©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

 

名物編集者、末井昭の数奇な人生を映画化
映画音楽を手掛けた菊地成孔が、あの天才写真家を演じる!

 昭和のエロ本業界を渡り歩いた名物編集者、末井昭の自伝的エッセイ「素敵なダイナマイトスキャンダル」が、冨永昌敬監督によって映画化。原作には様々な要素が詰まっているが、まず魅力的なのは末井昭というキャラクターだ。岡山の山村で育ち、子供の頃、母親がダイナマイト心中するという強烈な過去を持つ末井。学校を卒業すると憧れていた町工場で働くが、仕事に堪えられずにすぐ退社。ひょんなことからデザインに興味を持ち、学校へ行くも学校が閉鎖、キャバレーに入社して看板を描き始める。そして、友達のツテでエロ雑誌の世界に足を踏み入れると「NEW self」「ウィークエンドスーパー」「写真時代」など、伝説的な雑誌を次々と世に送り出していく。行き当たりばったりに生きているようで、得体の知れないふてぶてしさがある、そんな喰えないキャラクターを、柄本佑が飄々と演じていて、本作は末井をめぐる人物たちの群像劇になっている。

 末井の親友・近松さんを銀杏BOYZの峯田和伸、荒木経惟をモデルにした写真家をなんと菊地成孔が演じているが、菊地の存在感そのものが荒木的だということに気付かされる秀逸なキャスティングだ。また、末井をめぐる女性達の艶やかさにも注目したいところ。母親・富子に尾野真千子、妻・牧子に前田敦子、愛人・笛子に三浦透子。なかでも、山中を幽霊のようにさまよう富子や精神を病んでいく笛子といった、危うい女性達が醸し出すエロスが映画に妖しい彩りを与えている。

©2018「素敵なダイナマイトスキャンダル」製作委員会

 また本作には、昭和の風俗史という側面もある。キャバレーやエロ雑誌の舞台裏でうごめく人間模様を、毒気たっぷりに描き出していくあたりは野坂昭如の「エロ事師たち」を彷彿とさせたりも。とりわけ80年代に入ってから、業界関係者の吹き溜まりになった喫茶店で、ラヴホテルで、時には警視庁で繰り広げられるエロとゲージュツのせめぎあいのドラマからは、時代の熱気が伝わってくる。そんななか、次第に末井の内面の歪みが外部に滲み出ていくような後半で、冨永の語り口はますます冴え渡る。

 笛子とデートをした湖で横たわっていたサビついたスワンボートが象徴するように、次第に変質していく末井をめぐる世界。世間がバブルに沸くなか、笛子は精神を病み、小銭をばらまきながら歩く末井の姿には狂気が漂い、次第に顔つきが変化していく柄本の演技には凄みさえ感じられる。そして、エロ雑誌の時代が終焉を迎えるなか、映画の最後に富子が心中前夜に子供達に会いに来るシーンを入れることで、冨永は末井の人生における母親の存在(と不在)に焦点を当てる。主題歌“山の音”を尾野と末井本人がデュエットしていることも含めて、母子関係も本作の重要な要素。菊地と小田朋美が手掛けた主題歌を子守唄替わりに、まるで末井の夢の中に迷い込むような映画だ。

 

映画「素敵なダイナマイトスキャンダル」
監督・脚本:冨永昌敬
原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
音楽:菊地成孔/小田朋美
出演:柄本佑/前田敦子/三浦透子/峯田和伸/松重豊/村上淳/尾野真千子/他
配給:東京テアトル (2018年 日本 138分)
◎3月17日(土)テアトル新宿、池袋シネマ・ロサほか全国ロードショー!
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