自身にとっての普遍的なコンセプトとなった〈愛〉に真摯に向き合い、多くの才能と世界を共有することで織り上げられた新しい愛のアルバム――またしても傑作が誕生した!!

新しい景色が見えてきた

 「自分の第1章を締め括る作品になった」という前作『LOVEBUM』から約2年を経て、BASIのソロ6作目となるニュー・アルバム『切愛』が届けられた。昨年には唾奇とのコラボ・ナンバー“愛のままに”を発表し、MV再生が300万回を超えるなど大きな反響を巻き起こしたわけだが、同曲がアルバム制作の基軸になったという。

BASI 切愛 BASIC MUSIC(2019)

 「『LOVEBUM』以降に作った曲をまとめて、今回とは別のタイトルで出そうとした作品があったんです。その制作の最後にできたのが、7インチ・シングルでリリースした“愛のままに”と“星を見上げる”。この2曲を作ったことは自分の中ですごく大きかったし、リスナーから感想をもらったりするなかで、また新しい景色が見えてきた。そこから新たに作った曲をまとめたのが今回の『切愛』です。“愛のままに”と“星を見上げる”に辿り着くまでのプロセスを、他の曲で編み上げていくようなイメージでしたね」。

 ソウルフルでストレートなラヴソング“愛のままに”はサウンドとリリック両面でまさに新作を象徴する一曲だが、このリリックを唾奇と共に書いたことが、音楽との向き合い方自体が変わるほどの体験だったとBASIは語る。

 「愛について歌うことは前作くらいから自分にとって普遍的なコンセプトになったし、唾奇という人間と出会って、彼が愛についてどういうリリックを書いて、どう発信するかにすごく興味がありました。僕の知る限り、唾奇はこれまで愛については直接的に表現していませんでしたし。だから、どうしてもそのテーマで歌ってほしかった。“愛のままに”の唾奇のヴァースは詞として本当に素晴らしいと思います」。

 この唾奇との共作によって大きな成果を得たこともあり、アルバムはさまざまなアーティストとの積極的なコラボレーションによって作り上げられることとなった。

 「これまでは自分の知識やセンスだけでやろうと思っていたんですけど、今回は“愛のままに”を唾奇と作ったように、たくさんの人と曲をシェアしながら制作したい気分だったんです。昨年は客演で呼ばれることがすごく多かった年でもあって、必然的にいろんなアーティストと一緒に過ごす時間が増えて距離も縮まった。そうやって関わってきた人に、僕の作品にもそのセンスや才能を分けてもらえば、きっといいものができる。だから、なんとなく声をかけたわけではなく、きちんとプロセスを踏んだうえで共作できる人を選んでいるんです」。

 

思うがままに作っている

 トラックメイカーとしてはOlive Oil、chop the onion、illmoreらが参加しており、Lucky Tapes作品でのコラボも記憶に新しい高橋海がフューチャー・ベース調のビートを提供しているのも印象深い。客演には鎮座DOPENESS、HANG、空音らが名を連ね、「実は地元が一緒」だというSIRUPとは、その楽曲を担うMori Zentaroのトラックの上で最高にアーバンな手合わせを披露している。とりわけ目を惹くのが北海道出身のシンガー・ソングライター、TOCCHI。“素顔”に登場しているのに加えて、彼の代表曲である“これだけで十分なのに”にBASIがラップをアダプトしたリミックスが収められている。

 「唾奇が〈これ聴いてください、僕の友達です〉って送ってきてくれたのがTOCCHIの“これだけで十分なのに”のオリジナルで、それ聴いてやられてしまって。それで、SNS経由で自分のリミックスを聴いてもらったり、やり取りをするなかで、スケジュール的にギリギリやったんですけど、もう1曲いっしょに作りました。TOCCHIもいつか自分と曲がやれたらと思ってくれていたみたいで、それは嬉しかったですね」。

 そういったラッパー/シンガーやトラックメイカーだけでなく、昨年EPを発表したBASIのバンド・プロジェクト=BASI & THE BASIC BANDのメンバーが全面的に参加しているのも本作のポイントだろう。サンプリング・ビーツに生演奏やコーラスを付与して、より立体的なサウンドを構築することに貢献しているし、アコースティック・ギターだけを迎えた完全な歌モノの“薔薇”のような楽曲も収められている。

 「トラックメイカーのビートと生の演奏を混ぜていこうという意識はありましたね。ループ・ミュージックもすごく好きやし、自分のルーツであり大事な部分なんですけど、より音楽的なものというか、もっと展開していくものやメロディーが聴こえるもの、生のグルーヴがあるものにいまは興味が沸いています。“薔薇”に関しては、もともとはリル・ピープとかコールド・ハートみたいなトラップ・ミュージックが念頭にあったんですけど、最終的にアコースティックに変化したんです。いまは前置きとしてヒップホップがあるわけでもなく、思うがままに作っている。ビートレスにしたりラップがなかったり、でもそれが自分にとってのヒップホップというか」。

 

時代とのズレを知ったうえで

 これまで以上に自由なスタイルで作り上げた12曲を束ねているのは、当人のラップと言葉に他ならない。日常の風景や誰しもが抱く心の機微を描出しながら、アルバム全編を通して広義の愛を浮き彫りにし、ひとつのストーリーを紡いでいく。特に、鎮座DOPENESSを迎えて何気ないからこそ愛おしい時間を綴った“普通”や、HANGと共にハードノック・ライフを送る心情を描く“夕暮れ”に胸を打たれる。

 「リリックに関しては時間もかけたし、曲と向き合う時間もあえて増やしたし、かなり書き直しもしたし……5年後も10年後も聴いているものを作りたいと思って取り組んでいました。いまはライトなものがスタンダード化している気がしていて、自分がやっていることは時代と合っていないという自覚もあるけど、そのズレを知ったうえでトライしたかった。自分が休みの日とかに一枚通して聴きたいものを作りたくて、それはやっぱり歌詞が良いものだなと。言葉が響いてくるものを自分は聴きたいので」。

 そうして完成した『切愛』を「自分のチルなイメージとは違った一面を見せたくて、ダークな曲やディープなアプローチの曲も作ったんですけど、トータルで感じるのはメロウなムードだなと」と当人も形容する通り、確かに本作は彼の根底にあるメロウネスをより洗練された手つきでアウトプットした作品であり、近年のテーマである〈愛〉により真摯に向き合った作品だろう。そうやって自身のコアを追求した結果として、普遍的で、それゆえに広がりのある音楽に結実したように感じられる。「インスタを開けば、子どもから大人まで“愛のままに”を歌ってる動画が毎日のように届くんです。ライヴをやっても高校生と一緒に写真を撮っている自分がいて」と最近の状況についてBASIは語るが、この『切愛』はさらに広いリスナー層にリーチする作品となるに違いない。

 

『切愛』に参加したアーティストの作品を一部紹介。

 

BASIが客演した近年の作品を一部紹介。