Mikiki編集部の田中と天野が毎週お送りしている洋楽連載〈Pop Style Now〉。〈2019年上半期洋楽ベスト・ソング10〉の記事はご覧いただけたでしょうか? 今回はその続編かつ連載の特別編として、タワーレコードの洋楽好きスタッフたちが選ぶ、個人的な〈上半期洋楽ベスト・ソング10〉を掲載します。

インディーからエレクトロニック、ラップ、K-Pop、メタルまで、好みのジャンルも部署もバラバラな9人が選び、コメントを書きました。なお、掲載順は編集部に届いた順なので、特に意味はありません(笑)!  それでは、ぜひ記事の最後までお楽しみください(末尾には全曲をまとめたカオスなプレイリストもご用意しています)。 *天野


 

TOWER DOORS・小峯崇嗣が選ぶ10曲

1. Loyle Carner feat. Jorja Smith ”Loose Ends”
サウスロンドン出身のラッパー、ロイル・カーナーの最新セカンドアルバム収録曲であり、リードシングルでもあるジョルジャ・スミスをフィーチャリングさせた本楽曲。
イントロからジョルジャ・スミスの妖艶で天使のような歌声とシンプルなピアノの旋律。そこへ交わるロイル・カーナーの優しさを包み込んだフローとリリック。初めて聴いたときの衝撃は忘れられません。終始鳥肌がおさまらず、忘れていた温もりを思い起こしてくれるようで、感無量になる1曲でした。

2. Raveena “Nectar”
NYを拠点に活動するR&Bシンガー、ラヴィーナは、2017年にデビューEPである『Shanti』をリリースしたことで注目を集めました。そんな彼女のファースト・アルバム『Lucid』より”Nectar”を選曲しました。
”Nectar”は、煌びやかで浮遊感たっぷりな曲調と、夢見心地な気分を味わえるような彼女の美声に酔いしれる、心地の良い1曲に仕上がっています。アルバムも全体的に、現行のベッドルームミュージックに呼応するようなレトロな雰囲気を感じさせるサウンドで、彼女が作り上げるカラフルで美しい世界観に浸れます。

3. Dijon “Cannonball”
LAを拠点とするシンガーソングライター、ディジョンのデビューEPである『Sci Fi 1』より、”Cannonball”。
全体的にアコースティック・ギターの弾き語りを基調に、彼が儚くも温かさを帯びた声で綺麗に歌い上げる、心にじわじわと感動が広がっていく1曲になっています。現行のエモラップに通じるような部分と、ケヴィン・アブストラクトやzack villereのようにフランク・オーシャンの『Blonde』に漂う空気感を昇華し、新たな音楽シーンを築き始めている若手アーティストの音楽と呼応する作品に仕上がっています。

4. black midi “bmbmbm”
サウスロンドンを拠点に、キング・クルールやアデルなどを輩出した名門ブリット・スクール出身の弱冠19~20歳の4人組バンド。つい先日の6月21日にデビューアルバム『Schlagenheim』をリリースし、話題となりました。
その収録曲より、“bmbmbm”をピックアップしました。彼らがブリット・スクール時代にセッションをして、初めて〈曲と言えるもの〉を完成させたのがこの曲だそうです。
ポストパンクや、マスロック、ノイズ、インダストリアル、ジャズ……どんな音楽にも当てはまるが、そうではない、なんとも形容できない、ビックバンを起こしたかのようなエネルギーが詰まりに詰まった1曲です。
僕自身、イギリスのブライトンにて開催された〈The Great Escape〉にて一足先にライブを観てきましたが、やはり言葉に置き換えることのできない音楽でした。ライブを観ている最中は、脳みそが中でグツグツ煮えたぎるようで、新境地にでも行ってしまうかのような感覚に至りました。

5. Kevin Abstract “Peach”
ブロックハンプトンのリーダー格でもある、ケヴィン・アブストラクトが2016年にリリースした『American Boyfriend: A Suburban Love Story』以来となる、新作セカンドアルバム『ARIZONA BABY』をリリースしました。
個人的に今回のリリースの仕方が面白いと思っていて、最初今年の4月に『ARIZONA baby』として3曲のシングルでリリース。その翌週には『Ghettobaby EP』として3曲追加し、リリース。最終的にその翌週にアルバムとしてリリースしました。
そのアルバム収録の”Peach”は、最近コロムビアと電撃契約し話題にもなったドミニク・ファイクをフィーチャリングしており、全体的に夏の夕暮れを想起させるような爽やかなポップナンバーに仕上がってます。冒頭からファイクの淡い歌声と、シンガロングしたくなる歌メロ。その後から交わるケヴィンの流れるようなラップのフローがとても心地良いです。
中盤から終盤にかけて、ブロックハンプトンのメンバーでもあるJOBAとbearfaceの掛け合いもたまりません。(とくにbearfaceファンにはたまらないです。)

6. Erika De Casier “Do My Thing”
コペンハーゲンを拠点に活動をしているプロデューサー/SSWであるErika De Casierのファーストアルバム『Essentials』より、“Do My Thing”を選曲しました。
90年代のG・ファンクやR&Bテイストを感じさせるメロディと、キャッチーさを兼ね合わせた楽曲に仕上がっています。ミステリアスな曲調の中、ウィスパー気味に発する彼女の清らかな歌声がマッチして、とても心地良いです。
ミュージックビデオの90年代的ダサさがまた面白くていいと個人的に思ってます。ちなみにこのミュージックビデオは、彼女の友人であるSmerzのCatharina Stoltenbergと共作したそうです。90年代のアメリカのヒップホップのMVに影響を受けたそうで、今回はそれを自分のスタイルで作ってみたかったとのこと。

7. Feye Webster “Pigeon”
アメリカのアトランタを拠点に活動する21歳の女性SSW、フェイ・ウェブスターの3枚目のアルバム『Atlanta Millionaires Club』。その収録曲の中でも、”Pigeon”が個人的にツボでした。
初夏の青空の下、爽やかな風で青々とした新緑の木々たちが靡いている目の前で、この曲を聴きながら寝そべってゆったりとした時間を過ごしてみたいです。USインディー風味を程よく感じさせつつ、フォークやジャズ的要素も織り交ぜた素晴らしい楽曲に仕上がっています。
個人的にはライブで彼女のヨーヨーをしている姿を是非この目で見てみたいです。

8. Arlo Parks “Cola”
ロンドン出身の18歳の新鋭SSWのアーロ・パークスのデビューEP『Super Sad Generation』の冒頭を飾る”Cola”。この曲自体は彼女のデビューシングルとして去年リリースされ、話題となりましたが、改めてEPが出たのでピックアップしました。
終始シンプルなベースラインとミドルテンポのドラムを繰り広げながらも、彼女の消え入りそうなほど儚くも美しい声が入り交じり、ダウナー調でメランコリーを感じるR&Bソングに仕上がっています。
black midiと同じく、〈The Great Escape〉でアーロ・パークスの貴重なデビューライブを観てきました。現地の会場はパンパンで、デビューライブとは思えない素晴らしいパフォーマンスを披露していました。

9. Christian Alexander “Summer '17”
イギリスの北部の小さな町、プレストンより現れた、ローファイベッドルームポップを奏でる若き21歳のSSW、Christian Alexander。そのデビューアルバム『Summer '17』のタイトルソング”Summer '17”。
ギターと彼の歌声のみという実にシンプルな曲ですが、個人的にはこの曲に心奪われました。現在各地でシンクロニシティのように、フランク・オーシャンの『Blonde』に影響を受けた若手アーティストが現れています。彼もその一人で、周りには何もコミュニティが存在せず、YouTubeで出会ったタイラー・ザ・クリエイターやフランク・オーシャン、マック・デマルコ、ブラッド・オレンジに影響を受け、自分のベッドルームにてDIYでこのアルバムを作り上げたそうです。

10. Connie Constance “Bloody English”
ロンドンを拠点に活動するさまざまなジャンルを縦横無尽に渡り歩くSSW、コニー・コンスタンスのデビューアルバム『English Rose』の中でも、一番心打たれた楽曲が”Bloody British Me”でした。
ロンドンのじとじとした曇り空を表現したかのようなダークな雰囲気で、キング・クルールのようにジャンルを凌駕するとてつもない才能を感じる楽曲です。時折聴かせる彼女のラップのフローや、ソウルフルで掠れた声もクールでたまりません。
またこのアルバムの1曲目をザ・ジャムの”English Rose”のカバーで始めるあたり、センスの塊にしか感じません。

 

経理部・本田昇平が選ぶ10曲

一応順位振りましたけど、順不同です(笑)。

1. Billie Eilish “bad guy”
聴く側のジャンル嗜好とかお構いなしにズカズカ入ってくるレベルのポップスターって久々です。

2. Thom Yorke “Twist”
ひんやりとしたヴォーカルチョップ、カットアップされたリズムに浮遊感のあるシンセとトムのヴォーカル、今回も最高です。

3. KH “Only Human”
Four Tetの変名、Nelly Furtadoネタ。いいです。

4. Tyler, The Creator “GONE, GONE / THANK YOU”
達郎さんサンプリングとか、最高だなって。

5. Vampire Weekend “2021”
細野さんサンプリングとか、最高だなって。

6. James Blake feat. Moses Sumney & Metro Boomin “Tell Them”
James Blake とMoses Sumneyなんていいに決まってます。

7. O Terno feat. Shintaro Sakamoto & Devendra Banhart “Volta E Meia”
坂本さん参加で不気味さの増したラテンムード歌謡って感じでいいです。

8. Francesco Tristano feat. U-zhaan “Pakuchi”
軽やかな東京スケッチ集の中で、特にこのU-zhaanとの曲が好みでした。

9. Underworld “Listen To Their No”
UW節炸裂、この突き抜け感は唯一無二。

10. SebastiAn “Thirst”
曲はもちろん、MVがすごくいいです。

 

情報システム1部・望月貴が選ぶ10曲
(もちメタル)

1. Avantasia “The Raven Child”
Hansi Kürsch(Blind Guardian)が静かにオープニングを飾り、ライブでは若干イジられ気味のJørn Landeのド迫力ボーカルが結局全部持っていくというAvantasiaファンからしたら堪らない10分越えの大曲。パフォーマンスも曲展開も文句なし!

2. Dream Theater “Barstool Warrior”
今作は全体を通してJohn Myungのベースの音抜けが良く特にこの曲ではそれが顕著。3:40過ぎのスローパートでは崇高なメロディの下でセンス抜群のフレーズを奏でて曲の格式を高めているのが聴きどころ。ここへきてDTの名作誕生。

3. Devin Townsend『Empath』全曲
バンド形式から解き放たれ、やりたい放題した作品といった印象。いつもの咆哮の後に重厚な女声クワイア、強力なブラストビートの後に突然EDM。時にシンフォニック、時にブラックメタル。〈Empath〉とは〈共感〉のことらしいので、ちゃんと共感できたら勝ち!

4. Majestica “Above The Sky”
SabatonのTommy Johanssonがバンド名をReinXeedからMajesticaに変更して奏でる今どき珍しいどストレートなメロディックスピードメタル。まだまだネタ切れ感無し! 引退して大工になったはずのUlrich Kuschが参加してるのが嬉しい。

5. Myrath “Wicked Dice”
疾走感のある曲が続いた後に来る重くてミドルテンポのこの曲がお気に入り。AdagioのKevin Codfertがプロデュースしているからかどこか〈クサさ〉がチラホラ顔を出しているのも寧ろ高評価。

6. Children Of Bodom “This Road”
『Are You Dead Yet?』の頃に戻った!! 特にオープニングを飾るこの曲は文句無しにカッコイイ。新加入のDaniel Freybergの影響も感じられ、個人的にはリズムセクションの二人のタイトさアップが高評価!

7. Enforcer “Die For The Devil”
イントロにDef Leppard。次にAnvil+NWOBHMで、最後にLAメタル風味を追加して完成。とりあえずかっこいい!

8. The HU “Wolf Totem”
Dream TheaterのJordan Rudessがインスタで投稿していたのを見て、即チェック。モンゴルのバンドということで馬頭琴や、トブショールが登場。さらにボーカルはホーミーをフィーチャーしていて、ひたすら重くシリアスな雰囲気のミッドテンポの中ににどことなく感じるモンゴルの雄大さがなんとも言えない世界観を形成している。

9. Whitesnake “Slide It In (US Mix 2019)”
昨年のMegadethの1stリマスターに匹敵する素晴らしい出来。US Mixのタイトル曲は、John Sykesの華やかなギター効果で改めてこのバンドのカッコ良さを認識。さらにNeil Murray、Jon Lord、Cozy Powellと、ラインナップが渋滞。

10. Paul Gilbert “Love Is The Saddest Thing”
ここ最近のソロ作品の中では久しぶりに〈お?〉ってなる。アルバム全体的にレイドバックした大人のリラックス空気感の中で4曲目のこの曲はテクニックとメロディのバランスが絶妙で、聴いていて心地よい。