天野龍太郎「毎週金曜日にMikiki編集部の田中と天野がお送りしている〈Pop Style Now〉です。……結局カニエの新作『Yandhi』出なかったじゃん!」

田中亮太「まあ、〈やっぱり〉みたいなところはありますけどね」

天野「実は僕も出ないと思ってました。はあ……」

田中「それはさておき、今週も必聴の5曲を紹介していきますよ」

天野「まずは〈Song Of The Week〉です!」

 

Lil Wayne feat. Kendrick Lamar “Mona Lisa”
Song Of The Week

天野「〈今週の一曲〉といったらもうこれしかないでしょう! リル・ウェインとケンドリック・ラマーの“Mona Lisa”!!」

田中「すっごく話題になってましたね」

天野「ええ。先週金曜日、リル・ウェインの誕生日である9月28日にリリースされたアルバム『Tha Carter V』の収録曲で、この一週間、ラップ・ファンひいては音楽ファンの話題の中心になっていました」

田中「『Tha Carter V』は出る出るって言われてて、ずっと出なかった作品ですね」

天野「ウィージーがレーベルのキャッシュ・マニーとそのトップのバードマンと喧嘩してるからですね。6年越しにようやくという感じです。それはさておき、“Mona Lisa”ですよ! ホントにすごい!!」

田中「シリアスなピアノのループとケンドリック・ラマーの〈I got a story to tell...〉っていうつぶやきのイントロからしびれますね。リル・ウェインのヴァースとケンドリックのヴァースを区切る一瞬の無音もクール」

天野「2人のヴァース、何小節あるんだっていうくらい長くて、言葉を詰め込んだラップを畳み掛けてきます。こういうのを本当の〈スキル〉って言うんでしょうね。いまではちょっと想像できないんですけど(笑)、リル・ウェインって出てきた当初は十代で、若いのにものすごくスキルフルな天才少年だったんですよ」

田中「へ~。“Mona Lisa”は改めてリル・ウェインの才能がよくわかる曲ですね」

天野「ですね。渡辺志保さんが詳しく解説されてますが、この曲は美人局の話で、騙す女と騙される男についての物語になっています。特に後半、ケンドリックはものすごいですね。“Control”での怒涛のラップを思い出します」

田中「うわずった声音で美人局に騙された男の焦りや動揺を表現しているパートは圧倒的です」

天野「小林雅明さんが著書『ミックステープ文化論』でも書かれてましたが、実はケンドリックは駆け出しのときにリル・ウェインからのお墨付きをもらったという経緯があって。10年来の先輩後輩関係にあるんですよね」

田中「ほほー、そうなんですね。ところでNMEなんかも書いてますが、海外では“Mona Lisa”も含めてミソジニー的表現を理由にアルバムの評価を低める傾向も見られます」

天野「それは批判されてしかるべき……とは正直、思いますね。自分自身も引っ掛かることが多いですし。『フリースタイルダンジョン』に出演した椿の活躍や巣矢倫理子さんの素晴らしいエッセイをきっかけに、ここ日本でもラップ・ミュージックにおけるミソジニーというのは議論が進みつつあります」

田中「同感です」

天野「とはいえ……僕は『Tha Carter V』は素晴らしいアルバムだと思いました。いまのリル・ウェインにここまで力強く、充実した作品が出せるとは、ちょっと思っていなかったですし。今年の最重要作のひとつであることは間違いないでしょう」

 

Lil Durk feat. Young Dolph & Lil Baby “Downfall”

天野「2曲目はリル・ダークの新曲“Downfall”です」

田中「来週リリースのアルバム『Signed To The Streets 3』からのシングルですね」

天野「です。リル・ダークはシカゴのラッパーで、現在25歳」

田中「シカゴっていったらカニエ・ウェストとチャンス・ザ・ラッパー、そしてドリルですな」

天野「ダークはドリル・ラッパーです。ドリルといえばラッパーのチーフ・キーフなんかが有名ですが、そもそも治安の悪いシカゴのなかでもとりわけ危険な南部で独自に発達したトラップのことを指します」

田中「ビートはトラップとほぼ同じですね」

天野「そうですね。ドリルも2010年代前半に一時期盛り上がりましたが、最近は〈ドリルは死んだ〉とか〈UKドリルのほうがすごい〉とか言うファンもいて。どうなんでしょう?」

田中「とはいえ、ダークはその状況を生き延びてるわけですね」

天野「ええ。ダークはデフ・ジャムとの契約を掴み取って2015年にアルバム『Remember My Name』でデビューしています。契約は終わっちゃったみたいですけど。あと2016年には“My Beyoncé”っていうヒット曲が。デージ・ローフっていう恋人に捧げた、ドリル・サウンドからは想像もできないような超あま~いラヴソングで、ラッパーである彼女もこの曲には参加しています。すでに破局しちゃったみたいですけど。……前置きが長くなりましたが“Downfall”です」

田中「メランコリックだけどメロディアスな、いまっぽいトラップですね。この曲にはヤング・ドルフとリル・ベイビーが参加しています」

天野「ヤング・ドルフはメンフィスのラッパーで、実はシカゴ生まれ。ダークの先輩ですね。ベイビーはトラップの本場・アトランタで、言うなれば後輩です。彼が5月に発表したデビュー・アルバム『Harder Than Ever』はけっこうよかったですよ。いい組み合わせだなあと。で、この曲は言うなれば悪友に向けた歌って感じでしょうか」

田中「というと?」

天野「僕の解釈が間違ってなければ、フックは〈お前はダウンフォール(破滅の元)だ〉〈ドッグ・フード(ヘロイン)なんか売りさばいて〉〈でもお前は俺の仲間だ〉というような感じです。客演については、ドルフの太い声のラップもいいんですが、ベイビーのふわっとしたラップが特に印象に残りますね。〈お前とは砂場で遊んでた頃から仲間だ〉みたいなラインもベタに感傷的ですが、いいですね。主役のダークもですが、ベイビーにはこれからも注目したいです」

田中「今日、ガンナとのコラボ作『Drip Harder』もリリースされましたしね」

 

Jessie Ware “Overtime”

田中「次は、ロンドン出身のシンガー・ソングライター、ジェシー・ウェアから昨年リリースのアルバム『Glasshouse』以来となる新曲。シミアン・モバイル・ディスコのジェームズ・フォードとバイセップの2人をプロデュースに招いた、ハウシーなサウンドになっています!」

天野「これは踊れますねー! 最高。元々SBTRKTやディスクロージャーの楽曲にシンガーとしてフィーチャーされてきた彼女ですが、自分の作品ではちょっと路線が違いますよね。アコースティックだったり、R&Bだったり、ダウンテンポ系だったり。なので、この曲はすっごくフレッシュに感じました」

田中「彼女のオリジナル楽曲のなかでは、指折りのダンス・トラックと言えるのでは。ジェシーも〈若い頃の感覚が戻ってきたような気分〉と述べているようです。ブリブリのベースと硬めのドラムが基軸のサウンド設計も見事だし、いつになく官能的でパワフルな歌声もめっちゃ良いです。時折入ってくる〈ビュー!〉ってシンセも最高にカッコイイ!」

天野「ハウスはいつだって最高の音楽ですが、今年は例年以上に傑作が目立つ気も。僕がずっと聴いてるのはブレイズのアルバム『Dancehall』。フランスの従兄弟デュオで、映像も自分たちで作っちゃう人たちです。アルバム、すでに100回以上聴いてます。批評家たちの評価は厳しめで、ちょっとムカついてるんですが……」

 

Sharon Van Etten “Comeback Kid”

田中「シャロン・ヴァン・エッテンは、ブルックリンを拠点に活動するシンガー・ソングライター。フォークを基調にしたサウンド、滋味深い歌声で人気を博してきました。が、この新曲にはおったまげ。何がどうしてこうなった!?とファンも驚くであろう、圧の強いロック・サウンドです」

天野「生ドラムとプログラミングを組み合わせてるのか、音色を加工してるのかわかりませんが、ビートの迫力がすごいっすね。というのも今回、セイント・ヴィンセントやエンジェル・オルセンとの仕事でも知られるジョン・コングルトンがプロデューサーを務めてて。元々コンプをかけた音作りで知られている人なので、この曲の音像は彼の手腕を確かに感じますね」

田中〈Pitchfork〉の記事では、ローランドのTR-808が使われているとありましたが、ソースが見当たらす……。自分はテーム・インパラの『Currents』を想起しましたね」

天野「あ~、確かに」

田中「スタジアム級のスケール感を持ちつつ、大味にならない端正さが見事です」

天野「シャロンは2014年の前作『Are We There』以降、作曲に使う楽器をギターから鍵盤に変えたそうで。ピアノのみならずシンセも使ってるようなので、その手法の変化もヴィヴィッドに反映されているのでは。あと、Netflixのドラマ『OA』でも印象的な演技をしてましたけど、最近は女優業も活発で」

田中「キャリアは短くない音楽家ですけど、いよいよポップ・フィールドにも進出しそうな雰囲気。この曲を収録した新作『Remind Me Tomorrow』は、来年1月にリリース予定です!」

 

Phosphorescent “C’est La Vie No. 2”

天野「最後は、フォスフォレッセントが今日リリースしたアルバム『C’est La Vie』の収録曲 “C’est La Vie No. 2”。……ええっと、この髭オヤジは誰なんですか?」

田中「説明しましょう。フォスフォレッセントことマシュー・フックは、80年生まれの38歳」

天野「まあまあの年齢ですね」

田中「2000年前後から活動を本格化させ、弦楽器が特徴のシネマティックなアンサンブルとエレクトロニックな装いを融合させたモダンなポップスに定評があって、本国アメリカを中心に海外では確固たる地位を築いてるんです。新作『C’est La Vie』は、5年ぶり、7作目のアルバムで」

天野「へー。ググってみたら『アメイジング・スパイダーマン2』(2014年)とか、映画の劇伴にも彼の楽曲は使われてるんですね。〈あのシーンの曲、実はこの人だったんだ!〉ってパターンが多そう。実際、この“C’est La Vie No. 2”も、柔らかいシンセの音色が浮遊感たっぷりで、そこに乗っかるエモすぎないメロディーが泣かせにかかる感じ。まさに映画で使われそうっていうか」

田中「リリースはこれまでの作品同様、アクロン・ファミリーやケヴィン・モービーで知られるデッド・オーシャンズより。Mikikiでもこのレーベルの特集記事を掲載しましたが、アメリカーナなサウンドを基調に、実験性や先鋭性を調和させる彼の音作りは、まさにデッド・オーシャンズ印です。新作収録の別の楽曲“New Birth In New England”を披露しているTVパフォーマンスがすごく良かったので、最後にそちらも紹介しておきます。7人編成での演奏が醸す、ささやかな多幸感が堪りません(涙)」

天野「では、今週はこのあたりで! 良い3連休を~」