ドイツ・グラモフォン120周年
「Yellow Lounge」は、今年創立120周年を迎えたクラシック最古のレーベル=ドイツ・グラモフォンが、よりリラックスした雰囲気でクラシック・ミュージックを楽しめるよう、ドイツのハンブルクでスタートさせたイヴェント。そんな「Yellow Lounge」が、世界中で賞賛を浴びるウルトラテクノロジスト集団“teamLab”とコラボレーションし、日本に本格上陸を果たした本公演「Yellow Lounge Tokyo 2018」が、9月12日にお台場にある「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」で開催された。
僕は何を観たのだろう。それは確かにクラシック/ジャズの"ライヴ"だった。しかしDJがライヴ間を繋くごとで総てが一連となった"音楽作品"でもあった。更にPM(プロジェクション・マッピング)が視覚要素を補完し正に"アート空間"でもあった。筆舌には尽くしがたい1時間半、それがYELLOW LOUNGE TOKYOだった。
YELLOW LOUNGEはドイツ・グラモフォンが主催しクラシックの"新しい楽しみ方"を呈示するイベントとして2001年ドイツよりスタートした。世界各国のクラブでクラシック音楽を聴くという刺激的な趣向から回を重ねるごとに話題に。人気・実力共に高いアーティストが20~30分のライヴを披露し、その合間にDJが音楽をかけるというコンサートホールとは違ったプログラム構成に成っている。今回はDJをAoi Mizuno、ライヴを山中千尋、アリス=紗良・オット、ミッシャ・マイスキーが担当した。
2018年9月12日22時、お台場は「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」。作品「人々のための岩に憑依する滝」のスペースで行われた。中央の岩を模したアートの前にスタインウェイのピアノが鎮座しジャズトリオのスペースが出来上がっていた。左手にはDJブース、壁面には同作品のPMが投影され既にアート作品を享受できる空間になっていた。
時間になると突如見当たらないはずのオーケストラのチューニングの音が鳴る。Aoi Mizunoのパフォーマンスが始まったのだ。9月にリリースした「MILLENNIALS-WE WILL CLASSIC YOU-」より《THE LATEST ROMANTICS》を披露。ツァラトゥストラの偉大な導入からの火星の流れが場を高揚させていった。リミックスを施されたクラシックの名曲と、曼珠沙華のPMが交わりさながら往年の名画「ファンタジア」を思わせる不思議な共感覚を刺激する。
DJパフォーマンスが終わると真っ赤なドレスを纏った山中千尋が登場。ベースは須川崇志、ドラムは桃井裕範を擁したトリオで「Taxi-Gennarino suite」と銘打ったメドレーを披露。最新作「ユートピア」から《乙女の祈り》を皮切りに4曲を熱演。疾走感溢れる演奏・楽曲もさることながらジャズとPMの親和性の高さには息を呑むばかり。
山中千尋トリオの演奏後は再びAoi Mizunoのパフォーマンス。凄まじい熱気のトリオの演奏から、モーツァルトのクラリネット協奏曲第2楽章の断片に橋渡しされ見事な緩叙楽章を演出した。
次はアリス=紗良・オットのステージ。カジュアルな衣装とチャーミングな振る舞いが印象的だったが、演奏はそれを感じさせない緊張感に溢れ拍手を挟ませず3曲を一気に弾き抜けた。オールフランスプログラムの最新作「ナイトフォール」からドビュッシーとサティ。《グノシエンヌ第1番》の尋常ではない繊細さが身を包む。静寂と楽音の美しさがPMと絡まった圧巻のステージだ。
そして巨匠ミッシャ・マイスキーの登場だ。アリス=紗良が伴奏するというのも豪華の極みなのだが、YELLOW LOUNGEの魅力の一つである距離の近さもまた豪華。音楽の流れ・息遣い・空気感を御大と間近で共有できる、それはさながら贅沢なサロンコンサート。
最後はAoi Mizunoがフィナーレを担いイベントを締めた。観客も足を伸ばしたりリラックスして鑑賞でき、目でも耳でも楽しめる上質なクラシックのコンサートだった。間違いなく至福の1時間半を体験したと言わざるを得ない。 *板谷祐輝