(左から)田中ヤコブ、岡本成央、田中悠平、谷江俊岳

『お湯の中のナイフ』(2018年)、『おさきにどうぞ』(2020年)と、ソロアーティストとして傑作を立て続けにリリースする一方、never young beachなどのバンドでギタリストとしても八面六臂の活躍を見せる田中ヤコブ。その田中ヤコブ(ボーカル/ギター)と田中悠平(ボーカル/ベース)、谷江俊岳(ボーカル/ギター)という3人のボーカリスト/ソングライター、そしてパワフルなドラミングで魅せる岡本成央(ドラムス)で構成されるロックバンドが、家主だ。称賛されたデビューアルバム『生活の礎』(2019年)の発表、さらにカーネーションや曽我部恵一、ザ・なつやすみバンドら尊敬する先達たちとのツーマンライブなどを経て、彼らが待望のセカンドアルバム『DOOM』をリリースする。

いそうでいない、ありそうでない、〈バンド〉としか言えない稀有な何かを携えて佇む4人は、どうしてこれほど絶妙なバランスを保っていられるのか。あるいは、この豊かでピュアなメロディーはどこから湧き出てきているのか。ライターの松永良平(リズム&ペンシル)が、家主の新たな傑作について訊いた。 *Mikiki編集部

家主 『DOOM』 NEWFOLK(2021)

 

音楽以前に一緒に川に行ったり、ご飯を作って食べたり、そこにバンドもある

──前作『生活の礎』から約2年ぶりのセカンドアルバム『DOOM』です。去年、田中ヤコブくんがカーネーションのライブにゲスト参加した日に「明日から家主のレコーディングです」と言っていたので、1年くらいリリースまで時間をかけた感じですね。

田中ヤコブ「最初は5月くらいに出すつもりで、わりとぬるっとレコーディングに入った感触は自分のなかではあったんです。前作からは地続きな感じでしたね」

2019年作『生活の礎』収録曲“オープンカー”。作詞作曲は田中悠平

岡本成央「いや、結構違うと思ったな」

田中悠平「ファーストはそれまでライブでやってきた曲をかたちにしようとして録音したけど、セカンドはほぼ全部ライブでやったことない曲だったじゃん」

ヤコブ「そうか、確かに! 違いました(笑)。厳密にいうと全曲新曲というのもちょっと違って、谷江さんが加入する前、3人時代にやっていた曲が3分の1くらいはあって、残りの3分の2が新曲でしたけどね。

ファーストアルバム以降、ライブにもエンジニアの飯塚(晃弘)さんに帯同してもらってたので、チーム感みたいなものも生まれてましたね。レコーディングに入る前のプレッシャーみたいなのは、前作よりは少なかった」

谷江俊岳「2回目のレコーディングだったから、前よりはちょっと気楽だったけど」

悠平「(ファースト制作時は)右も左もわからなかったから」

谷江「〈リハスタではなくレコスタっていうのを初めて見ました〉、くらいでしたからね」

──ヤコブくんはソロでも2枚アルバムをリリースしていて、どんどんできてくる曲をソロと家主に振り分けているんだと思いますが、田中(悠平)くん、谷江くんはどういうふうに家主の曲作りをしているんですか?

須藤朋寿(NEWFOLK主宰)「バンドとエンジニアの飯塚さん、僕で作っている家主のLINEグループがありまして、新曲ができるとみんなそこに投げてくれてるんですよ」

悠平「ボイスメモとかで、めちゃくちゃ適当に弾き語ったのを送ってます(笑)」

ヤコブ「今回は谷江さんが結構、続々と新曲を作って送ってくれてた印象ですね」

谷江「この人たちは(作った曲を)聴いてくれるので、それがうれしいんですよ」

一同「(爆笑)」

谷江「信用が置ける感じで聴いてくれる。僕からしたら、その延長にセカンドアルバムがあっただけで、それ(作曲)って家主に入って以降は普段からやっていることなんです」

須藤「新曲をLINEにあげるのも世間話の延長みたいな感じですね」

ヤコブ「そういう意味で〈地続き〉な感じだったんだと思います。ぬるっとやっていたことだけど、あらためて思い返すと違ったなというか」

──谷江さんがいちばん最後に家主に加入したし、年齢的にも上ですよね。こういう関係性って新鮮なものだったんですか?

谷江「僕は32歳くらいから(家主で初めて)バンドを始めたんですよ。それまでは(バンドを組む)機会があればいいなと思って生きてましたから」

ヤコブ「(家主の結成自体は古いが)谷江さんが2018年に入って、2019年に4人で初ライブをやり、ファーストもこの4人になってから作っているので、実は〈われわれはまだ2年目のバンド〉くらいの認識ではあるかもしれない」

2021年のライブ映像

──そういうところって、家主のバンドプロフィールを読む人が意外と混乱するところでもありますよね。大学時代のサークルのつながりで、結成からの時間は長いのに、なぜかライブ歴は浅く、青春っぽさが漂っているというタイムパラドックス感。でも、あんまり活動してない期間が長かったとしても、その分、爆発力を溜めていたということになるのかも。

ヤコブ「かたちとしては、そう言えますね」

──この4人の信頼関係って、そもそもどういうところなんですか?

岡本「音楽以前に、一緒に川に行ったり、ご飯を作って食べたり、みたいな活動があって。そこにバンドもある、みたいな感じですかね」

ヤコブ「練習が終わって、一緒に谷江さん家に行ってご飯食べたりする、そっちの時間のほうが長い」

──今はいろいろライブの対バンに呼ばれるようになって、しかもたくさんのお客さんがいて、よろこんで観てくれている、その状況は率直にどう感じてますか?

岡本「わりと困惑しますね」

悠平「数年前には(対バンとして)考えられなかった人たちと一緒にやったりしてるから」

岡本「台風クラブを(客として)観に行ったりしてたわけだし」

ヤコブ「ありえないことでしたけどね。カーネーションと家主が対バンとか、よくわからないですよね」

悠平「おかしいことが続きすぎて、だんだん麻痺してきてるところはあるかもしれない」

ヤコブ「でも、このバンドはお客さんがいっぱいいるほうが緊張しないし、逆にやりやすいなと最近わかってきたところはあります」

──台風クラブとのツーマンでも、この組み合わせで全国ツアーやったら楽しいよね、ってMCしてませんでしたっけ。めちゃくちゃ相性がいい。

ヤコブ「近いアティテュードはいつも勝手に感じてはいます。結構、おんぶにだっこだと思いますけどね(笑)」

──いやいや、いい関係だと思うんです。家主も対バンとして表に引っ張り出されるし、台風クラブも東京でライブする理由ができる、みたいなね。それに2度の延期を経たからということもあるけど、〈おんぶにだっこ〉だけでは説明がつかない巨大な熱量があのツーマンからは生まれてました。

谷江「こだわりがあり、やりたいことをやりつつも、人にも聴いてもらえるような意識は通じてると感じるかな」