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ウェスの日本好きがこんなに美しいストップモーション・アニメになった

 50・60年代の日本映画や、黒澤明、宮崎駿、葛飾北斎、歌川広重の名前をつらつらと挙げる日本大好きのウェス・アンダーソンが〈日本の巨匠たちから強いインスピレーションを受けて作った〉最新作は、パペットを少しずつ動かしてカメラ撮影をし、連続させて動いているように見せる〈ストップモーション・アニメ〉。20年後の日本を舞台に、〈犬ヶ島〉に追放された愛犬を探しにいく少年アタリとその冒険の中で出会う犬たち、反犬派と親犬派の対立を描いたアドベンチャー。

ウェス・アンダーソン 『犬ヶ島』 20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン(2018)

 犬たちの声には豪華な俳優陣が起用(詳しくはクレジットを)。彼らは本当によく喋る。ゴシップも自分たちが置かれている現状のことも素直な気持ちも。みんなが一斉に話し出すし、つぶやきはときに聞き取れない。そしてやたら多数決を取る。そんな犬たちの、自分勝手じゃなさ、には、人類の友でもある彼らの誠実さを感じる。

 声で言うと、グレタ・ガーウィグの早口、ぜったい欠かせない。少年アタリの声のコーユー・ランキンはカナダと日本のハーフで当時8歳。彼が本当に良くて、未熟さ、真っ直ぐさ、隠している不安、それらからあふれるたどたどしさ、そのほかたくさんの表情を見せる。日本からは、野田洋次郎(RADWINPS)、渡辺謙、村上虹郎、夏木マリなどが日本要素をより深める。

 声優でも参加しているクリエイティブディレクターの野村訓市が今作には初期から関わっていて、日本の設定、セリフの監修、日本人のキャスティングを担当。口数の多い英語の独特なリズムが生み出す笑い、そのニュアンスを壊さないための日本語のチョイスや会話のリズムは違和感なくさりげなくて、ちゃんと可笑しい。

 犬の毛は常に風になびいている。微風にも。その動き1つとっても、それは何枚もの写真がつながった1カットなのだ。はあ。このシーンを作り上げた現実の時間の経過と、一瞬の毛の動きのなめらかさに溜息がでる。

 見どころはあまりに多い。精巧にデザインされた背景の美しさ。パペットの動き。冒頭と終盤に読み上げられる俳句も、印象的なオープニングの太鼓も。ウェスのヒーローでもあるヨーコ・オノのキャラも作られ、登場する(声も本人)。口笛の3音と、そのときのおちょぼ口もちゃんと見てほしい。