(左上から時計回りに)マナ、ユナ、カナ、ユウキ
 

ジャパニーズ・パンク・バンド、CHAIは〈カワイイ〉を再定義している――英国のカルチャー・マガジン「i-D」はCHAIをこのように伝えた。この記事に限らず、海外のメディアは彼女たちをこぞって〈ジャパニーズ・パンク〉と紹介。詳しくは以下のインタヴューを読んでほしいが、ファースト・アルバム『PINK』(2017年)のリリース以降、欧米でも一躍注目される存在となったCHAIは、ここで自分たちが〈パンク〉と捉えられたことに驚き、戸惑ったという。

そして2019年、CHAIは国内外でリリースが待ち望まれていたセカンド・アルバムをついに完成。その作品に『PUNK』と名付けた。常に陽性のヴァイブスを放つ4人は所謂ライオット・ガールではないし、音楽性を常にアップデートさせていく彼女たちは、初期衝動でひたすら突っ走るようなタイプでもない。ただ、CHAIは欧米各国をツアーしてきたなかできっと確信したのだ。自分たちが打ち出してきた〈NEOかわいい〉〈コンプレックスはアートなり!〉という価値観が、いま世界中で求められていること、そしてそれを伝えていくことが〈パンク〉なのだと。

なにはともあれ、CHAIの音楽は今作も徹底してポジティヴ。そして最高にグルーヴィーだ。腰にくる太いビートを鳴らしながら、人がお互いを認めあうこと、ありのままでいることの素晴らしさを高らかに歌ったアルバム『PUNK』について、CHAIの4人に話を訊いてきた。

CHAI PUNK OTEMOYAN(2019)

海外のオーディエンスはCHAIをどう聴く?

――中国・台湾ツアーから帰ってきたばかりなんですよね。手応えはどうでしたか?

マナ(ヴォーカル/キーボード)「めっちゃよかった。待ってくれてた感がすごかったよね?」

ユウキ(ベース/コーラス)「うん。イントロが鳴った瞬間に〈キャー!〉みたいな」

マナ「そうそう。〈私たちの曲をこんなに知ってくれてるんだ!〉って」

カナ(ヴォーカル/ギター)「特にMVをだしてる“N.E.O. ”とか“フューチャー”なんかは、反応がものすごかったよね」

2017年作『PINK』収録曲“N.E.O.”
 

――すごいな。じゃあ、 CHAIの曲に込められたメッセージは海外のファンにどう捉えられてるの? 歌詞とかも伝わってるように感じた?

マナ「どうなんだろ? でも、曲間のMCで〈次はこういう曲だよ〉みたいなことはいつも話してるから、そのときの反応はいいよね。それに人がコンプレックスで悩んだりするのって、どの土地だろうと同じだから。〈かわいい〉は日本っぽい表現なのかもしれないけど、〈褒められたい〉っていう気持ちは誰にでもあるよね」

ユウキ「うん。それに歌詞の内容はそこまで理解されてなくても、〈曲が始まって3秒で幸せな気持ちになった〉みたいな言葉をかけてもらえると、CHAIのポジティヴさはちゃんと伝わってるんだなって」

――『PINK』は欧米の音楽メディアでもたくさん取り上げられてたね。

ユウキ「そうそう、ものすごくいい記事を書いてもらえたよね。歌詞を読まなきゃわからないこともしっかり伝えてくれてて、本当にうれしかったな」

 

影響されっぱなしだったスーパーオーガニズムとのツアー

――あと、昨年はスーパーオーガニズムと一緒にイギリスとアイルランドを回ってきたんだよね。彼らとはどんなところで意気投合したんですか?

ユナ(ドラムス/コーラス)「意気投合っていうか、私たちが普通にファンなんだよね(笑)」

マナ「スーパーオーガニズムはとにかく音楽が素晴らしいし、パフォーマンスも最高。あれはもう、〈いい〉としか言えないよね」

ユウキ「影響されっぱなしだよね。〈私たちもああいうことがやりたい!〉と思っちゃうくらいにすごいバンド。しかも、同じことを向こうも思ってくれてるみたいで。なんていうか、本当にずば抜けてると思う」

スーパーオーガニズムの2018年作『Superoraganism』収録曲“Something For Your M.I.N.D.”
 

――じゃあ、スーパーオーガニズムのオロノさんをみんなはどんなふうに捉えてる? すごく知的でトガった人っていうイメージがあるんだけど。

マナ「オロノちゃんは、いちばん人間っぽい。なんていうか、いい意味ですっごくわがままなんだよね(笑)。〈今日はステージに出たくない〉とか〈なんでこんな曲やってるんだろ〉とか、よくそういうことをブツブツ言ってて、それを聞いた私たちが笑う、みたいな(笑)。オロノちゃんはそうやって〈いま私はこう感じてるんだ〉ってことをまわりにはっきり伝えてるし、そういう存在のままでずっと生き続けてる。もう、本当にかっこいいんだよ。だって、ステージ上でもそのままなんだから」

ユナ「そう、ぜんぜん変わらないんだよね」

マナ「ステージ上で喋ってることをぜんぶ訳してもらったときは、ホントびっくりしちゃったよね。〈え、そんなこと言っちゃうの!?〉みたいな(笑)」

ユナ「泣いてる日もあったよね。怒ったり泣いたり笑ったり、本当にありのままでステージに立ってる。あれはなかなかできることじゃないと思う」

ユウキ「あそこまでトガれる自由さって、なかなか持てるものじゃないよね。バンドもしっかりまとまってるし。私たちだってなにも躊躇することはないんだなって」

マナ「うん。私たちもああいう姿勢で音楽をやっていきたいなと思ったよね」

――じゃあ、ここ一年のCHAIがいちばん刺激を受けたのは、やっぱりスーパーオーガニズムとのツアー?

カナ「一番はやっぱりそうじゃない?」

マナ「あと、〈サウス・バイ・サウスウェスト〉でバーガー・レコーズのステージに立ったときもすごかったよね。アメリカであんなに盛り上がったライヴはあれが初めてだし、〈アメリカで受け入れられた!〉と思えた瞬間だった」

――それまでのライヴとは手応えが違ったんだ?

マナ「もう、全然。リリースもあったし、あそこからアメリカでのライヴがどんどん変わっていった感じがする」

ユナ「私たちが演奏しはじめたら、お客さんからものすごいエネルギーが返ってきて、自分たちの音が聴こえないくらいだったよね」

ユウキ「求められてるのを感じたよね。期待してもらえてるってことがはっきり目に見えた。〈私たちがやってることは間違ってない〉と思えた」

 

CHAIはパンク・バンド?

――今回の『PUNK』は、まさにその期待を受けて作ったアルバムだと思うんだけど。

マナ「うんうん」

――プレッシャーもあった?

マナ「いや、それはない(笑)」

――じゃあ、『PINK』を作ったときと気持ちはなにも変わってない?

マナ「ううん、そこはものすごく変わったよ」

カナ「モードがぜんぜん違うよね。でも、コンセプトは変わらないっていうか。私たちは〈毎回その時々の感覚で曲をつくる〉ってことだけは決めてるの。で、いま私たちが好きな音楽は『PINK』のときとはまた違うから」

――その時々の好きな音楽にインスパイアされて、それを自分たちの音楽に反映させるのがCHAIのやり方ってこと?

マナ「そうそう、そういう感じ」

――じゃあ、『PNK』の収録曲をつくっているときのみんなは、主にどんな音楽をよく聴いてましたか? そして、このアルバムにはどんなアーティストからの影響が反映されてるんだろう?

カナ「ホンネはよく聴いてたよね」

マナ「あと、ゴー!チーム」

カナ「もちろんスーパーオーガニズムも大きいし」

――じゃあ、そのアルバムに『PUNK』と名付けた理由を教えてもらえますか? 〈パンク〉という言葉にはいろんな捉え方があると思うんだけど。

カナ「記事にそう書かれてたんだよね?」

マナ「そうそう。海外の記事だと、CHAIはいつも〈ジャパニーズ・パンク・バンド〉って書かれるの(笑)」

ユナ「それまでは知らなかったんだよね、自分たちがパンクだって(笑)」

ユウキ「うん。なんていうか、最初はそれがいい意味だとは思えなかったの。そもそもCHAIの音楽ってぜんぜんパンクじゃないし、そういうイメージで受け取られたらどうしようって。でも、記事を読んでみたら、ものすごくいいことがたくさん書いてあって」

マナ「そうそう。たぶんこれは音楽ジャンルとしての〈パンク〉じゃなくて、私たちが伝えようとしていることや、もっと自分らしくなろうとしているところを〈パンク〉と言ってるんだなって。だから、その記事を読んだときに初めて、私たちはパンクという言葉にいろんな意味があるってことを知ったんだよね」

――〈パンク〉のイメージがそこで変わったんだ?

マナ「うん。別に私たちは世間に対して何かを訴えたいわけじゃないんだけど、〈私たちはこう思ってる〉ってことは、はっきり伝えたいの。で、きっとそれがパンクなんだなって。それで去年の10月くらいだったかな。〈来年はもうパンクしかない!〉と思ったんだ」

ユウキ「そのインタヴュー記事を書いてくれた人は私たちのことをすごく理解してくれていて、そのうえで私たちのことを〈パンク〉という言葉で表してくれたんだなって。だから、最初はマイナスな印象というか、誤解されてると思ったんだけど(笑)。いまは〈パンク〉という言葉にものすごくしっくりきてる」

――パンクと表現されたことに最初は違和感があったの、なんとなくわかるかも。なんていうか、〈パンク=反抗〉みたいなイメージを浮かべがちでしょ?

一同「うんうん」

――でも、実際はそれと逆というか。パンクはそれまで相手にされてこなかったものを受け入れた、すごく大らかな音楽だと思うんだ。だから、僕もCHAIはパンクだと思う。

ユウキ「わ、それ最高じゃん。めっちゃいい」

マナ「的確~!」

 

フラストレーションや怒りから生まれる音楽

――でも、どう? 実際はCHAIの楽曲にも何かしらのフラストレーションは込められてるのかな?

マナ「もちろん。フラストレーションから曲ができることって、けっこうあるよね?」

カナ「ていうか、むしろフラストレーションしかないかもしれない(笑)。CHAIの曲って、ぜんぶノイズが入ってるの。ポジティヴな歌詞の曲にも必ずトゲがある。で、いま言われてみて思ったんだけど、もしかするとそのトゲってフラストレーションの表れなのかもしれないなって。もちろん、単純にそういうノイジーな音楽が好きっていうのがいちばん大きいんだけど」

マナ「ネガティヴな気持ちをよく知っているからこそ、私たちはポジティヴになれるんだと思う。だから、私たちがポジティヴな曲をつくるのは、私たちにネガティヴな気持ちがあるってことなの(笑)」

ユウキ「ネガティヴな気持ちをひっくり返したいから、どうにかしてポジティヴな方向にもっていくんだよね」

マナ「意地でもね(笑)。そこがパンクなのかもね」

――なるほど。やっぱりCHAIにも怒りがあるんだ。

マナ「あると思う」

ユウキ「何かを生み出すって、きっとそういうことだよね」

マナ「だからって、いつも悩みながら音楽をつくってるわけでもないんだけどね(笑)」

――曲が出来なくて悩むこともある?

マナ「全然ある。でも、そこで暗くなったりはしないよ。しょうがないもん。便秘みたいなもんだから(笑)」

ユウキ「そう、出ないときは出ない(笑)」

マナ「身体の状態と一緒だよね。一年に何回かは絶対にあることなんだから、ただ受け入れちゃえばいい」

 

相手の意見は聞かない!

――『PUNK』には“GREAT JOB”みたいな、企業とコラボレーションした曲もあるよね。こういう曲を作るときって、ある程度は相手側のイメージも酌み取らなきゃいけないと思うんだけど、実際はどうでしたか?

マナ「そこは、よくも悪くも相手の意見を聞かない(笑)。もちろん相手にも〈こういう曲にしてほしい〉みたいなイメージはあると思うんだけど、そこは押し通す(笑)。私たちはそのときにいちばん作りたいものをつくるし、それがいちばんいいってことが自分たちでわかってるんだ」

ユウキ「歌詞は相手から渡されたテーマを踏まえつつ、そこでCHAIにしか言えないことを書くって感じかな。ただ、曲に関しては絶対に譲れないんだよね」

マナ「相手の要望を聞きすぎて自分が作りたいものと別モノになっちゃったら、私たちは絶対に後悔すると思う。だって、いま作りたいと思ってる曲は、いま作らなかったら二度と作れないんだよ。〈“sayonara complex”みたいな曲をまた作ってほしい〉と言われても、それはもうできないの。だって、いまの私たちはあのときとはまったく別の人間だから。考えていることもぜんぜん違うし、生活だって変化してる。だからこそ、人から何を言われようとも、私たちはいま作りたいものをつくるだけなの」

『PUNK』収録曲“GREAT JOB”
 

――1曲目の“CHOOSE GO!”は、まさにその〈変化を恐れない〉ことについての曲だよね。

ユウキ「うん。テーマとしては〈やりたいことは絶対にやったほうがいい。なんでも自分次第でしょ?〉みたいな感じだったかな」

ユナ「この曲はまずキーワードがあったんだよね?」

ユウキ「そうそう。この曲に関しては〈サビで“CHOOSE GO!”と歌う〉ってことだけを先に決めてから作りはじめたの。そうしたら自然とすごく明るくて前向きな曲になったんだ」

『PUNK』収録曲“CHOOSE GO!”

 

4人は〈ニュー・ファミリー〉

――“FAMILY MEMBER”もすごく重要なメッセージが込められた歌ですよね。肌の色や年齢にとらわれずにファミリー・メンバーになろうっていう。

ユウキ「CHAIはこの4人の関係をいつも〈ニュー・ファミリー〉と呼んでるの。でも、私たち4人は友達や仕事仲間を越えた関係だし、それってもう家族だよねって。実際、私たちは血も繋がってないんだけど……あ、ここ(マナとカナ)は繋がってるか(笑)」

――(笑)。4人にはそれ以上の絆があるってことだよね。

ユウキ「うん。しかも、それって私たち4人だけじゃないの。CHAIの周りにいてくれるスタッフは年齢に関係なく、みんな私たちのことを受け入れてくれるし、アイデアを一生懸命に考えてくれる。年齢差のせいでパワハラみたいなことが起きてるっていう話を聞くと〈大人ってそんなにつまらないものなの?〉と思うけど、CHAIチームはそんなことないんだ。年齢だけじゃなくて、性別も肌の色も関係なく、私たちはみんなでハグしてる。そういう関係って、きっとCHAIじゃなくても築けると思うから、それを歌にできたらいいなって」

――家族っていろいろあるよね。血の繋がりを越えた絆もあれば、逆に血の繋がりがあるからこそ拗れてしまうこともあるわけで。

マナ「ああ、ホントそうだよね。『万引き家族』を観たときもそんなことを思ったな。あれこそ家族の意味を考えるよね」

ユウキ「そういえば、“FAMILY MEMBER”は『万引き家族』を観た後に作ったんだよ。その頃の自分が考えてたことを、あの映画を観たときに改めて考えさせられたんだ」

マナ「やっぱりあれは影響されるよね」

――そしていま、CHAIのファミリー・メンバーは海を越えて輪が広がってるんだね。

ユウキ「うん。海外でいろんな人に知り合えば知り合うほど、みんな大きくて深い愛を感じさせてくれるし、いろんなことに気づかせてくれる。ホントいいことしかないよね」

マナ「 きっと世界には私たちのことを認めてくれる人たちがもっといるんだと思う。多分まだ知られてないだけなんだよね。海外に行くたびに毎回そう感じるし、それはものすごく刺激になってる。世界ってホント広いんだなって」

ユナ「今年は海外にいける予定もいっぱいあるもんね。だから、ここからの一年は世界中のいろんな景色を見ながら、自分は自分でいいんだっていう自信を持ちつづけられたらいいなって」

 

CHAIの2019年はどうなる?

――どうやらこの一年の展望もすでに見えてるようですね。じゃあ、最後はひとりずつ2019年の抱負を言ってもらおうかな。インタヴューはそれで締めましょう。

マナ「私は〈なりたい自分になる〉。さっきのオロノちゃんの話じゃないけど、〈これが自分なんだ〉ってことをはっきり伝えながら、自分にしか作れない音楽をどんどんやっていきたい」

カナ「私は〈自分らしさにもっと自信を持つ〉かな。あれ、それじゃマナと同じ?」

マナ「あはは(笑)。ニュアンスがちょっと違うからOK」

ユナ「じゃあ、私は〈戦わないで勝つ〉にする!」

ユウキ「私は〈遠慮しない〉。そして〈新しいものをどんどん取り入れる〉。うん、2019年はそんな感じでいこう!」