INTERVIEW

ゲイリー・ニューマンが完全復活! シンセ・ポップの創始者が語る、「ブレードランナー2049」時代のテクノロジーと音楽の関係

ゲイリー・ニューマン『Savage(Songs From A Broken World)』

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  • 2017.11.30
ゲイリー・ニューマンが完全復活! シンセ・ポップの創始者が語る、「ブレードランナー2049」時代のテクノロジーと音楽の関係

ゲイリー・ニューマンが9月にリリースした最新アルバム『Savage(Songs From A Broken World)』が、全英チャート第2位に輝いた。また、それに先駆けて彼は、今年5月にUKの権威ある音楽賞、アイヴァー・ノヴェロ賞でソングライティングを称える〈インスピレーション・アワード〉を受賞している。すでに前作『Splinter(Songs From A Broken Mind)』(2013年)も全英20位を記録していたが、ここにきて完全復活を果たしたと言っていいだろう。

70年代後半にチューブウェイ・アーミーとしてデビュー。シンセサイザーの無機質なサウンドを使いながら情緒溢れる音楽を奏でるスタイルを確立し、同バンドでのセカンド・アルバム『Replicas』(79年)と、続くソロ名義での初作『The Pleasure Principle』(79年)、さらに『Telekon』(80年)と3作連続で全英トップに輝く快挙をなしとげたのは、今から37年ほど前のこと。エレクトロニック・ポップを代表するアーティストとして一時代を築いたゲイリー・ニューマンだったが、やがて時代の流れのなかで第一線からは退いていった。

しかし、90年代も半ばになるとフー・ファイターズやマリリン・マンソンが“Down In The Park”を、続いてナイン・インチ・ネイルズも“Metal”をカヴァー。その他にもメタル系ではフィア・ファクトリーが“Cars”を取り上げたり、クラブ系ではアーマンド・ヴァン・ヘルデンが、やはり"Cars"をサンプリングに使った“Koochy”で大ヒットを飛ばす。また、デーモン・アルバーンやオーブらが参加した『Random: Gary Numan Tribute』(97年)というトリビュート盤も作られるなど、ずいぶん前から再評価に向けての機運は何度も高まっていたものの、本人の復調にはなかなか結びつかない状況が続いていた。ようやくとも言える今回の復活の背景にはさまざまな要因があるようだが、なによりも大きいのは、数年続いたという精神的な苦境を乗り越え、充実した内容の作品を完成させたことだろう。実際に『Savage』の音には力強い生気が漲っているし、コンセプトも世界の現実にきっちりと対峙したものになっている。以下、最新のインタビューをお届けしよう。

GARY NUMAN Savage: Songs From A Broken World BMG Rights/HOSTESS(2017)

 

ドナルド・トランプへのリアクションとして出来上がったアルバム

 ――最新作の全英2位獲得おめでとうございます。すでに前作を発表した頃には、自分自身でも、アーティストとしてふたたび大きな充実期を迎えているという実感を得ていたのではないかと思うのですが、現在の心境を聞かせてください。

「正直、最高の気分だった。最初は信じられなかったよ。発表までは緊張がどんどん増して、妻から結果を聞いた時は、涙が出た。いろんな感情が沸き起こってきてね。79年と80年に自分のアルバムがナンバーワンになった瞬間も素晴らしかったけれど、それから30年以上、そういうことは起こらなかった。でも、とにかく音楽を作って作って、この場所にまた戻ってきたんだ。1位ではなくても、長年がんばってきて掴んだものだから、自分にとってはかなり大きな意味のあることだね」

『Savage(Songs From A Broken World)』収録曲“ When The World Comes Apart”
 

――90年代のオルタナティヴ・バンドたちによるゲイリー・ニューマン再評価は、かなり以前から始まっていたので、もっと早くこうなっていてもよかったと思うのですが、どうしてここまで時間がかかったのだろうかと自分では思いますか?

「自分ではわからないな。ただただ、今それが起こったことが嬉しいだけさ。すごく美しい瞬間だったから、待つ価値はあったと思う。心から幸せを感じているよ。ここ25年、自分が書いてきた音楽は極めてヘヴィーだったから、あまりラジオ向きではなかった。多くの人に届けるという点で、それは大きな問題だったかも。まあそれだけでなく、理由はさまざまなんだと思う。でも、今回はタイミングもあったんだろうし、レーベルも本当にがんばってくれた。今回のアルバムの音楽はヘヴィー過ぎないし、コーラスのメロディーもしっかりとしている。それも良かったんだろうね」

――最新アルバム制作時のムードなどについては、それまでと何か違ったところがあったでしょうか?

「前回との大きな違いは、ドナルド・トランプ。それがすべてだね。アルバムの曲を書きはじめたときは、環境や気候に関するものを書くつもりは全然なかったんだ。ただ書きたいがままに曲を流れに任せて書いていた。同時に小説も書き進めていたのだけれど、そちらの方でそういったことをテーマに執筆していたんだよ。そんななか、トランプが現れた。彼が現れたことで、その問題がますます大きくなるように感じた。そして、3、4曲目を書いている時点で、このアルバムが自然と小説の音楽ヴァージョンになっていることに気がついたんだ。それが結果としてアルバムのコンセプトになった。

トランプがいなかったら、そうはなっていなかっただろう。彼の発言へのリアクションとして、このアルバムが出来上がったんだ。賛成できないことがたくさんあったし、聞いていてむず痒かった。みんながせっかく地球温暖化を理解しつつあり、世界がそれに対して取り組もうとしていて、それが過去の問題になりつつあったのに、彼が就任したことによって、それがまた突然大きな問題になったわけだからね」

 

中東も西洋もすべての人種がひとつになっている近未来を描く

――前作『Splinter』には〈Songs From A Broken Mind〉というサブタイトルがついていたのに対し、今作『Savage』には〈Songs From A Broken World〉と対になるような言葉がつけられています。これらのアルバムには何か関連があるのでしょうか?

「この2作品のテーマはまったく違うものなんだ。『Splinter』の制作当時、僕は3年間ほど鬱を抱えていて、すごく大変な時期にいた。曲を書くことで自分について深く考え、精神状態のバランスを保っていたんだよ。自分が何を書こうとしているのか、何を伝えようとしているのかを探りながらね。まるで、自分のセラピストや心療内科医と話しているような感じ。だからある意味、『Splinter』は自分にとってセラピーのようなアルバムだった。

でも今作では、前回のように不安定ではなかったし、以前よりもハッピーだった。『Savage』はパーソナルな内容ではないし、未来科学主義について書かれている。サブタイトルが表している通りにね。サブタイトルをつけようと思ったのは、僕の娘の発言がきっかけだった。〈パパ、今度のアルバムのテーマは何なの?〉と聞いてきたから、それを説明したら、〈じゃあ、壊れた世界についてのアルバムなのね?〉と言ってきたんだよ(笑)。それを聞いて、良いサブタイトルだなと思ったんだ(笑)」

『Splinter』収録曲“I Am Dust”
 

――ジャケットのイメージもあってか、アルバムのあちこちにエキゾティックなムードが感じ取れます。こうした要素はどのようにして出てきたものなのでしょうか?

「それは中東からの影響が関係しているんだと思う。アルバムのなかでは、中東の楽器もいくつか使用しているよ。執筆中の小説とも関係しているんだけれど、その小説のテーマは近未来で、そのイメージのなかに、中東も西洋もすべての人種がひとつになっているというのがあるんだ。温暖化が進み、地球からは水がなくなり砂漠だらけ、そんな状態で、みんな人種や宗教のことなんて考えてはいられない。同じ問題を抱える立場にいる我々は、仏教であろうが、キリスト教であろうが、肌の色が何色であろうが、そんなことを考えている時間も余裕もない。誰もが、ただただ生きようと必死なんだ。それで、アルバムの音楽でもそれを表現したくて、中東の音楽の要素を取り入れることにした。

あと、個人的に中東の音楽が好きなんだ。本当に美しいと思うし、西洋のメロディーとは違うからね。アルバムのジャケットに書かれた文字もアラビア語に見えるけれど実は英語で、それを通しても、世界がひとつになることを表現したかった。ジャケットの人物が着ている服も、中東の人が着ている服に見えて、実は違うんだ。ものすごく暑い状況のなかで人が何を着るかを想像して考えた。あれくらい肌を隠したくなるだろうと思ってね。ジャケットのデザインから音まで、全部がテーマと繋がっている。このプロジェクトは、自分にとって本当に大きなプロジェクトなんだよ」

――つまり本作は、その小説のサウンドトラックのような作品なのでしょうか?

「その通り。曲の中では、小説の中のキャラクターや状況が表現されている。例えば“My Name Is Ruin”という曲があるんだけど、Ruinというのは小説に出てくる登場人物で、彼の娘が誘拐され、彼女を見つけるためにRuinは旅に出るんだ。その旅を通して、彼はどんどんアグレッシヴになっていく。それで、〈Ruin〉(破滅、堕落)というあだ名をつけられるんだけど、ついに娘を見つけたとき、彼は自分が前とは違う人間になっていて、父親としてはもうふさわしくない人間であることに気が付くんだ。これは一例で、アルバムではさまざまなストーリーやフィーリングが表現されている。インダストリアルなサウンドと壮大さを兼ね備えた作品に仕上がったと思うよ」

 

僕自身はテクノロジーに恐れを感じている

――ところで近未来が舞台といえば、最近日本でも続編が公開され「ブレードランナー」(82年)には、あなたが79年に作った『Replicas』というアルバムが影響を与えていると言われていますね。あなた自身は、フィリップ・K・ディックの原作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(68年)について、当時どのように捉えていたのでしょう?

「僕はフィリップの大ファンで、12歳くらいのときから彼の本を読んでいる。影響も受けているし、僕にとっては大きな存在だね。彼の未来の見方、捉え方に魅力を感じた。テクノロジーが未来を支配するという考え方は、自分たちが正に進んでいる方向だと思うし、それに魅了されて、あの本は何年間も繰り返し読んでいたよ」

――もし続編の「ブレードランナー2049」をご覧になっていたら感想を教えてください。

「あの映画はもう2回観た。すごく良かったよ。素晴らしかったし、美しかった。最初に映画館で観たときは、サウンドがあまり聞こえなくて、セリフを理解できない部分がいくつかあったんだ。だから、映像を楽しむことにした。ヴィジュアルはすごく美しかったね。そして、2回目は字幕が付いた作品を上映している映画館に行くことにしたんだけど、そこでやっとセリフを十分に理解することができたんだ。映画をより理解できたし、本当に最高だった。また観にいくと思うね。それくらい気に入ったよ」

――人間の孤独感について、アンドロイドという存在を通して深く思いを寄せるという手法が持つ魅力について、今どう考えますか?

「実は、僕自身はあまりテクノロジーのファンではないんだ。テクノロジーには恐れを感じている。子供にも、あまり深くは関わらせないようにしているんだ。14歳になる長女にだけスマホを使うことを許可していて、下の2人はiPodとiPadを使うことだけ許可している。それでもすごく厳しくしていて、平日は使用を一切禁止しているし、週末のほんの数時間だけ使用していいことにしているんだ。車の中では使っていいことにしているけれど、それも音楽を聴くことのみ。レストランで食事をしていたり、友人と一緒に時間を過ごしたりしているときは、自分の子供には会話をしてほしい。ただ座って電話を見ているような子には育ってほしくないんだよ。

人間同士のコンタクトというのはすごく大切だと思う。同時に、使い方を間違えなければ、素晴らしい機能が期待できるものでもあるということは十分に理解しているけどね。使い方が本当に重要で、テクノロジーと関わりすぎないことが大切だと思う。携帯をなくしたら、支払いも、どこかに行くことも、コミュニケーションも何もできなくなってしまうような状態は、とても恐ろしいことだよ」

――アナログ・モジュラー・シンセに関するドキュメンタリー映画「アイ・ドリーム・オブ・ワイヤーズ」(2014年)は、あなたの曲名からタイトルをとっていますし、出演もされていますね。あなた自身は、エレクトロニック・ミュージックに関するテクノロジーの進化が、自分の作品にどんな影響をもたらしたと感じていますか?

「膨大なサウンドにアクセスできるし、それを操作して作りたいサウンドを実現することもできる。そういうところは素晴らしいと思うし、音楽におけるテクノロジーに関しては、僕は魅了されているよ。可能性を広げてくれるし、作業をスムーズにしてくれる。自分のサウンドパレットを広げてくれるし、アルバム作りをよりエキサイティングにしてくれていると思う。アイデアを素早く形にできるのは素晴らしいよ。昔は、それをなかなか形にできずに、アイデアの新鮮さや、アイデアそのものが失われることが多々あった。でも今はテクノロジーのおかげで、それをきちんと活かすことが可能なんだ」

 

自分がもっとも興奮するのはステージの上

――現在は、精力的にツアーを展開中ですが、エレクトロニクスを駆使して作り上げた音楽をライヴで再現するにあたって、どのようなことに気を付けていますか? あなたにとって、ライヴ・ステージという場はどのような意味を持っているものでしょうか?

「特に気を付けていることはないよ。とにかく可能な限りエキサイティングなものを作り上げたいと思うだけさ。すべての要素に対して気を抜かないことだね。それは、アルバムもライヴも同じだよ。ただ、ソングライティングやスタジオでの作業も好きだけれど、自分がもっとも興奮するのはステージの上なんだ。オーディエンスと一体化することによって興奮できるし、自信もつく。あれこそベストな瞬間だね。それに、ツアーで世界中を回ることもできる。そのことを嫌がるミュージシャンも多いけど、僕はツアーで世界を旅することが大好きなんだ」

――ぜひ、現在のあなたのライヴを日本でも観たいと思っています。この最新作から、日本ではマリリン・マンソンやナイン・インチ・ネイルズとレーベルメイトになったので、もしこの3組が一緒に来たら、個別に来日するより30倍くらい盛り上がるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか? あなたが間に入れば、マンソンと(ナイン・インチ・ネイルズのトレント・)レズナーも久々の共演をやりやすいような気がしますし、ぜひ検討してみてください。

「ハハハ! それはすごいことになるだろうな(笑)。来年は日本に行けるといいんだけど。もし実現したら素晴らしいね」

ナイン・インチ・ネイルズにゲイリー・ニューマンが加わって“Cars”を演奏した2009年のライヴ映像
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