配信、リリースの予定もなく、突如YouTubeにミュージックビデオが投下された新体制初の楽曲。まずは新ヴォーカリスト・石野理子の鬼気迫るダンスや、広島と東京に分かれて撮影されたという幻想的な2分割の映像、そして2画面に仕掛けられたさまざまな要素やトリックに目を奪われるが、聴けば聴くほど魂の込められた楽曲にも驚きを隠せない。
刺すようなギターと、荒く歪んで暴れるベース、すんなり聴けるようで実は複雑怪奇なドラムス。王道のロック・チューンが始まると見せかけて、予測不能なコード進行が展開するのはやはり赤い公園ならでは。その上で石野が真っ直ぐに歌うのは、〈終わらせたっていいけど 終わらせるなら今だけど〉〈こんなところで消えない 消さない〉という、決意などといった生易しい気持ちではなく、執念とか意地といった類の歌詞。そしてこれまでの紆余曲折を鑑みれば、それは否が応でもバンドの現状と結びつく。
現時点では歌詞が公開されていないのであくまで推測にはなるが、自分を消さないようにと突き動かす〈何か〉は、たとえタイタニック号沈没や吉原炎上(〈沈むタイタン号 燃える人形町〉)といった事件・事故、あるいは宇宙規模の天変地異が起こったとしても決して消えないもの。そこには、これまでの曲で〈連れてきた思い出も いつかはきっと 朽ちてゆくもの〉〈枯れないものはない〉といった死生観・諸行無常さを見せてきた赤い公園とは真逆の、強い精神力が感じられる。そんな〈何か〉を抱える自分は、笑顔で日常を過ごしつつも思いつめていき、桃源郷やティル・ナ・ノーグ(ケルト神話に登場する楽園)に逝くことすら夢想してしまうが(〈ここは桃源郷 またはティル・ナ・ノーグ〉)、やはり消えない〈何か〉がそれをも許さず、現実と向き合わせる。そうして出た結論がこの歌詞であり、この曲なのだろう。
赤い公園はこれまでにも、言い様のない情念が感じられる楽曲をいくつも発表してはいるが、自分たちの感情をここまでストレートに表現してぶつけた曲はないはずだ。そしてそれを歌い上げる弱冠18歳、石野理子の表現力も流石の一言で、ただ歌わされているのではなく、歌詞の意味からバンドが立たされている状況まで、すべてを理解したうえでのこの歌唱だろう。画面上では離れていても、すでに4人はバンドとして硬く結束し、いまにもこちらに飛び込もうと準備万端なはず。赤い公園はここから始まるのだ。