Page 2 / 2 1ページ目から読む

ありきたりな視点から逸れていくような音楽スタイル、充実の2017年を振り返る

――ここからは収録された全5曲について解説してください。まずは“Birthday Song”。このポップでキャッチーな感じは、前作にはなかったと思います。

「ピアノを刻む曲を作りたかったんですよね。デモはGarageBandを使ってエレクトロニカっぽい雰囲気で打ち込んで。あとは、自分がドラム・ソロを叩く曲が欲しくて、そこを結構メインで作った感じです」

――そのドラム・ソロがまた強烈ですよね。マシーナリーな響きで、ビート・ミュージックっぽさもある。

「そうですね。少しだけタムも入っているけど、基本はハイハットとスネア、バスドラの3点を使って、どんどん細かくしていくことをテーマに叩きました。いかにもドラマーっぽい演奏だけど、3周回ってイイみたいな(笑)。ドラマーのリーダー作だとソロを入れたがらない人が多いけど、敢えて間奏に入れることでエグみを出そうと思って」

――これまでのリーダー作では叩きまくるのを回避していたから、ちょっと意表を突かれましたね。でも、あくまで楽曲を引き立てることに徹したプレイだと思います。

「〈こんなに叩けるんだぞ〉みたいなのは、興味ないですからね。その一方で、ドラム・ソロの途中にニラン(・ダシカ)の吹くピッコロ・トランペットを入れたのは、ソロからちょっと耳を逸らそうという狙いがあって。あと、自分のなかではビートルズへのリスペクトもありますね。コード感もそうだし、音作りやピッコロ・トランペットを使っているのもそう」

――確かに“Penny Lane”っぽさもありますね。この曲でermhoiを起用した理由は?

「英語で女性ヴォーカルの曲にしたかったので、エリンちゃんがすぐ頭に浮かんで。歌や作詞に加えて、SEもやってくれたんですよ。よく聴くとスネアやシンバルを逆再生させた音が入っているし、ローズ(・ピアノ)にリヴァーブやディレイを重ねてボヤッとした響きにしたりと、曲全体のカラーリングも手伝ってくれました」

――2曲目は“Purkinje”。夕陽が沈んでから夜が訪れるまでの間に、視感度のズレが生じて、空気が青く染まって見えるのを〈プルキニエ現象〉と呼ぶそうですね。

「僕は見たことないけど、イメージは伝わりますよね。角さんは夏の部活帰りによく見ていたそうです」

――角銅さんに歌詞を書いてもらうとき、〈テーマは『プルキニエ』でよろしく!〉とお願いしたわけでもないだろうし、これが返ってきたときはびっくりしたんじゃないですか?

「そうですね。角さんに全部任せているから、なんというか……おもしろいですよね(笑)。やっぱり人よりいろんなものを感じ取っているんだろうな」

――言葉のセンスも尋常じゃないですよね。“Purkinje”の歌詞だと、どのラインが好きですか?

「(歌詞カードを指差して)やっぱりここじゃないですか」

網膜の視細胞 が 麻痺しだす時
どこまでもいけるかもね
頭が無重力になる時にまかせて
ねえ 青色の中に連れていって

――〈石若くんの曲は耳馴染みがいいけど、実際はメチャクチャ難しくて、こんな曲は演奏したことがない〉と西田くんが話していました。それこそ、この曲はいろんな変化が次々と起きていくじゃないですか。

「作っているときに完成形は考えていないんですよ。漫画や小説を書くのと一緒で、次の展開をどうしようと考えるときに、ありきたりな視点から逸れていきたくなる。ハーモニーもそういう作りをしていますね。普通だったらツーファイヴワンにするところを半降りにして、〈あれ?〉と思わせたりとか。そういう何か変でエグイんだけどキャッチーなものが自分のスタイルになったらいいなと」

――3曲目は“晴れた夜”。この曲のイントロは、くるり“ばらの花”へのリスペクトだと聞きました。

「まさにそうです。2009年の武道館ライヴがあって、そのときはスリーピースで演奏していたんですよ。原曲にはキーボードとかが入っているけど、そこではギターとドラムス、ベースだけで演奏していて。そのときのサウンドを意識しています」

――普段、石若くんはピアノで作曲しているんですよね。イントロのギター・フレーズはどうやって生まれたんですか?

「最初はメルドーのソロピアノみたいなイメージで、〈ジャンジャンジャン〉と鍵盤を連打して、パルスは一緒なのにハーモニーがだんだん変わっていくようにしたくて。でも、ライヴでやってみたら“ばらの花”っぽいと言われたので、そちらに寄せることにしました(笑)」

――前回のインタヴューでも、“Asa”はくるりの“グッドモーニング”に影響されたと話していましたよね。くるりの存在は自分にとって大きい?

「間違いないですね。〈日常に近い音楽〉というのかな、くるりの音楽にはいろんな匂いや味があるし。〈Songbook〉であんなふうにできたらなと思います。たくさんヒントをもらっていますね」

――この曲は西田くんのギターが特に素晴らしくて。イントロの演奏もそうだし、曲中の歪んだトーンもかなり選び抜いた感じがします。派手に弾きまくるんじゃなくて、〈響き〉や〈鳴り〉でアンサンブルを支えているというか。

「本人はかなり考え込んでいました、どうしようって。このニュアンスは誰にも出せないと思います。さっきも(取材前に)スタジオで“晴れた夜”を演奏してきたんですけど、西田くんがイントロを弾きだした瞬間に〈うわ、本物だ!〉って叫んじゃったもんな(笑)。それくらいワン・アンド・オンリーな感じ」

――“Room (shouganai)”は、角銅さんの歌とピアノ一台による厳かなナンバー。

「ジム・ブラックが昨年出したアルバム(『Constant』)の最後に、“Bill”という曲が入っていて。確か1920~30年代の歌曲で、それをピアノ・トリオで演奏しているんですけど、そのメロディーを耳で追っているうちに〈どうしようもない〉という言葉が頭に浮かんだんですよね。それで、僕もそんなふうに感じる曲を書こうと思って。それがサブタイトルの〈shouganai〉に繋がっています」

――最後の“Jazzfriendz”では、前作に引き続き小西くんのヴォコーダーが活躍している。

「この曲は『CLEANUP』に収録した、“わけもわからず歩くとき”に歌詞を付けたものです。僕のバックグラウンドにはジャズがあるし、実際にジャズを通じて多くの人に出会ってきた。小西もそうだろうから、それで〈ジャズはみんなを繋げる〉みたいな歌詞を書いてきたんだと思います。でも一方で、この曲を演奏することによって、〈友達ってなんだろう?〉と問い直しているところもありますね」

――今後は〈Songbook〉シリーズをどんなふうに発展させていきたいですか?

「いろんな意見があるんですよ、〈次はヒップホップにしたら?〉とか。でも何より、自分が好きなことだけをやる場所にしていきたい。3枚目以降も年イチペースで出すのでもいいし、5枚出す年があってもいいかもしれないし。誰に何を言われようと、このプロジェクトは自分が死ぬまで続けていきたいです」

――『Songbook100』をめざして。

「そこまで出せたらヤバイですね(笑)」

――最後に少し早いけど、2017年を振り返っていきましょうか。今年よく聴いたアルバムをいくつか教えてもらえますか。

「まずはマシュー・スティーヴンスの『Preverbal』。3曲目の“Undertow”は特によく聴きました。昨年、エスペランサ・スポルディングのライヴを観に行ったときに、とにかくギターが印象的だったから、ソロ作を聴いてみたら凄く良かったですね。サンダーキャットの『Drunk』は、もう天晴れという感じ(笑)。あとは、レベッカ・マーティンとギレルモ・クラインがコラボした『Upstate Project』もよく聴きました」

マシュー・スティーヴンス『Preverbal』収録曲“Undertow”
 

レベッカ・マーティン&ギレルモ・クライン『Upstate Project』収録曲“To Make The Most Of Today”
 

――年間300本やったライヴのなかで、特に印象的だったものは?

「ミシェル・レイスとの海外公演もそうだし、音楽的に発展したのを実感したのはアーロン(・チューライ)のクインテットですね。あのバンドも年イチで活動していますけど、今回は一気にハイレベルになったと思う。みんなの運動神経がめっちゃ上がったというか(笑)。〈Jazzfriendz〉のなかでも、アーロンは僕にとって特別な存在なんですよ。自分がピアノを弾くときも、ヴォイシングやサウンドに影響が出ていると思う」

――ジャズ・ドラマーとして意識が変化したところはありますか?

「憧れのミュージシャンと共演させてもらう機会が、年々増えています。そう考えると、自分もそういう人たちの仲間入りをしなくてはという意志を持たなきゃなって。2017年の歴史に、ひとりのドラマーとしてしっかり存在することを自覚するというか。正直な話、ほかにそういう人ってあんまりいないかなと思うので。尊敬してやまない人を見習います」

――それこそ、〈石若駿3Days 6公演〉みたいな企画を形にできるミュージシャンは、相当限られるでしょうからね。

「本当に有難い機会です。たぶん3日間のなかで悔しい思いもすると思うけど、それも含めて楽しみです。実は最近、〈僕の音楽ってどこにあるんだろう?〉っていろんな人に相談しているんですよ。〈ジャズ〉じゃ答えになっていないと思うし。だから、もう25歳になりましたけど、30歳を迎えるまでに自分のコンセプトを言葉にできるようにしたくて」

――未だに成長過程であると。

「はい、今はまだはっきり言えないから。自分の音楽をもっと強くしていきたいですね」

 


Live Information
〈石若駿3Days 6公演〉

●2017年11月17日(金)
昼:石若駿 打楽器ソロ
夜:石若駿(ドラムス)&スガダイロー(ピアノ)デュオ
●2017年11月18日(土)
昼:Songbook2 Band/石若駿(ピアノ)、角銅真実(ヴォーカル)、西田修大(ギター)、越智俊介(ベース)、渡健人(ドラムス)
夜:CRCK/LCKS/小西遼(サックス、キーボードなど)、小田朋美(ヴォーカル、キーボード)、井上銘(ギター)、石若駿(ドラムス)、越智俊介(ベース)
DJ:石若駿
●2017年11月19日(日)
昼:Clean Up Trio/石若駿(ドラムス)、井上銘(ギター)、須川崇志(ベース)、ニラン・ダシカ(トランペット)
夜:“Boys”Trio/石若駿(ドラムス)、石井彰(ピアノ)、金澤英明(ベース)
DJ:石若駿
★詳細はこちら