サンダーキャットも酔猫と化すチョップド&スクリュードの魅惑
各メディアの年間チャートなどでも大絶賛され、2017年指折りの名作という評価を認定された感もあるサンダーキャットの『Drunk』。ケンドリック・ラマーやファレル・ウィリアムズ、マイケル・マクドナルド&ケニー・ロギンス、ウィズ・カリファ、フライング・ロータスら参加メンツの豪華さはもちろん、日本では同作を引っ提げてのツアーや〈フジロック〉登場なども強い印象を残したに違いないが、何より、間口の広いポップな作風がいままでの雷猫にない方面/角度から広く支持されたこと自体が素晴らしかったと思う。そんな話題作ならではの二次創作ということで、アルバム発表の半年後にはチョップド&スクリュード仕様にリミックスした音源『Drank』が公開されていたが、何とその『Drank』がこのたびブレインフィーダーから公式CD化! チョップド&スクリュード・ミックスは、ヒューストンの重鎮OGロンCと、彼の率いるチョップスターズ所属のDJキャンドルスティックという本職の手掛ける本気の一枚だ。

ここでいう〈チョップド&スクリュード〉とは、90年代のヒューストンでDJスクリューが編み出した作法で、切り刻んだフレーズを繰り返したりピッチを極端に下げてスロウにするミックス手法のこと。ガシガシしたチョップや音色や声色のモッタリした歪みでドラッギーな効果を生み出すべく、現在では楽曲の構成パーツとして一般化しているマナーだが、2000年代半ば頃までのUS南部のヒップホップ作品では、アルバムを丸ごとチョップド&スクリュード仕様のリミックス盤として出すのもごく普通のことだった。
その辺の状況は当時のbounceでしつこく紹介していたのでバックナンバーなどをご覧いただくとして……オリジネイターのDJスクリューが2000年に急逝後、チョップド&スクリュードの総本山となったのはマイケル“5000”ワッツの率いるクルー/レーベル=スウィシャ・ハウスだったが、その設立時に在籍していたメンバーこそOGロンCであった。独立後の彼はDJミックスをストリート盤で出したり、ラップ・ア・ロットやカミリオネアのスクリュー仕事などを通じて活況を呈したヒューストンのシーンに根を張りつつ、2008年に自身のサイトで世界初のスクリュー専門ウェブラジオ局〈ChopNotSlop Radio〉を設立。自身の技法を〈Chop Not Slop〉とポジティヴにシグニファイし、DJチームのチョップスターズを組織して、地元が生んだチョップド&スクリュード文化の普及と革新に努めはじめるのだった。
2010年代に入ってからのロンCは、ドレイクの諸作を『Chop Care』(2011年)、『Choppin Ain't The Same』(2013年)としてリミックス(テキサスの血を引くドレイクはスクリュー・サウンドのファンだったという)。それに前後して、ポスト・ダブステップやチルウェイヴ、ウィッチハウスなどの近からず遠からずなノリも拡散の助けとなってエクスペリメンタルな意味でのスクリュー・スタイル導入(単にピッチを落としているだけのものもあるが)も多方面で試みられるようになり、ロンCとキャンドルスティックもリトル・ドラゴンの『Nabuma Purple Rubberband』(2015年)やパーケイ・コーツ“Captive Of The Sun”(2017年)のリミックスなどを手掛けている。チョップド&スクリュードを意識した映画「ムーンライト」(2016年)のサントラをキャンドルスティックが『Purple Moonlight』化したのも記憶に新しい。
このたびの『Drank』はそうした状況を踏まえて登場するものだが、御託は必要ない。スクリュー盤はオリジナルを聴き親しんでいればいるほどおもしろく響いてくるものだが、単純にパープルな音を文化価値のあるお洒落なものとして受容してみるのも全然アリだろう。願わくば、それが新しい扉となりますように。
多方面に及ぶチョップド&スクリューの流れと変遷

2000年に没したレジェンドが生前に残した数少ない公式ミックスCDの1つ。リル・キキやファット・パットらスクリュード・アップ・クリック(SUC)関連曲を中心に、遅くするだけじゃないDJミックスのヤバさでドップリ聴かせる。

H・タウンの音が全米で盛り上がった時代には、日本にもその熱が波及。いち早く音源でもリアクションしていたAK-69は、同地のビリー・クックを迎えた本シングルにチョップド&スクリュードのリミックスを収めてもいた。

本作に収録されたスロウ“Chopped N Skrewed”はトラックにチョップ&スクリューの快感を採り入れるだけでなく、リュダクリスのラップも含めた疑似チョップ歌唱も効いたヒット曲に。めちゃくちゃクリエイティヴ。

ウィッチハウスの元祖となるシカゴのサタニック集団の傑作。サグいシューゲイズ・ラップと不気味に伸縮する音響派ダークウェイヴを組み合わせたホーリーなチョップ&スクリュー感がストレートにカッコイイ。

ロンドン・シンフォニエッタとのコラボをスロウに仕上げた実験作。表題ほどの快楽性はなく、ピッチ変調によって同時代のダビーな音像に寄せることが主眼となったか。ミカ作の映画スコア『Jackie』(2016年)にも通じる出来。

彼らのダンス回帰盤として評判になった『Thr!!!er』派生のリミックス集。メイン・アトラクションズのラップを新たに乗せた“Californiyeah”は原曲のパーカッシヴな構造も活きたマイルドなチョップ&スクリュー仕立てに。

映画本編のアカデミー賞獲得と合わせて音楽面でも評判になった「ムーンライト」のサントラ。ニコラス・ブリテルの手掛けたスコアの一部はチョップ&スクリューの手法を採り入れて加工されている。

往時と違って公式CDまで出る機会は少なくなったスクリュー盤だが、本作はレギュラー盤とセットの2枚組。OGロンCによる〈Chopped Not Slopped〉仕立て。そうじゃなくてもSUCマインドが端々に漲るH・タウンの王道盤だ。

キキと同じSUC出身の彼はドレイクも憧れたという天然スクリュー声のOG。この最新作にはDJスクリューらに捧げた“So Houston”が収録されている。通常速度でもチョップ&スクリューの要素満載なのがH・タウンの王道だ。