〈ヤバいアルバムが出来たな!!!〉八十八ヶ所巡礼が8月18日(土)にリリースする7枚目のアルバム『凍狂』を初めて聴いた時、陳腐だがそれしか感想が出て来なかった。
八十八ヶ所巡礼は、全身タトゥー男・マーガレット廣井(Ba.と歌と主犯格)、超絶ギターテク王子様・Katzuya Shimizu(Gt.と参謀と演技指導)、寡黙な筋肉質坊主ドラマー・Kenzoooooo(Dr.と極道と含み笑い)という超個性的な3人のメンバーで構成され、愛国心や親孝行をテーマとした唯一無二の世界観、ハード・ロックやプログレを基にしつつもそれらを超越した変態的楽曲を奏でる。さらに輪をかけて、奇才クリエイター・谷口崇による一見変テコなジャケ、そして突然公開される変テコなMVなどなど……どこを取っても独創性の塊のようなバンドだ。それにも関わらずメディアに登場する機会はほぼない。しかし、どうにかして本人たちの口から、傑作『凍狂』について話を聞きたいではないか。交渉を重ねた末、バンド側から出されたのは〈メンバーは口ベタだから、レコーディング・エンジニアの兼重哲哉さんと一緒ならいいっすよ。ただし喋るのは兼重さん8割、メンバー2割ね〉という条件だった……。
電気グルーヴやSUPER BEAVER、吉澤嘉代子にNegiccoなど、多岐に亘るアーティストのレコーディング、ミックス、マスタリングを手がけてきた兼重哲哉氏。2018年8月8日という八並びの日に行われた八十八ヶ所巡礼のワンマン・ライヴ〈八×八祭!!!―八月は極楽浄土キャンペーン!!!―〉の会場に超多忙な彼をお呼びして、終演後にメンバー3人との座談会を実施した。さて、メンバーは重い口を開いてくれるのだろうか?

コ・プロデューサー兼重哲哉
――ライヴお疲れ様でした!
マーガレット廣井「お疲れ様でした!!」
兼重哲哉「お疲れ様です!」
――まずは兼重さんの自己紹介をお願いできますか?
兼重「俺のパーソナリティ要ります?」
廣井「今日のメインですからね」
兼重「八十八ヶ所巡礼とは10年近い付き合いになるレコーディング・エンジニアです。作品的には2009年にリリースされた『1st mini Album』、続いてファースト・アルバム『八+八』からの付き合いですね」
廣井「その時のこととか思い出したくないんですよね。兼重さんとは憎しみ合いながら作った記憶しかない(笑)」
兼重「初期の頃はね」
廣井「でもね、兼重さんじゃなかったらレコーディングなんて途中で辞めたかも」
兼重「憎しみ合いながらやってたのに、俺じゃなかったらレコーディング辞めてるって話がややこしいな」
廣井「〈たしかに一理ある〉みたいなことをおっしゃってくれるんですよ」
兼重「君は天邪鬼だから、うまくまとめないとね」
――八十八ヶ所巡礼と兼重さんが出会ったきっかけというのは?
兼重「知人に紹介されてライヴを観に行ったのが初めてでした。当時、お客さんは5人くらいだったかな」
廣井「いや、4人くらいじゃないですかね」
兼重「その1人、大事(笑)?」
――当時のバンドの印象はどうでした?
兼重「当時から3人の個性はバラバラで、今と全然変わらないですよ。ただ、お客さんの数だけが変わってきてる感じです。初めてのライヴで聴いてカッコいいなと思った曲が、不思議なもので今日アンコールで最後にやった“八十八銀行”(『1st E.P』収録)でしたね」
――今作『凍狂』ではレコーディング、ミックス、マスタリングのほかに、クレジットに〈Co-produced by Tetsuya Kaneshige〉と書かれてありますが、〈Co-produce〉というのは具体的にどういうことをされてるんですか?
廣井「え? 〈Co-〉なんとかってなになに!?」
兼重「映画でいう助監督みたいなことだと思います。主体性はバンドにあると思うんですけど、より突っ込んで関わっているっていう意味で」
廣井「これまでも兼重さんから〈一般的にはここはこうした方がいいんじゃないかな?〉って言われることは多かったんですけど、その意見に対していちいちイラッとしてた時もあったんですね。でも、今は素直に受け入れられるようになってきた気がします」

バンドと一緒に成長するレコーディング・エンジニア
――さっきも3人の個性がバラバラっていう話がありましたけど、そんな3人を兼重さんはどうやってまとめていってるんでしょう?
兼重「彼らってそれぞれのキャラクターが強いし、好奇心は旺盛だし。実は音楽的な知識も豊富だから、放っておくとどんどん自分たちの好きな方へ行っちゃうんですよね。特に、廣井君なんて最初に思い付いたことはカッコいいのに、どんどん変な方向へ飛躍していっちゃう。だからまとめるというよりかは、それを元に戻してあげる役割でもありますね」
廣井「さすが(笑)!」
――廣井さんは、自分がどんどん進路変更していってるっていう自覚はあるんですか?
廣井「無意識にどんどん楽しい方へ行きますね。なんだか刺激が強い方へ行っちゃう」
兼重「そういう意味では、かっちゃん(Katzuya Shimizu)が一番バンドとして進むべき道をわかっていて。いつも変わらずにバンドの中心にいてくれてますね。だからそこのバラバラ加減はまとめなくてもいいんです。廣井君がブッ飛んでいかないかどうかだけ見守ってます」
――バンド内でモメたりすることはないんですか?
廣井「結成当初からぶつかり合ったりすることはないですね。ぶつかることがあるとすれば、兼重さんと僕です」
一同「(爆笑)」
兼重「でも、廣井君が無自覚にブッ飛んでいくところって、それはそれでバンドにとって大事なポイントなわけです。ひとつの作品を作る時に必ずひとつくらいは成功があって。でも、明らかに失敗して転んでいるのに放っておくとそのままな時もあるから、そのジャッジをしながら止めたりしてますね。度々、向き合って話をしてます」
――バンド全体で見たらどうですか? 10年間で成長していったと思います?
兼重「あー……」
廣井「なんで悩むんですか!!! そこは〈成長してる!〉でいいでしょうよ!!」
一同「(爆笑)」
廣井「例えば、今までは〈この曲はコーラスをたくさん入れた方がいいんじゃないかな〉と思っていても、兼重さんはその意見を全然採用してくれなかったんですよ。でも、今回は〈“紫光”のコーラスをメロディーの動きと変えて入れてみたらどうでしょう〉って提案してみたら、それが兼重さん的にもすごく良かったらしくて。それ以降に録音した曲ではコーラスのアイデアを僕に委ねてくれるようになりましたね」
兼重「そっか。じゃあ俺も変わっていってるってことだね」
――バンドと一緒に兼重さんも成長していってると。
兼重「本当はそれじゃ良くないのかもしれないですけどね」
――兼重さんがよくお仕事をご一緒されてるNakamuraEmiさんのインタヴューを読んでいたら、兼重さんが歌詞に対してアイデアをくれるっていう発言があったんですけど、そういうことは八十八ヶ所巡礼にもありますか?
兼重「廣井君が歌詞をゼロから生み出す時に関わったりはしないですけど、歌詞制作はいつもレコーディングの最後のほうに行われるので、そこで言葉のキャッチボール相手になったりはしますね。ちょっとだけ作家と担当編集者みたいな関係性に近いかもしれないです。どんな登場人物が出てくるのかは待ちますけど、〈その人物がどう動くか〉みたいなアドヴァイスをしたりはしますね」
――普通レコーディング・エンジニアの方はそこまではしない?
兼重「たぶんしないと思います。気が付けばそういう関係になっちゃいましたね」

本読みだけして、いきなりロケへ
――サウンド面についても聞きたいのですが、八十八ヶ所巡礼っていわゆるスリーピース・バンドとは作りがだいぶ違いますよね。そこで苦労するところってありますか?
兼重「たしかに違いますねえ。でも、むしろ苦労は少ないほうだと思います。ライヴを観ていてもかなりテクニカルですけど、音が3人だけで成立するようになってきたので。例えば今回なんて、かっちゃんのギターを重ねた本数はすごい少ないですからね」
――曲を聴いてて、いつも不思議な音だな~って思うんです。例えばルート音がひとつも鳴ってないのに曲として成立してたりして。
廣井「それは歌が単調なのに、マイナーなコードを辿ってることが多いからですよ」
――つまりメロディの力が強いってことですか?
廣井「そう、一番単純な音階を鳴らしてるのは歌ですね」
――つまり、歌がしっかりしていれば、ギターとベースが自由に遊んでいても曲はブレないってことですね。
廣井「まあ、歌がしっかりしてるという自負はないですけど」
一同「(爆笑)」
兼重「かっちゃんも廣井君も楽器はテクニカル指向だと思うんですけど、意外とKenzoooooo君は歌が好きで。ハードなドラムを叩いてギターやベースと張り合っているというよりは、むしろ歌を大事にしたドラムを叩いているので、バラバラな各パートを繋ぐ役割になってる気がしますね」
――レコーディング現場で八十八ヶ所巡礼ならではのことってありますか?
兼重「例えば今作のレコーディングでは、廣井君が使い物にならない音がする謎のベース用エフェクターを持ってきたんです。だけど、本人が気に入っちゃってるからそれで録っちゃったんですよね。そういった初期衝動を活かしてそのまま録っちゃうみたいなのは、このバンドでは特に多いですね」
――それって練習の時に、この曲はこういう音で行こうって決めないんですか?
廣井「僕らって練習の時にエフェクターとか機材を持って行かないんです。リハスタに置いてあるのを使っていて」
兼重「普通に言ってるけどさ、それヤバいから(笑)!!」
廣井「(笑)」
兼重「一般的にはレコーディングの前に、録音する曲に使うための機材を揃えて、こういう楽器で演奏してこういう場面でこのエフェクターを使うっていうアタリを付けて練習をしておきますよね」
廣井「レコーディングの前日までリハスタに置いてある楽器で弾いてましたよ」
兼重「……エグいです(笑)。それってさ、例えば台本だけ読んで、場所も決めずにすぐロケに出るみたいな感じですよ。一応本読みだけはしてくるけど(笑)」
一同「(爆笑)」
廣井「イメトレだけは……。だって、そういうやり方じゃないと僕は面白くないと思ってるんですよ」
兼重「だから、常に最初に浮かび上がる面白さを欲してるんだとは思ってますよ」

三者三様、なのにお互いがお互いのことを大丈夫だと思っている
――でもそんな感じだとレコーディングに時間がかかるんじゃないですか?
兼重「昔はかかってましたけど。今回はより初期衝動を大事にしていく感じだったので、めちゃくちゃすんなりストレートに録れました。だから、久しぶりに初期衝動感の強いアルバムになってるんじゃないですかね」
廣井「でも、初期衝動と言いつつ……レコーディング当日に歌詞が1行しか出来てないとかってことも……」
――それは一体いつ書いてるんですか!!
廣井「ギター・ソロ録ってる間とか。〈歌詞が出来るまであとどれくらい時間かかる?〉ってよく聞かれてます」
――普段、練習スタジオではどういう曲作りをしてるんですか?
廣井「ほぼ世間話をしてますね(笑)」
――(笑)。複雑な構成の曲も多いから、練習スタジオで構成をガッチガチに固めてくるんだと思ってました。
廣井「ライヴのための練習だって、セットリストを1回通すことすらしないですもん。なんなら今回は、ずーっとパチパチ※の練習でした(笑)!」
※この日のライヴのオープニング・アクトは、八十八ヶ所巡礼のパートチェンジ・バンド、パチジュウパチカショジュンレイだった
――でもそれであの高いクオリティのライヴができるのがすごい! レコーディングの雰囲気はどうですか?
兼重「楽しい感じですよ。Kenzoooooo君は真面目だから時間通りに来て、かっちゃんは低血圧だからちょっと遅れて来て、廣井君はめっちゃ遅刻して来て」
廣井「そこも安定して変わってないですよね~」
兼重「三者三様(笑)」
――3人揃わないと始められないんじゃないですか?
兼重「まあ、彼はベースにシールドを繋ぐだけだから遅れて来てもいいです(笑)」
――さっき兼重さんにも聞きましたけど、3人はどうやってまとまっていくんですか?
廣井「お互いがお互いのことを、どこかで〈きっと大丈夫だろ〉って思ってるから大丈夫なんでしょうね。ひとりだけがんばってて〈俺がこんなにがんばってるのに……〉みたいなところから生まれる軋轢が、大抵のバンド解散の原因じゃないか、と思ったりします」

前作から3年空いた理由と、MVがいきなり公開される理由
――それにしても今作『凍狂』はヤバいものになりましたね。個人的には今年一番の作品かもしれないです。
廣井「グラミー賞取れますかね」
――取れますよ(笑)!!
兼重「もうグラミーの時期過ぎたけどね(笑)」
――これまでの八十八ヶ所巡礼らしさはたっぷり残しつつ、今までよりキャッチーな面が増えた気がするんです。そういうことって何か意識しましたか?
廣井「これまでのアルバム6枚は1年で絶対1枚作って、8月8日か18日に出そうって決めてて※。マネージャーはよく農業に例えて〈年に1回収穫〉って言ってまして。そうやって6枚作って、7枚目を作ろうとした時に……〈なんかこのまま作っていてもバンドの力が落ちていくだけじゃないか……?〉という不安感にかられたんでしょうね、マネージャーが。だから一旦、そのサイクルをやめてみたんですよ」
※4作目『0088』のみ歌詞作りが嫌で廣井が逃亡したため9月11日に発売延期したらしい
――それで前作のリリースから3年空いたんですね。
廣井「はい。それでしばらくはライヴ活動に専念して、レコーディングはライヴの合間に2曲ずつやることにして。それを4回やれば8曲溜まるじゃないですか。そうやってレコーディングの回数を増やしながら、楽曲に向き合う時間も増やしたんです。いや、増やそうとしたんじゃなくて自然と増えていったのかな。だからそうしていくなかで、楽曲の無駄な部分が削ぎ落とされいったんだと思います。僕が衝動的に入れたかっただけの無駄が(笑)」
――それで楽曲がキャッチーになったと。でも、初期衝動は入れても、衝動的に入れようとした無駄は削るっていうのは一見矛盾してそうですよね。
兼重「そうですね。でも要するに2曲入りのシングルを4回作った、みたいなことです。じっくり3年間かけて8曲を研ぎ澄ましたんではなく、短いスパンで集中して作ったので、全曲がどれも鮮度の高いものになったと思いますよ。一番最初に録ったのは2年前とかですけど、鮮度はそのままでね。だから謎なタイミングでMVも出るんですよ(笑)」
――それもすごく気になっていました(笑)。リリースがあるわけでもないのに、2016年からコンスタントに、でも不思議なタイミングでMVを5本も公開していて。あのタイミングって前もって考えてるんですか?
兼重「戦略ないでしょ? きっと(笑)」
廣井「(笑)。MVってちゃんとプロモーションっていう役割があって、その役割通りにしか作っちゃいけないみたいな風潮がありますよね。僕らも一応ライヴ告知のためとかはありますけど」
兼重「でも、なんだか順番としては異質だよね」
――ある日突然MVが上がるからファンはドキッとしますよ(笑)。でも、2曲ずつ録音していたのに不思議と全体を通して聴けるアルバムになってますよね。
兼重「これがすごいところだと思います。あっちゃこっちゃ好奇心が飛びながらも3人が好きな音を初期衝動のまま閉じ込めたら、一本芯が通ったものになってるっていう。無自覚なのがすごいですよ」
文豪・マーガレット廣井先生の歌詞制作
――歌詞はどうやって考えてるんですか?
廣井「書き留めたりはしてなくて、どんなに酔っ払って寝てもどんなことをしても頭のなかに覚えてる言葉だけを残して。すんごい効率は悪いと思いますけどね。どうしても強烈に残ってるものってあるじゃないですか。それを真実だと思っているんです」
兼重「……っていうかさ、いまカッコよく言ったけどただの怠慢です(笑)! レコーディング当日まで1行しか出来てない言い訳ですよ、それは! じゃないと事前にめっちゃ準備してるKenzoooooo君やかっちゃんが報われないよ(笑)」
――あまり語りたくないかもしれませんけど、歌詞に込めたメッセージとかはあります?
廣井「意味はないです(笑)!!」
一同「(爆笑)」
兼重「〈やってる意味のない事が大切〉ってことね※」
※『凍狂』収録曲“金土日”の歌詞より
――歌詞に深い意味はないと。
廣井「深いとか浅いとかは聴く人の個人差なので。僕もリスナーの一員として、受け取り方の変化が楽しめたらいいなとは思って作ってます。そういう意味では昔よりは〈多様性を持った歌詞を作る〉というところは磨きがかかったかなと思ってはいるんですけど……怠慢ですかね(笑)」
兼重「(笑)。いや、そこは怠慢ではないですよ。練りに練って歌詞を書いてるところを見てるんで」
――今までのアルバムは全部8曲入りだったのが、今回の『凍狂』はボーナストラック(“怪感旅行”)が入って全9曲じゃないですか。これはなぜですか?
廣井「サーヴィスです! 〈3年間お待たせしました!〉っていう」
――歌詞の意味はリスナーそれぞれに委ねるとして、1曲目の“虚夢虚夢”で過去の楽曲の歌詞がたくさん引用されてますよね。これはどうしてですか?
廣井「サーヴィスです(笑)!!」
兼重「この曲はアルバムの全貌が見えてきた割と最後の頃に出来た曲なんです。で、すでに廣井君が書いていた歌詞にいくつか過去の歌詞の引用があったので、もともとそういう着想はあったはずなんです。でも歌詞を見ているとそこをプッシュしてる感じでもなかったので、もっと初期衝動を出してもいいんじゃないかな、とは言いましたね。勢いのある曲だし、リスタートじゃないですけど3年ぶりにアルバムを出すんだから」
廣井「僕は以前から過去を振り返るために、昔の歌詞を引用しまくって1曲作ってみたいな、とは思ってたんですよね」
――ボーナストラックの“怪感旅行”は本編のアンコール的な楽曲ですか?
廣井「そうですね。次の作品に繋がる架け橋になればいいかな、と。まあ、ならなくてもいいんですけど」
――ということは“怪感旅行”が一番新しい曲?
廣井「そうですね。あれを一番最後に録りました。意外と苦労しました」
――1曲目の“虚夢虚夢”で過去の歌詞が出てきて、ラストの“怪感旅行”が次に繋がる楽曲だとすると、ちょうどこのアルバムが過去と未来を繋ぐ作品みたいじゃないですか。
廣井「それだ! そういうことにしておきましょう!!」
――(笑)。で、次こそ〈8〉作目じゃないですか。次回作も今回みたいな制作の仕方をするのか、どう考えてますか?
廣井「“怪感旅行”が次の作品に繋がるとすれば……そのレコーディングの時に、楽器は先に録り終わって、〈ご飯食べてから歌詞考えようかな~〉ってマンガ読んでたら、その時、兼重さんが本当に怒ったんです。いつまで経ってもこの怒られ具合は変わらないなって思って。……だから! 次もいつ出来るか未定です(笑)!!」
兼重「どういう話だよ(笑)!」
廣井「なかなか成長しないんですよ、僕って」
――例えば編集者だったら作家に〆切を設けるけど、そういうのもなく?
廣井「マンガ読み終わったら歌詞出てくるかなって思ってたんですけどね」
兼重「まあ、でも〈マンガ読むな!〉って言っても、本当にそういう意味で言ってるわけでもなくて。言ったらやる時もあるし、やらなくなる時もあるから、アクションを起こすまでボールを投げ続けるのが大事なんですよね。放っておいたら放っておいたで違うことしだすし。〈マンガ読むなよ!!〉って言えば、〈うるせえな〉って逆に書き出す流れになる時もあるから。まあ、文豪の大先生と接してる編集者のようなもんですよ(笑)」
廣井「(笑)。いい例えっすね」
兼重「文豪ならいいのか!」
廣井「文豪ならよし(笑)!」
兼重「でも、そういう編集者的な役割ってメンバー同士がやるのは結構ストレスになるんですよ」
――編集者が外部にいるのが良いんですね。
兼重「そうそう。外注だから文句も言いやすいでしょうし」

〈やってる意味の無い事が大切 僕なりにがんばってる〉
――アルバムに話を戻すとして、今作のタイトルを『凍狂』にしたことには意味がありますか?
廣井「わかりやすいっていうだけです。今まで記号ばっかりとか、読み方が難しいタイトルばっかりだったので。ジャケに文字も印字しないし、みんなアルバムのことを〈あの変なおっさんの顔のジャケの、アレ〉とか呼んでて。それよりかは『凍狂』ってタイトルの方が覚えやすいですよね」
兼重「前作は『日本』だけどな(笑)!」
廣井「あ、ほんとだ(笑)! なら『愛媛』にすれば良かったっすね!」
兼重「地域の話をしてるんじゃないよ(笑)! しかもそれに気付くまで何枚アルバム出してんだよ(笑)!」
――(笑)。今回のジャケも相変わらずヤバいですね。谷口崇さんへはどういうオーダーをしたんですか?

廣井「ピンク・フロイドの豚が飛んでるジャケ(77年作『Animals』)みたいなイメージを伝えたらこれが上がってきたんです。しかも地面の部分はキング・クリムゾンの『Islands』(71年作)にも似てるからすごいビックリして。まあ、全部偶然ですけどね(笑)」
――今日のMCでも喋ってましたけど※、〈東京〉という街に思い入れはありますか?
※この日のライヴで廣井氏は「新宿のこんなライヴに来る貴様らは所詮田舎者だろう!! 東京の人間はこんなところには来ない!! あ、ちょっとはいるかもしれない……」と言って笑いを取っていた
廣井「あると思えばあるんじゃないですかね。でも、ないと言えばない。でも、大人になってから受けた刺激が一番デカい街でもあるし。でも、東京が最高だし一生住みたい、とは思わないし」
――そういう、東京という街へのあってないような思い入れが“凍狂”という曲のテーマでもあり、アルバムのテーマだったりはしますか?
廣井「だと思います。なんとなくそんな気がしてきました!」
兼重「リリースを10日後に控えていま初めて思いましたね、これは」
廣井「(笑)。思ってることはどんどん変わっていきますからね!」
兼重「どんどんブッ飛んでいくね~(笑)!」
一同「(爆笑)」
――では最後にメンバー3人に聞きたいんですけど、〈やってる意味の無いことが大切〉とはいえ、3人がバンドをやってる意味って何なんですか?
Katzuya Shimizu「うーん……それしかできないから……かな」
Kenzoooooo「…………」
兼重「……Kenzoooooo、頭から煙出てるよ(笑)。口ベタなふたりの代わりに言わせて頂きます。いま、日本で音楽をやってる人って音楽が〈目的〉の人と〈手段〉の人がいて。〈音楽で儲けたい〉とか〈音楽でモテたい〉とか〈有名になりたい〉とかは何でもいいんですけど、音楽を〈手段〉だと捉えてる人の方が多いと思うんですよ。でも、彼らは単純に〈音楽をやりたい〉だけだから、そういう階層にはいないんです。もちろん音楽をやった上で得るものがあれば、それに越したことはないと思うんですけどね」
Kenzoooooo「そそそ! そういうことが言いたかったんです!」
――なるほど(笑)……という話を受けて最後はマガレさん。バンドをやってる意味とは?
廣井「〈僕なりにがんばれる〉ことだからです!!!!」
一同「(静寂)」
廣井「……兼重さんが良いこと言った後だからオチが思いつきません!!」
兼重「そういう時は……脱げばいいんだよ!」
一同「(爆笑)」
