左よりH ZETT M(ピアノ/青鼻)、H ZETT KOU(ドラムス/銀鼻)、H ZETT NIRE(ベース/赤鼻)
 
 

2017年は4月より怒涛の配信シングル6か月連続リリース(+11月、12月にもリリース)、11月には初のコンセプト・アルバム『H ZETTRIOのChristmas Songs』の発表、その間には全国ツアーに大感謝祭に年末ツアー、はたまた楽曲提供やCM出演などと、まさにスーパーヒーローばりに休むことを知らないH ZETTRIO

そんな彼らの快進撃は2018年になっても留まることを知らず、オリジナル作としては約1年半ぶりとなる4枚目のアルバム『Mysterious Superheroes』を3月7日(水)にリリースする。今作は、配信シングル7曲に新曲5曲、さらに形態によって異なるボーナス・トラック1曲を収録と大ボリューム。多作ぶり、リリースのハイスピードぶりには驚かされるばかりだが、今作はいつも以上にキャッチーで、ノレて、ちょっぴり変?……いや、変ではないか、ちょっぴりミステリアス。

今回はそんなミステリアスなスーパーヒーローたちの実態を、「Jazz The New Chapter」などの著作で知られる音楽ライター/ジャズ評論家の柳樂光隆が紐解いた。 *Mikiki編集部

H ZETTRIO Mysterious Superheroes apart.RECORDS(2018)

スーパーヒーローは悩まない

――クリスマス・アルバムを挟んでオリジナル・アルバムとしては約1年半ぶりのリリースですが、曲はライヴでも既にやっている曲が多いですよね。

H ZETT KOU(ドラムス/以下、K)「そうですね。でもライヴでやっていない曲も数曲あって。録ったばっかりというか、去年の暮れくらいに録ったのが3、4曲ありますね」

――前から出来ていた曲も多いんですね。

H ZETT NIRE(ベース/以下、N)「配信シングルとしてちょいちょいリリースしていたのが7曲ですね。一か月おきに連続でリリースしていた時期があって」

――プラス新曲という形ですね。つまりシングルが集まっているイメージもありますけど、このアルバム・タイトル(『Mysterious Superheroes』)にはどんな理由が?

H ZETT M(ピアノ/以下、M)「タイトルの理由は、新宿の歌舞伎町に〈TOKYO MYSTERY CIRCUS〉っていうテーマパークが出来て。まだ行ったことはないんですけど、その〈MYSTERY CIRCUS〉のテーマ曲にH ZRTTRIOの“Dancing in the mood”という曲が使われまして。そこで、〈ミステリー〉って言葉がなんとなくいいな、なんか曲名で使いたいなと思っていて。そこで今回タイトル曲の曲名で使ったんですね。それがいいねってことになり、アルバム名にもなったということです」

「東京ミステリーサーカス」CM動画
 
 

――ちなみに配信シングルを連続で出すっていうのはどういうきっかけで始めたんですか。毎月ってけっこうヘヴィーじゃないですか?

M「もう出来たら出しちゃえってことで、そんなにヘヴィーではなかったですね。ライトな感覚ですよ。一か月にアルバム1枚だったらヘヴィーだけど、1曲なんでライトです」

K「出てくる曲もね、粒ぞろいで、頼もしい限り(笑)」

M「(笑)。KOUさんはすぐレコーディングが終わっちゃうんですよ」

N「KOUさんはめちゃくちゃ速い。僕はそれに合わせたいんですよね。レコーディングの流れみたいなものがあるから、ドラムとベースはできるだけ合わせたい。KOUさんは〈録るぜ〉って言って〈ハイ、終わり〉だから、僕も同じ流れでやって、同じ感覚で収めたいなと。そっちの方が雰囲気もいい気がして、それに合わせていたら、いつのまにかベースも早くなってきましたね」

――じゃ、全員速いんですね。

M「悩んだりとか詰まったりとかはないですね」

N「どっちのテイクにするかで30分悩むとかもないですね」

――それはH ZETTRIOを始めたころからですか?

M「最初からですよ。昔は朝までレコーディングするとかもありましたけどね」

K「深夜の2時とか3時くらいになると、急にMさんが機嫌が悪くなってくるんですよ」

M「それは大昔すぎる(笑)。プロ以前の話じゃないですか(笑)」

K「ああ、そうでした、すいません(笑)」

――プロになってからは2時3時でも機嫌はいいと。

K「絶好調です」

N「今は深夜になることもないですもんね」

M「そう、速いから深夜になったことがないですね」

 

スーパーヒーローはバランスが絶妙

――レコーディングって、まずMさんが曲を書いてきて、それをみんなで解釈するんだと思いますけど、どんなプロセスでやるんですか?

K「当日の現場で曲をパンって持って来られることもあるし、何時間前とか、前日とかにこんな感じですっていうのを伝え聞いたり音をもらったりすることもあるし、さまざまですね」

――H ZETTRIOはリズムが難しい曲もあるじゃないですか。

K「7拍子とか(笑)」

N「“SEVEN”ですね。あれはすごい勢いで録った気がします。1日で何曲かまとめて録ってたんですけど、〈もう1曲録っちゃえ〉みたいな雰囲気のときに来たのがこの曲で。〈すげーな、これ難しいな〉と思ってたんですけど、これも勢いで録って。でも、そういうのがいい時もありますね、集中力があるから」

K「逆に、しっとりした曲やゆっくりした曲は意外とこだわっちゃうというか。今回だと“どこか遠く”と“Flying Future”もかな」

M「KOUさん、最初はスティックだったのをブラシに変えた曲とかあるじゃないですか。竹ひごだっけ?」

K「それは次に出す曲かな……(笑)」

――あ、新作が出る前にもう次のを録ってるんですね。つまりずーっとレコーディングを続けてると。

M「時間があるときにですね」

N「このアルバムは特にずっとレコーディングをしていて。始めたのは去年の頭で、年末に出たクリスマスのアルバム(『H ZETTRIOのChristmas Songs』)も2、3日くらいで全部録りつつ、時間があるときに録り溜めて出来たのがこのアルバムですね」

――H ZETTRIOってピアノ、キーボードはもちろん、リズムセクションの印象もかなり強い部分があると思いますが、どういうコンセプトでこうなったんですか?

N「長く一緒にやっていると良いところがあって、曲を持ってきてくれると〈こんな感じかな〉っていうのがお互いわかるんですよね」

K「Mさんに〈こういう感じで〉って言ってもらえることもあるし、〈こういうのが得意で、こういうのが面白いだろ〉っていうのがお互いわかってるし。出してくれたアイディアから派生してリズムが出来上がったり、そこに自分のアイディアも入れたりして。最初の投げかけがうまいからいいんでしょうね」

M「KOUさんのドラムは祭り太鼓から始まっているんですよね。で、結構ジャズというよりはロックだったり、もっと暴れたりする方で、結構自由なんです。一方NIREはジャズ研の出身で、二人が双方に寄り添うといった感じになっていますね」

K「そのバランスが絶妙なんですよね」

――ドラムのセッティングとかはどうしてるんですか?

K「立って叩いているので、セッティングは日々変わってますね。ずっと模索中です」

M「最近、スネアを二つ置き始めたりしてね」

K「そうですね。レコーディングではすでにやっていたんですけど、〈ライヴでもやったらいいんじゃない?〉みたいな感じで。割とローピッチのドスンっていう感じのスネアで」

――それはきっかけはあるんですか?

K「前から持ってはいて、曲の中でシーンが変わったところとか、レコーディングではたまに使っていたんですけど、ライヴでも使ってみたら良かったからですかね」

――自分のチューニングには特徴はありますか?

K「割と音の立ち上がりがいい方が好きっていうか。粒立ちが良くて、すぐ音がポーンと目の前で近鳴りしてくれる方が好きですね」

――ベースはどうですか?

N「あまりセッティングは変えてないですね。ウッドベースって音がすぐに変わっちゃうんですよ。毎日弾いてても変わっちゃうんで、その都度楽器に合わせるようにしてるんです。ウッドベースって、急に鳴り出したり、急に鳴らなくなったりっていうことがけっこうあるんで、その鳴らない音域を避けるためにオクターブを下げたり上げたり、そういうのはありますね。でも、セッティングは変えてないんですよ。このアルバムは1年くらい録ってるんで、この時期はこの音域が出てるなとか、聴き比べても面白いですね」

K「一回さ、川崎クラブチッタかどこかでエレベでやったよね」

N「やりましたね。その時、Kemper(※次世代のギターアンプと呼ばれるアンプ)って機材があって、それを使ってみようってことで、それでワウとかディストーションをかけたりしたんですけど、評判が良かったです。エレベ使うと、みなさんに〈あ、エレベだ…〉って顔をされるんですけど、その時は非常に評判が良くて」

K「あれ良かったよね」

――このトリオは音量がデカいじゃないですか。全体の音量がデカい中で、アコースティックのベースを使うのは大変ですよね。

N「なので、それに合わせて弾き方も変わってきましたね。静かな音でやっているバンドだったら今の弾き方にはなっていないと思います。このバンドの中で埋もれないように、細かいところだと指の角度とか、こうしたらもっと倍音が出るんだとか、弾き方やセッティングを研究して、そういう研究の積み重ねで今になったって感じですね」

――はっきりした音をガツンと出す、とかは意識しているわけですよね。

N「そうですね。立ち上がりのアタックの音が弱いと、何弾いているかわからなくて、鳴っているのはわかるけどモゴモゴ言ってるみたいな音になってしまう。ウッドベースの音は立ち上がりが大きくてあとは減衰していく一方なので、立ち上がりをいかにして強くするかっていう事を意識してやっているし、ライヴでやっていると二人に負けないようにどんどんそういう風になっていきますね」

――アコースティックのベースで参考にした人はいますか?

N「ロックのライヴハウスで爆音の中ウッドベースを弾くっていうことに関しては、あまり参考にした人はいないかもしれませんね」

M「マイルス・モズリーとか?」

マイルス・モズリー“Abraham”
 
 

N「あれはすごかったね。H ZETTRIOを始めた頃にああいう人がいたら、僕もエフェクターを使ったりしてたんだろうなあ。マイルス・モズリーはカマシ・ワシントンのバンドで弾いてる人で、ウッドベースでエフェクターをたくさん使ってたんですよね。〈すげー!〉って思ったんですけど、僕らがこういうのを始めた頃はあまりそういう人がいなかったので、ひとつひとつ弾き方を変えたりとか、ピックアップっていう振動を電気信号に変える機材をできるだけうるさいやつにするとか、〈これはいいらしいぞ〉って聞いたら試してみたりしてましたね。今、自分が使っているピックアップは日本のメーカーのものなんですけど、すごく良くて、攻撃的な音になります」

――今でこそマイルス・モズリーとか、ゴーゴー・ペンギンのニック・ブラッカとか特徴的なベーシストも増えてきましたけど、昔はいなかったですもんね。

N「昔は〈エレベでやればいいじゃん〉ってよく言われてましたからね(笑)」

――チッタで観た時も音の分離が良くて、ハッキリしてるしパワーもあるし、出音がすごくいいなと思ったんですけど、そのあたりの工夫はありますか?

K「腕の良いPAさんに来ていただいて(笑)」

N「PAのエンジニアさんはずっと一緒にやっているし、ツアーも一緒に回ってもらうので、もうすっかりメンバーみたいなものですね」

K「ピアノの音をいかにうまく出すかっていうのがポイントなんだろうね」

――たしかにアコースティックのピアノを大音量で出すには大変な楽器構成ですよね。

N「ホールみたいな会場だと、ほぼ生ピアノの生音だけの時もありますよね」

――Mさんは、ソロで演奏するときとトリオでやるときってやっぱり弾き方って変わりますか? 音の出し方というか、鳴らし方というか。

M「二人が、最初の音の立ち上がりをガツンと出すっていうのを言ってましたけど、僕も確かにトリオだと最初の音はガツンと出しているような気がしてきました。一人でやるときと弾き方が違うのかもしれないですね」

――音量が必要なトリオでも、ライヴでは生のピアノを弾きたいんですよね。

M「そうですね。ピアノは別物って感じがします。キーボードとは違うものですから」