去る9月20日に初の全国流通EP『In the Right Place』をリリースした。同EPには、ザ・バンドやライ・クーダーら米音楽のレジェントたちを彷彿とさせるミッドテンポの“Three Miles”や、ウォー・オン・ドラッグスやウィルコらアメリカーナを刷新していくオルタナ・カントリー勢にも通じるドライヴィンなロック・チューン“Run High”など、血肉の通った演奏と蒼さを備えた歌声がまろやかに溶け合う6曲を収録。阿佐ヶ谷ロマンティクスや内村イタルら、彼らと近しいバンドのゲスト参加も効果的で、作品全体になんとも親密な空気が漂っている。

今回は、11月3日(金)より『In the Right Place』のリリース・ツアーをスタートさせる彼らにインタヴュー。ヴォーカリストの竹澤浩太郎とドラマー兼ソングライターである砂井慧を語り手に、彼らの音楽的な背景を掘り下げつつ、〈前に進むより核心へと近付きたい〉という、このバンド特有の矜持を炙り出した。

Wanna-Gonna In the Right Place gsp(2017)

 

まず〈コードと歌だけで純粋にいいもの〉を作りたい

――リリースからちょっと経っていますが、周囲の反応などはいかがですか?

竹澤浩太郎「そうですね。〈良い〉っていう反応がやっぱりいちばん嬉しくて、あと今作のツアーの京都公演ではラリーパパ&カーネギーママが新ユニットのR&C FOUNDATIONで出てくれるんですけど、出演オファーで声をかけたときに音源も渡したんですよ。その感想を、レーベル代表/マネージャーのMr. beansさんがブログに書いてくださって」

――そのブログ、読みました。〈バンド名、編成、音楽性。ラリーパパとの共通性を感じずにはいられなかった〉と書かれているなど、すごく褒められていましたね。最初、今作のリリパにラリーパパ&カーネギーママの新バンドでの出演を聞いたときは意外に思いましたが、音楽性をふまえると納得がいくし、すごくいい組み合わせだなと。

竹澤「ラリーパパは2011年に活動休止して、去年から本格的に再開しているんですけど、また始めたのは次の世代に繋げたいっていう思いがあったからだそうで。そのことをふまえて、〈やっと繋がってきた〉みたいなニュアンスで書いて下さっていて、嬉しかったです」

ラリーパパ&カーネギーママの2016年のライヴ映像
 

――Wanna-Gonnaの、ラリーパパにも通じているアメリカン・ルーツ・ロック的なサウンドは、どのように培われていったんですか?

竹澤「うーん。どうだろうね。こうやろうって決めたというよりはだんだんと……」

――2014年に出していた最初のEP(『Wanna-Gonna EP』)は、今みたいにルーツ志向というよりは、マック・デマルコやグループラヴなどを想起させるサイケ・ポップ的なサウンドでしたよね。なので、いつ変化したんだろう?と思っていました。

竹澤「まずは、〈コードと歌だけで純粋にいいもの〉を作ろうという意識になったんです。前はもっと雰囲気でシンセを鳴らしてみたいな面もあったんですけど、今は弾き語りで演奏しても良いものに、バンドで肉付けをしていくみたいな作業になってきたのかな」

砂井慧「他の4人はこのバンドを中学からやってるんですけど、僕が入ったのは4年前くらいなんですよ。大学生になって僕がドラムで入ったときは、パッション・ピットとかシンセ・ポップからの影響を感じさせるような音楽をやっていて。ただ、別に僕が入って変えたというよりは、タイミングとしてもちょうどバンドが舵を切るタイミングだったので、そこから5人で変化していったという感じですね」

――〈コードと歌だけで純粋にいいものをやろう〉というバンドとしての総意ができあがっていったのには、何かきっかけがあったんですか?

砂井「メロディーの立つものをやることに関しては、もしかしたら僕の加入が大きかったかもしれないですね。自分はそういう音楽が好きなので」

竹澤「当時のWanna-Gonnaには、なんとなく肉付けして、なんとなく良いという楽曲がたくさんあったけど、そういうなんとなく良いものと、本質的に良いものを見分けられる存在が砂井だったような気がします」

――砂井さんはベースの高山(静迪)さんと並んで、メインのソングライターかと思いますが、2人の楽曲の個性がはっきりしている点もおもしろいなと感じました。砂井さんの曲はメロディーが弾むアップテンポの楽曲が多いけれど、高山さんのはゆったりとしたバラードっぽい曲調が多い。

竹澤「砂井のほうがド直球にキャッチーな曲が書けるというイメージですね。高山の作るものは彼の人格もあるだろうけど、何か人間的な温かみとかを感じる楽曲が多いような気がします」

『In the Right Place』収録曲“Man in the Right Place”。砂井による作曲
 

――砂井さんの音楽的なルーツとしては、どのあたりになるんですか?

砂井「好きなのは……難しいな。結局いちばん好きなのは、ペイヴメントやビルト・トゥ・スピルとか90年代のオルタナですね。ウィルコもめちゃめちゃ好きですし、今のルーツ志向には、Wanna-Gonna全員がそうなんですけど、ヨ・ラ・テンゴやウィルコ、ペイヴメントあたりから入って、そのあとに彼らが影響を受けてきた音楽を遡っていって、ザ・バンドとかを聴くようになったことが大きいです。(USインディーの)ローファイと言われるようなバンドでも、曲だけ抜くと圧倒的に良いものが多いじゃないですか? 僕らはローファイではなく整ったものを作りたいとは思っていますけど、やっぱりああいう音楽がいいのは、大前提としてソングライティングが素晴らしいからだと思います。そこは自分たちが何をするにしても意識しておきたい点ですね」

――ペイヴメントにせよ、ウィルコにせよ、いびつなアンサンブルやユニークな音作りで肉付けされていますが、そもそも楽曲が良いですよね。

砂井「ペイヴメントのスティーヴン・マルクマスもウィルコも変拍子とかめちゃくちゃな要素を入れるときもあるけれど、それ自体をやりたいわけじゃないし、ちゃんと必要な所に入れていて、トータルとしてキャッチーという点が保たれているんですよね」

竹澤「そうだよね。それだけになると最悪なんだよね」

砂井「変なことをしたくて、そのままやっちゃうというのは個人的には嫌いですね。必要があって足していった結果、ものすごくいいメロディーとストレンジなリズムとかが組み合わさっているのが、マルクマスやウィルコとかの音楽だと思うので、自分たちもそういうスタイルでやっていきたいと思っています」

ウィルコの2016年作『Schmilco』収録曲“Someone To Lose”のパフォーマンス映像

 

音楽はそう簡単に前に進まない

――Wanna-Gonna初期にあたるサイケ・ポップ期のEPを聴いたときは、〈今っぽいインディー・バンドだな〉と思ったんですけど、今回の作品『In the Right Place』にはファッショナブルという意味での今っぽさからは解放されていて、アメリカン・ロックやクラウト・ロックなどを吸収しつつ、自分たちならではのサウンドを突き詰めてっているような印象を受けたんですよね。

砂井「ファッショナブルな音楽ではないと思います」

――ハハハ(笑)。

竹澤「ただファッショナブルなものはあんまり好きじゃないし、結果的に今はそうじゃないものになっているんじゃないかなと」

砂井「基本的に、いつの時代でも聴けるものを作りたいですし、だから新しいものも古いものもどちらも作りたくないんです。今にまで残っている昔の音楽っていうのは、数十年を経て聴かれ続けてきたわけで、僕らもそういうものを作りたいと思っていて。ただ、結構難しい話で、やっぱり音楽は新しいものを作ってなんぼっていうところもあるし」

竹澤「だから、懐古主義にもなりたくないってことだよね」

砂井「なんていうか……みんなは新しいものを作ろうとしたり、斬新なアプローチをしたりすると思うんですけど、音楽はそう簡単に前に進まないだろうとも思っているんです。新しいと思っていても、実はちょっとした方法を変えただけだったり、それですらないものだったりもするので。だから、自分たちは前に進むというよりも核心に近づくことをしたいんです」

――今作の“Run High”や自主製作のEP『THREE』に収録されていてライヴのハイライトにもなっている長尺の“Summer Work”などに顕著なスペイシーでサイケデリックな音像は、懐古的なバンドに見せないという点で貢献しているように思います。

竹澤「(そういったサウンドは)わりと自然発生的に出てきたものなんですよね。〈サイケデリックにしよう!〉って言ってやったというより、ジャムじゃないですけど、スタジオで演奏しているうちに、気が付いたらサイケになっていたという気がしていて」

砂井「スペースメン3とかは大好きですし、サイケだと思うんですけど、彼らは他人に向けてサイケをやっているというより、なんて言うんだろう……もはや自分のためでもないし、お客さんのためでもないし、なんかもう〈別の力〉みたいな感じがするんですよね。そういうものはすごく好きです」

2016年リリースの『BLOCK PARTY コンピレーション』に収録された“Run High”。『In the Right Place』では再録音されている
 

――ちなみに“Summer Work”や“Green Green Grass”とった現在のレパートリーになっている楽曲が今回収録から漏れたのには、何か意図があるんですか?

砂井「それらは(EPではなく)フル・アルバムに入れたいっていう気持ちがあって。今はミニ・アルバムとして、今のモードじゃないですけど、6曲それぞれを違うサウンドでまとめて、〈僕たちがWanna-Gonnaというバンドです〉という名刺代わりにしようと思ったんです」

“Summer Work”の〈フジロック〉でのライヴ映像

 

音楽や芸術は、日常生活の外にあってほしい

――Wanna-Gonnaは歌詞にもバンド特有のカラーがありますよね。架空の町を舞台に架空の登場人物がいて、そうしたキャラクターが観ている景色や風景を写した詞が多い。 〈好き〉〈辛い〉〈悲しい〉とか、そういう言葉を使わずに、目に見えるものから言葉にならないエモーションを作り出しています。

竹澤「私的な感情は聴いている人に持ってもらえば良くて、それを歌詞の段階で決めつけないようにはしています。聴き手に任せるっていうか」

――これが幸せな曲なのか悲しい曲なのかというのは……。

竹澤「そこも僕らが決めつけるまでもなく。〈風景を伝えたい〉というだけでもないんですけど、聴いた人がどう思うのかを限定しないという意味で〈私的なものを歌いすぎない〉ようにとは思っていますね」

――歌詞がメンバー間での共作が多いのも、そういった意識に関係していますか?

竹澤「そうですね。それは砂井が入る前からそうだったんですよね。彼が加入する前から、歌詞をみんなで書くというスタンスはありました」

――作り手のパーソナルな内面を刻み込んだ表現とは違うということですよね?

砂井「音楽や芸術は、日常生活の外にあってほしいんです。日々のことを表現した音楽は、それはそれで別にいいんですけど、僕としては日々の自分の生活に対して訴えかけてくるものじゃなくて、日々の生活の外にあるものであってほしくて。だから〈どう思った〉とか、そういう個人的な感情を入れちゃうと……。〈共感してほしくない〉というのもありますね。同じ気持ちなわけがないし」

竹澤「そうだね」

砂井「日常生活のなかのちょっとした喜びみたいなものを歌っているバンドは結構多いと思うんですけど、それはちょっと嫌だなというのはあって。そういったものよりもサイケというのにも関わってくるのかもしれないけど、〈非日常に連れて来ちゃって、もう帰さない〉ぐらいのものをやりたい。そういう気持ちも、私的なことを歌わないことには関係していると思います。日常にあるもの――例えば〈机〉と歌詞で言うにしても、芸術作品としてやるからには、日常にある机じゃなくて、一つの景色として存在する〈机〉であってほしい。生活に見えているものを表すにしても、どういう見え方なのかはいくらでも変えられるはずなので」

竹澤「そうですね。そこまで考えていたとは(笑)」

2016年のEP『THREE』収録曲“New Town”。『In the Right Place』では再録音されている
 

――ハハハ(笑)。最後に『In the Right Place』っていうタイトルに絡めて訊くと、Wanna-Gonnaというバンドは今〈Right Place〉にいると思いますか?

砂井「いや、まだいないと思います。作品で言えばまだまだ途中経過だし、満足できていない部分も大量にあるけど、そもそも〈Right Place〉に行こうとしていないバンドがたくさんいるように思ってるんで(笑)。だから、まず僕らの宣言として〈そういう所に行きたいんです〉というスタンスを表したいなと。そのスタンス自体は正しいだろうなと思うので、ある意味〈Right Place〉にいるんだという気もしますけどね」

竹澤「〈Right Place〉に行くにはまだ時間がかかるんですけど、そういう意思表示をしたっていう意味では、今回スタート地点を作れたとは思います。まずはもっとこの作品を広めていきたいし、〈認知してもらいたい〉って言ったらちょっと図々しいかもしれないですけど」

砂井「今の5人で集まって3~4年やってきて、いろいろと固まってきた結果、一つの成果として今作が出来た。ただ、曲の作り方もそうなんですけど、僕らは一人が引っ張っていく感じじゃなく、全員で〈どうする? どうする?〉っていうのを重ねていくやり方なので、〈Wanna-Gonnaではこれをやる/あっちはやらない〉みたいな暗黙のルールがどんどん出来てしまっているんです。ワンマンバンドだったらもう〈俺、今日これやるから〉ってバッと変えられると思うんですけど、僕らは〈これはやらない〉っていうルールがあって。それはそれでいいんですけど、ルールをもう一回精査して、〈これはやってみてもいいんじゃない?〉とか、ちょっとアプローチを変えていくということを次の作品までにはやりたいですね」

竹澤「確かに。これまでは絞る作業だったんですけど、裾野を広げるのはありだよね。アンダーグラウンドなシーンだけで完結しちゃうバンドもいるじゃないですか? そうはなりたくないなっていうのは正直あります。好きな人に届いてほしいし。良いものを作るのは当たり前ですけど、良いものを作って自分たちのなかだけで完結したいわけでは正直なくて。その結果こう……唯一無二の存在になっていけたらいいなと思いますね」

2016年のEP『THREE』収録曲“Green Green Grass”

 


Live Information

〈『In the Right Place』Release Tour〉
2017年11月3日(金・祝)京都nano
開場/開演 18:30/19:00
共演:阿佐ヶ谷ロマンティクス/R&C FOUNDATION(ex.ラリーパパ&カーネギーママ)
2017年11月5日(日)大阪CONPASS
開場/開演 16:00/16:30
共演:阿佐ヶ谷ロマンティクス/本日休演/メシアと人人
2017年11月19日(日) 宮城・仙台Shangri-la(イヴェント〈HONKY TONKY CRAZY〉に参加)
開場/開演 13:00
共演:ANNIK HONORE、car10、suueat.、すばらしか、プリマドンナ
2017年12月10日(日)東京・下北沢THREE
開場/開演 18:30/19:00
共演:阿佐ヶ谷ロマンティクス/すばらしか/Taiko Super Kicks
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