ダニー・ハサウェイ版“What's Going On”、最高じゃん!(Keishi Tanaka)

――お2人が先ほど撮影のときに持っていらっしゃったレコードは?

Kan Sano「僕はマイルス・デイヴィスの『Directions』ですね。ジャズを聴くきっかけになった人で、10代の頃ずっと聴いていたんです。いまだに好きですし、マイルスを選んでおけば間違いないなと」

――なかでもそのレコードを選んだ理由は?

Kan Sano「ジャケがカッコよかったから(笑)。70年代のマイルスがいちばん好きで、音楽もファッションも全部がいちばんカッコよかったときなんじゃないかな」

マイルス・デイヴィスの81年作『Directions』収録曲“Willie Nelson”。同作は活動休止中に発表されたコンピレーションで、この曲は71年作『A Tribute To Jack Johnson』のアウトテイク

――Keishiさんは?

Keishi Tanaka「僕はマクファデン&ホワイトヘッドっていうソウルの2人組のレコードです。よくDJでかける盤なんですよ。ビズ・マーキーがサンプリングしたことで結構有名になったんですけど、僕は原曲をかけることが多くて」

マクファデン&ホワイトヘッドの79年作『McFadden & Whitehead』収録曲“Ain’t No Stoppin’ Us Now”。ビズ・マーキーが“Let Me Turn You On”(93年)でサンプリングした

――お2人は今日が初対面とのことで。最初に自己紹介がてら、これまでのキャリアを教えてもらえますか?

Keishi Tanaka「(急に改まった様子で)僕は田中啓史と言いまして、北海道出身で……どっから言いましょう(笑)? 20代はRiddim Saunterというバンドをやっていたんですけど、2011年に解散して、それからソロになりました。

実は僕とKan Sanoさんって年が1歳しか違わないんですよ。それもあって、20代の頃のKan Sanoさんがどういうことをしていたのかが気になったんです。ファースト・アルバム(『Fantastic Farewell』のリリース)が2011年ってことは、30歳くらいの頃の作品ですよね?」

Kan Sano「そうですね。20代の頃は音大に留学していて、日本に帰ってきたのが22歳くらい。僕はもともとピアニストなので、サポートとしていろいろな人のライヴを手伝ったり、ホテルのバーみたいな場所でピアノを弾く仕事をしたり。そういうことをやりながら、自分のデモを海外のインディー・レーベルに送っていました。何度かコンピに入れてもらったりはしたんですけど、アルバムを作るまでは時間がかかって」

Keishi Tanaka「最初から海外に目を向けていたんですね」

Kan Sano「そうですね。最初はもう完全に海外志向で、日本のシーンのことは全然知らなかったんです。その後、30歳手前くらいから、いまもライヴや作品に参加させてもらっているCharaさんやUAさんと知り合って。それから日本のシーンでも本格的に活動するようになったって感じですね」

――Kan Sanoさんが音源を作りはじめた当初に影響を受けていたミュージシャンは?

Kan Sano「10代の頃に聴いていた音楽の影響がいちばん大きかったです。ソウルやジャズ、ネオ・ソウル――ブラック・ミュージックがやっぱり多いですね。ディアンジェロやエリカ・バドゥ、70年代のダニー・ハサウェイとかロイ・エアーズとか、そういうものを10代の頃いっぺんに聴いていたので、その影響はいまだに大きいのかなと思います」

――Keishiさんがそうしたソウルと出会ったのは?

Keishi Tanaka「僕は高校の後半くらいかな。もともとはスカやレゲエを聴いていて、なかでもラヴァーズ(・ロック)とか、メロディーに重きを置いているものが好きでした。そうした好みもあって、スティーヴィー・ワンダーとかマーヴィン・ゲイとかの有名なソウルも聴くようになって。

その後、ダニー・ハサウェイ版の“What's Going On”を聴いて、〈これなんだ? 最高じゃん!〉となったことを覚えています。僕はマーヴィン・ゲイ版以上にダニー・ハサウェイ版の“What's Going On”が好きなんですよ」

Kan Sano「僕もあっちのほうが好きですね」

ダニー・ハサウェイの72年作『Live』収録曲“What's Going On”