天野龍太郎毎週金曜日にMikiki編集部の田中と天野がお送りしている〈Pop Style Now〉です」

田中亮太「カニエが正気を取り戻したそうで……」

天野「〈政治からは距離を取って、クリエイティヴであることに全力を注ぐ〉って言ってますね。マジでそうしてください……。そんなことより、僕の大好きなカーリー・レイ・ジェプセンが昨夜、新曲“Party For One”をリリースしました」

田中「タイミングの関係で以下の5曲には入れていませんが、傷ついた者たちを鼓舞するフロア・バンガー。最高!! 泣ける~」

天野「(テンション高いな……)確かに、いいリリックですよね。ロビンの名曲“Dancing On My Own”を思い出しました。それでは〈Song Of The Week〉から!」

 

Sunflower Bean “Come For Me”
Song Of The Week

田中「今週の〈SOTW〉はサンフラワー・ビーンの新曲“Come For Me”! ブルックリン出身の3ピースで、現在までに2作のアルバムを出しています。セカンドの『Twentytwo In Blue』は今年4月のリリースでしたね」

天野「実は、彼女たちの音楽にはあんまりピンときてなかったんですよ。ハイプなイメージもあったし。『Twentytwo In Blue』でフリートウッド・マック風なポップ・サウンドに転向したのもよくわかんなくて……。でも、この曲は最高ですね!」

田中「シン・リジーやランナウェイズを彷彿とさせる豪快なギター・サウンドに、いきなりテンションが上がります! ヴォーカリスト兼ベーシストのジュリア・カミングの歌声も、ガナリ声がますます様になっていて、めちゃくちゃストロング。なんというか……ロック・スター感?」

天野「カッティングが気持ちいいギター・リフといい、懐かしさを感じるロックのファンな魅力がいっぱいの楽曲。シアー・マグの“Fan The Flames”をもっとストレートにやった感じ。〈Do you, do you, do you, do you?〉というリフレインにも痺れます」

田中「ジュリアはこの曲について、〈内なる強さや力、性的な自由にインスパイアされた〉と語っていて、バンドにとっても〈時間をムダにしているヒマはないんだよ、準備はできている?〉とパワフルに宣言している曲のようにも聴こえます。この曲を含むEP『King Of The Dudes』は、来年1月にリリース予定。だいぶ先だなーと思いましたが、今年はもう2か月ないというね……」

天野「総括記事などをやるかは未定ですが、今年もきっちり最後までやり通して、来年も引き続き更新していきましょう。ポップは常に現在進行形ですからね!」

 

Poppy feat. Grimes “Play Destroy”

天野「次はポピーがグライムスをフィーチャーした“Play Destroy”。2015年に〈I’m Poppy〉と言ってるだけの動画がヴァイラル・ヒットした不思議ちゃんYouTuberです。で、なんなんですか、この曲は……」

田中「いやいや、めっちゃ良いじゃないですか! インダストリアルなビートとニューメタル系のギター・リフ、そこにエレポップ的なメロディーを乗せるというフォーマット自体はまんまナイン・インチ・ネイルズというか、そんなに珍しくないんですが、それにロリータ・ヴォイスを加わるとフレッシュという。これは盲点を突いてきましたよ」

天野「そんなにかなー……。コーラスだけギター・ポップになったり、確かにおもしろい曲ではありますし、そういう変なところ、ちょっとナンセンスな感じがグライムスの『Art Angels』っぽいかな。この曲は今週の水曜日、10月31日にリリースされたアルバム『Am I A Girl?』に収録されてるんですけど、基本的なテイストはコケティッシュなエレポップ。なぜか最後の2曲だけ、こういうラウドな曲が入ってる構成も謎でした」

田中「アルバム自体は、前作『Poppy.Computer』(2017年)に続き、ディプロの主宰するマッド・ディセントからのリリースなので、M.I.A.の作品を思わせるグローカルなビートのスパイスも入ってますね」

天野「アーティストとしての存在感もアルバムのサウンドもとにかく変ですよね。でも、この“Play Destroy”が〈おもしろい〉という意味でのポップさは突き抜けてるかも」

田中「グライムスとこの路線で一枚作ってもいいんじゃないかなー。今年リリースされたもののなかでは、ファックト・アップの新作『Dose Your Dreams』に近い印象も持ちました。あっちはセカンド・サマー・オブ・ラヴ的なユーフォリアがもっと前景に出てましたが。あと、90年代に局所的に盛り上がったデジタル・ハードコア感もあるなと。まぁ、トラッシーで殺伐とした表現を欲してしまう時代なんでしょうね……」

天野「デジタル・エイジのトラッシュ感をものすごく感じる一曲でしたね」

 

Takeoff “Last Memory”

天野「続いては、ミーゴスのテイクオフが発表したシングル“Last Memory”です」

田中「本日11月2日(金)にリリースされたソロ・デビュー・アルバム『The Last Rocket』からのリード曲ですね」

天野「ですね。先日リリースされた、クエイヴォのアルバム『Quavo Huncho』に続くミーゴスのソロ第2弾です」

田中「その後にオフセットのアルバムが出て、来年1月には本隊=ミーゴスの新作『Culture III』が出るという流れになるみたいですね」

天野「なんたるハード・ワーキンっぷり! ミーゴスの連中って、どんどんフリースタイルでラップして曲を録っていくらしいので、これだけ客演をこなしたり、新曲をたくさんリリースしたりできるんでしょうね。たぶん、アトランタとかの大方のラッパーたちはそういうやり方なんじゃないかな」

田中「映画『8 Mile』(2002年)ではエミネムがバスに乗ってて、リリックを紙切れに書いてましたけど、時代は変わりましたね……」

天野「メモるとしても、いまはスマホでしょうしね。で、本題のテイクオフの曲です」

田中「プロデューサーは、カレンシーとの仕事で知られるモンスタービーツ。イントロから最後まで流れてる、変調されたヴォイス・サンプルが印象的で、不思議な浮遊感のある楽曲ですね」

天野「シングルのアートワークも宇宙飛行士ですけど、サウンドにも宇宙感がありますね。ダークなムードのラップに対して、リリックの内容はブリンブリンな金持ち自慢とモテ自慢。コーラスの後半では〈土星、月、地球、そして火星/NASAはロケットでテイクオフする〉とラップしてて、自分の名前にもかけつつ、アルバム・タイトルを予告する曲になっています」

田中「……前澤友作社長みたいですね」

天野「前澤社長もラップしたらいいのに。ミーゴスの連中と気が合いそうだし。ちなみにリリックに出てくる〈nawf〉っていうのはミーゴスお得意のスラングで、〈north〉を訛らせたものですね。〈Nawfside〉とか〈Nawf Atlanta〉とかでミーゴスの地元、アトランタ北部のグイネット郡を指します」

田中「そういえば以前、ドラマ『アトランタ』で才能を発揮しまくってるチャイルディッシュ・ガンビーノことドナルド・グローヴァーとクエイヴォがスタジオに入ってるという話題もありましたね。ワーキング・タイトルは〈Huncho x Glover: Nawf Atlanta〉だとか」

天野「クエイヴォは、今年の象徴的な一曲“This Is America”にも参加してますし、そのレコーディングだったのかな。それとも別のプロジェクトなのかな。いずれにせよ、ミーゴスの3人の動きからは目が離せません」

 

Theophilus London feat. Tame Impala “Only You”

田中「4曲目は、セオフィラス・ロンドンがテーム・インパラをフィーチャーした楽曲“Only You”。オージー・サイケの神バンドであり、マーク・ロンソンやレディー・ガガ、カリ・ウチスなどポップ方面でも大活躍のケヴィン・パーカーが率いるテーム・インパラは、もはや説明不要ですよね」

天野「そのわりには、くどい言い回し……。テーム・インパラっていうかケヴィンは超ひっぱりだこですよね。トラヴィス・スコットとかリアーナとか、アフリカ系のアーティストにすごく好かれてて。で、セオフィラスはNY出身のシンガーです。生まれはトリニダード・トバゴだとか。僕は知らなかったんですが、2014年のアルバム『Vibes』はカニエが全面的にプロデュースをしてたみたいで」

田中「僕もノーマークでした。ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズなんかも参加してたんですね。先月にテーム・インパラとセオが〈セオ・インパラ(Theo Impala)〉としてライヴをしたことで話題になっていて、その後、かのヴァージル・アブローがパーソナリティーを務めている〈Beats 1〉の番組で、この曲と“Whiplash”という曲がエクスクルーシヴとしてプレイされて……」

天野「亮太さん、いま物知り顔で言いましたけど、昨日までヴァージル・アブローのこと知らなかったじゃないですか! ストリートでめちゃくちゃ人気のある〈Off-White〉のデザイナーで、いまもっとも影響力のある人ですよ。カニエと超仲良くて、ファッションやアート面でのパートナーでもあるんです。とりあえず〈i-D〉のこの記事を読んでください!」

田中「あとで読みます……。で、この“Only You”は、スティーヴ・モナイトが84年にリリースしたアフロ・ブギーの人気曲をカヴァーです。エレクトロ・ファンク的なシンセ・ドラムが印象的だった原曲と比較して、サウンドはぐっと洗練されてまろやか。ケヴィンならではの甘美なサイケ感とセオのセクシーで男らしい歌声も相性バツグンで、見事なリメイクですね!」

天野「イエス! ちなみに、この曲はセオの新作『BeBey』からのリード・シングルだそうで。アルバムの詳細は発表されてませんが、ケヴィンとのコラボは他にもあるのか、彼以外ではどんなプロデューサーが参加してるのか、すっごく楽しみですね」

 

Tyla Yaweh “She Bad”

天野「最後は新人、タイラ・ヤーウェの“She Bad”です」

田中「彼はフロリダ、オークランドのラッパーとのことで。これまで〈SXSW〉に出演したり、シングル“Gemini”がヒットしたりと、注目を集めつつあるフレッシュマンです」

天野「フューチャーとのコラボレーション・アルバム『WRLD On Drugs』も話題だったジュース・ワールドと“Blink 182”(!)という曲を発表したり、いま波に乗ってるラッパーなのでは。その証拠に、ポスト・マローンとその敏腕マネージャー=ドレー・ロンドンが立ち上げたロンドン・エンターテインメントとの契約を勝ち得ています」

田中「それにしてもこの曲、カッコイイですね。〈♪ライク・マイケル・ジャ~クソ~ン〉ってコーラスに中毒性があって」

天野「〈私はマイケル・ジャクソン並みにダンスがうまいのって彼女は言うんだ〉と。でも〈She bad〉と続くってことは、結局〈ダンスは下手だった〉ってことなのかな」

田中「でもその動きにセクシュアルな魅力を感じてる曲ですね。〈moonwalk〉〈thriller〉なんてマイケル・ネタが歌詞に出てきますが、〈bad〉ももちろんマイケルの曲名にかけてるんでしょうね」

天野「この曲はラップ・ソングというよりは歌がメインで、このメロディアスな歌い手としての魅力にきっとポスト・マローンも惚れ込んだのかなと。タイ・ダラー・サインみたいな〈ほぼ歌ラップ〉なスタイルです」

田中「来年のフェスで、大合唱を起こしている絵が想像できます。プロデューサーはビズネス・ボーイ。スワエ・リーやパーティーネクストドアの楽曲を手掛けている注目株ですが、彼特有のファンキーかつ酩酊感を醸したトラックもいいですね。レトロさとフレッシュさの同居したサウンドで」

天野「ですね。今後、この“She Bad”も収録されるデビューEP『F The Rules』を発表するとのことで、まずは作品に期待ですね。それでは今週はこのあたりで。グッド・ヴァイブスなヴィンス・ステイプルズの新作『FM!』を聴きながら、また来週!」