(左から)三好慶一郎(音響監督)、mabanua(音楽)、森山洋(監督)
 

伝説的ボクシング漫画「あしたのジョー」の連載開始から50周年を迎えたことを記念して制作されたテレビアニメ「メガロボクス」。同作は近未来を舞台とする独自の世界観や設定、そして新旧ファンの胸を打つシナリオや演出が話題を呼び、2018年を代表する一作との呼び声も高い。

そんな「メガロボクス」は、Ovallのメンバーとしても活躍するmabanuaが音楽を担当したことでも注目を集めた。ヒップホップの要素を大胆に取り入れたサウンドトラックには、ラッパー・COMA-CHIとDJ BAKUをはじめ、OvallのShingo Suzukiと関口シンゴ、別所和洋(Yasei Collective)、Michael Kanekoらが参加。サウンドトラックを超えたひとつの作品として、音楽ファンからも熱い視線が注がれた。

今回は、その『「メガロボクス」オリジナル・サウンドトラック』と「メガロボクス Blu-ray BOX 1(特装限定版)」の発売を記念し、タワーレコード新宿店で行われたトーク・イヴェントの模様をお届けする。mabanuaと監督の森山洋、音響監督の三好慶一郎の3者が制作の裏話を明かした。

mabanua MEGALOBOX (Original Soundtrack) origami(2018)

いろいろな音楽に長けた方にやっていただきたかったので、mabanuaさんにお願いしました(森山)

三好慶一郎(音響監督)「今日は事前にTwitterでも質問を募集したのですが、会場にもいらっしゃっているサチオ役の村瀬迪与さんからご質問をいただきました。mabanuaさんが楽曲を作るためにしたことは? 作業が進まなくなったときはどうしていました?」

mabanua(音楽)「楽曲を作る前は、台本を何度も読みましたね。国語の授業みたいな感じで(笑)、〈この台本には何が込められているのか?〉っていうのを読み込みました。行き詰まったときは、ミュージシャンと森山監督に質問のメールを大量に送って」

森山洋(監督)「メールはよくしましたね」

mabanua「〈こんな雰囲気ですか?〉ってYouTubeのリンクを送ったり」

三好「そもそも、『メガロボクス』の音楽をmabanuaさんにお願いした経緯というのは?」

森山「劇伴をどなたにお願いするかを考える段階で、〈好きなアーティストの名前を挙げてください〉とスタッフに言っていただいたので、リストを作ったんです。僕はいちファンとしてmabanuaさんの音楽を聴いてたので、名前を挙げさせていただいて。

それをもとに脚本のチームで相談して、〈じゃあmabanuaさんで〉と、わりとパッと決まりましたね。どういう作品に仕上がるかはわからなかったけど、ぜひ一緒にやってみたいと思ったので依頼をして、OKをいただきました」

mabanua「ありがとうございます!」

森山「『メガロボクス』には最初から〈ヒップホップ〉というテーマがあって、ブラック・ミュージックを使いたかったんです。ただ、劇伴なので、ガチガチのブラック・ミュージック/ヒップホップの方より、いろいろな音楽に長けた方にやっていただきたかった。なので、mabanuaさんにお願いしたんです」

 

いちばん苦労した曲は、〈南部贋作のテーマ〉でしょうか(mabanua)

三好「mabanuaさんが劇伴を一作通して担当されたのは、今回が初めてだったんですよね?」

mabanua「そうなんです。アニメ『坂道のアポロン』(2012年)ですとか、部分的に関わった作品はあったんですが。森山監督も今回が初監督作なんですよね?」

森山「そうです!」

mabanua「初めてどうしだったので、すごくリラックスしてできました」

三好「今日は、一般の方は見る機会がないだろう〈音楽メニュー表〉というものを持ってきています。例えば、〈南部のテーマ〉には〈うさんくささ〉〈少しコミカルで暖かい空気感〉といったコメントを入れている。

具体的に〈この楽器を使ってほしい〉などのオーダーをしつつ、この音楽メニュー表をmabanuaさんにお送りし、それを元にどういう音楽を作るかを話し合うんです。最初の打ち合わせ、けっこう大変でしたよね」

mabanua「そうですね。2時間くらいで終わる予定が、3~4時間やってましたよね。隣のスタッフがこっくりこっくりしてて(笑)」

三好「そうやって1曲ずつ煮詰めていったわけです。そこで、Twitterの質問にもありましたが、mabanuaさんがいちばん苦労された曲は?」

mabanua「“The theme of Gansaku Nanbu(南部贋作のテーマ)”でしょうか。南部って、おっちょこちょいな面もあれば、シリアスな面もあるし、名言を吐いたりもするけど、人を騙そうとしたりもするキャラクターじゃないですか。どの面を描けばいいのかがわからなくて」

森山「いちばん喜怒哀楽が激しいキャラクターなんですよね」

mabanua「なので、まず楽曲のイメージを訊きましたね」

 

やっぱり最後はあのテーマ・ソングで終わりたかったんです(三好)

三好「では、次の質問です。ジョーの曲には〈The theme of〉と付いていないのはどうして? メイン・テーマ曲“MEGALOBOX”が〈ジョーのテーマ〉なのでしょうか? ……これは〈ジョー=メガロボクス〉という考え方だったんですよね?」

mabanua「そうだと思います。森山監督から〈ジョーのテーマ〉を先に作ると言われていたので、“MEGALOBOX”は最初に作ったんです。物語を象徴するということは、『メガロボクス』という作品を象徴するということなので、それが『メガロボクス』とジョーのテーマの両方を兼ねたんです」

三好「ホントにカッコイイ曲ですよね。やっぱり時間をかけられたんですか?」

mabanua「かけましたね。最初のメロディーを作った後、〈ホントにこれでいいのか?〉と思って、5~6パターン作ったんです。でも、時間を置いて聴いたら、やっぱり最初のメロディーが頭から離れなくて。飽きないようなものになったのかなと思って、あれにしました」

三好「監督が最初に聴いたときの印象は?」

森山「デモというか、プロトタイプみたいなものをmabanuaさんにいただいたんです。すでに完成版に近いものだったんですが、それを聴いて、〈完璧! これが欲しかったんです!〉って感じて、すぐOKを出したんです。周りのスタッフからは〈もうちょっと考えろよ〉って言われて(笑)」

三好「打ちのめされた感じですか?」

森山「そうですね。言うことなしでした」

三好「僕は、正直に言って、もっとキャッチーで激しいものを想像していました。でも、劇中で何度も使っていくうちに味が出て、素敵な曲だと思うようになりましたね」

森山「僕は直感的に良いか悪いかを判断しちゃうんですけど、三好さんはその音楽をどこで、どういうふうに使うかを考えなきゃいけないので、捉え方が違うんですよね」

三好「実はメイン・テーマは全13話中4回しか使ってないんです。いちばん多く使った曲は、試合が始まる前の“Beginning of the fight”でした」

森山「でも、メイン・テーマがいちばん印象に残っている音楽だと思うんです。それぐらい強いものなので」

三好「そうですね。最終回の第13話で、メイン・テーマをBパートのジョーと勇利の試合シーンに使ったんですけど、現場では森山さんと僕とで意見が分かれていたんですよね。森山さんが使いたかったのは“Drive”という曲で。わりと揉めましたよね?」

森山「揉めてはいないですよ(笑)」

三好「プロデューサーの藤吉美那子さんに意見を訊いたら味方してくれて、〈よし!〉と思ってあの曲を使いました」

森山「第1話の冒頭で流れているのが“Drive”なんですけど、ホントにカッコよくて、大好きな曲なんです。曲名通り、ジョーがバイクで走っているイメージの曲なので、使いどころが絞られていた。なので〈ぜひ最終話で!〉って思ったんですけど、三好さんに言いくるめられて(笑)」

三好「押し切っちゃいましたね。でも、やっぱり最後はあのテーマ・ソングで終わりたかったんです」

森山「それが正解でしたね」

三好「mabanuaさんが印象に残ったシーンや曲は何ですか?」

mabanua「監督にもメールしたんですけど、最終話で南部がジョーに〈お前は誰だ?〉って問いかけるシーンですね。あそこはけっこうヤバくて、僕もう、ちょっと……」

三好「涙腺が……」

mabanua「崩壊しましたよ! 音楽では、いっぱいありますね。例えば、ゲートが閉まるシーンとか」

森山「第7話のラストですね」

mabanua「ええ。ジョーが(白都)樹生にハメられて、サチオが泣いているなかゲートが閉まる。あそこでかかっている“Deadlock”は短い曲ですが、自分でもグッときちゃって」

三好「合ってましたよね」

 

最初で最後のラップです(村瀬)

三好「それでは、ご来場のみなさまからも質問を募集しましょうか。何か訊きたいことがある方はいらっしゃいますか?」

観客「劇中、サチオがラップしている曲(Michael Kaneko “We are Bangaichi feat. Sachio”)がありましたが、声優の方とミュージシャンとの違いをmabanuaさんは感じましたか?」

mabanua「共通するものも感じましたが、違いは発声の方法、声の出し方ですね。レコーディングの話になりますが、ミュージシャンはマイクの近くで歌うんです。でも、声優さんはマイクから離れて録る。なのに、すっごく近くで話しているかのような声で録れるんですよね。〈なんであんな近く聴こえるんですか?〉って訊いたら、〈発声です〉と言われて。あのラップも、音楽的なラップというより、サチオとしてのお芝居をしながら歌ってもらわなきゃいけなかったので、その違いはありますね」

三好「ちょうど会場にサチオ役の村瀬さんがいらっしゃっています。ラップをやってみてどうだったか、一言いただいてもいいですか?」

(ここで村瀬が登壇)

村瀬迪与(サチオ)「あっ、どうも、はじめまして。サチオ役の村瀬です(笑)。もう、こんなことになるなんて……! ええっと、ラップでしたっけ?」

三好「ええ。ラッパーのCOMA-CHIさんが指導されたんですよね? 練習されました?」

村瀬「もちろんしましたよ、家で! COMA-CHIさんの声を聴きながら真似して。でも、COMA-CHIさんみたいにはできないから〈あ~、どうしよう!〉って……(笑)」

森山「〈吐きそう〉って言ってましたね(笑)」

村瀬「芝居の100倍緊張しました。最初で最後のラップです」

三好「でも、最初から完成されてましたよ」

mabanua「完璧でした!」

村瀬「ホントですか(笑)?」

mabanua「音楽業界では〈マイク乗りが良い〉って言うんですけど、村瀬さんの声が音楽にすごく馴染むので、すごいなあと思いました」

村瀬「いや~、大変でした!」

三好「村瀬さん、ありがとうございました!」

 

実は、南部には南米の血が入っているという設定があって(森山)

三好「他にお訊きしたいことがある方はいらっしゃいますか?」

観客「最終回の最後の曲(井上陽介“The ending”)がワルツなのはどうしてなんですか? それまでの劇伴とは違う雰囲気の曲だったので、それもすごく良かったのですが」

森山「ありがとうございます! 実は、脚本家の真辺克彦さんが最終話の脚本に〈ワルツが流れている〉って書れてたんです。こちらも予想していなかったんですけど(笑)。もちろん、〈ここまでヒップホップでやってきたのに、どうしてワルツなんですか?〉とはお訊きしましたが、真辺さんはただ〈ワルツがええねん〉と(笑)。

でも、第2話の時点で南部がワルツを口ずさんでいるという伏線もあります。実は、南部には南米の血が入っているという設定があって、車に十字架を付けているのもその裏設定から来ているんです。なので、南部というキャラクターであれば、ワルツのようなムードのある音楽を好んで聴いていた過去があるんじゃないかと。そういう発想でした」

三好「あの曲については、クイーンをイメージされてましたよね?」

森山「そうなんです。完全にワルツにするつもりはなくて、最終的にブラック・ミュージックになるワルツをmabanuaさんにお願いして。でも、それじゃわけがわからないですよね(笑)。なので、参考としてクイーンの“The Millionaire Waltz”を挙げました。ワルツから始まってロックに行く曲なんですけど」

mabanua「そこにヒップホップの要素を入れるという(笑)」

森山「ロックの部分をヒップホップにしてくださいと」

mabanua「〈ワルツからのロックからのヒップホップ〉と言われて、〈どうしようかな?〉って(笑)」

森山「いろいろと研究していただいたんですよね」

mabanua「〈どうしたらブライアン・メイのギターの音を出せるのか?〉っていうのを共同アレンジャーのギタリスト、井上陽介くんと研究しましたね」

森山「ありがとうございます(笑)。ホントに素晴らしい曲でした」

 

「メガロボクス」はホントに音がカッコイイ作品だと思うので(森山)

森山「ところで、三好さんがいちばん好きな曲は?」

三好「それはぜひ言おうと思ってたんですが、“Resolution”という曲です。第2話の最後で、流しのメガロボクサーだったジャンクドッグが〈ジョー〉という名前を付けてもらったときにかかっている曲で」

森山「アツい曲ですよね」

三好「静かだけどアツい。あれはホントにハマったなあと思ってます。mabanuaさんにはアレンジ違い(“Resolution - Slow”)も作っていただいて」

mabanua「ええ。各曲、アレンジ違いが3~4曲あるんですよね」

森山「ホントに豪華な作り方をしていただきました」

三好「贅沢でしたね」

森山「ペペ(・イグレシアス)や(グレン・)バロウズといったキャラクターの入場曲は1回しか使っていないんですけど、すごくカッコイイ曲で」

三好「〈ペペのテーマ〉、音楽メニュー表には〈ロック調マリアッチ風の曲〉と書いてありますね。それにしても、映像も絵コンテさえもないなか、シナリオだけで曲を作るって大変ですよね。キャラクターの声や動きもわからない状態なわけですから」

mabanua「大変でしたね……(笑)。特に、キャラクターどうしの関係性や温度感がわからないので、手探りでした。ハードルが高かったぶん、おもしろかったんですけどね」

三好「最後にもうひとつ質問が。ズバリ、爆音上映の予定は?」

会場「(拍手)お~!」

森山「〈やります!〉と言いたいところなんですけど、僕の一存ではなんとも(笑)。そういう声も多くいただいていますので、ぜひやりたいというのが僕の思いです」

三好「僕は音響監督なのでどうしても音に耳がいっちゃうんですけど、今回、倉橋裕宗さんにやっていただいた音響効果も生っぽくて、素晴らしい音なんです。音楽もmabanuaさんですし、素晴らしい声優さんたちが熱演されていますので、ぜひ劇場で爆音上映をやりたいですね!」

森山「そうですね。『メガロボクス』はホントに音がカッコイイ作品だと思うので」

 

初めてフルの劇伴を作ったので、一生忘れない思い出になりました(mabanua)

三好「9月26日(日)にBlu-rayボックスの第2巻が出ます。新作アニメが特典で付くんですよね」

森山「はい。勇利の過去についてTwitterでもよくご質問をいただくんですけど、第2巻の特典にショート・アニメとして付いておりますので、よかったらお買い求めいただいて」

三好「そして、第3巻のリリースが11月22日(木)」

森山「新作アニメも収録されますが、mabanuaさんと一緒に最終話を観ながらコメントするオーディオ・コメンタリーも聴けます。ここでお話ししていないことも聴けますので、ぜひ!」

三好「mabanuaさんのサード・アルバム『Blurred』が8月29日に出ます」

mabanua「残念ながら『メガロボクス』のような激しい曲は入ってないのですが(笑)、僕の一部が垣間見れるかと思いますので、こちらもぜひ!」

三好「では、最後に一言ずついただけますか?」

森山「本日はありがとうございました。こうしてファンのみなさまの前でお話しをさせていただく機会もそれほど多くないので、ホントにありがたく思っています。これからBlu-rayも2つリリースされますので、mabanuaさんのアルバムと共にぜひ応援をお願いいたします!」

mabanua「僕は今回、初めてフルの劇伴を作ったので、一生忘れない思い出になりました。終わった後に、監督が〈この先、何十年も残る作品になったと思います〉とメールをくださって、ホントにうれしかったんです。そういう連絡をくださる監督ってなかなかいないですよ。

なので、スタッフのみなさんがそういう思いでこの『メガロボクス』という作品に打ち込んで作っていたんだなあと。日々そう感じますし、こうしてファンの方々を前にしても実感しています。これからも『メガロボクス』を語り継いでいっていただきたいです。お子さんが生まれたら〈これを観ろ!〉と(笑)」

森山「けっこう野蛮な作品ですけどね(笑)」

三好「何世代かにわたって観ていただくということで」

mabanua「そうですね」

三好「というわけで、本日はこのあたりで。どうもありがとうございました!」

森山&mabanua「ありがとうございました!」