田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、この一週間に海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する連載〈Pop Style Now〉。今回は特別編として、2019年上半期洋楽ベスト・ソング10を発表します!」

天野龍太郎「去年はやれなかったですし、年末もベスト・ソングを発表できませんでした。〈2019年はちゃんとするぜ!〉と2人で20曲ずつを挙げ、そこから民主的に決めた10曲です」

田中「とはいえ、〈PSN〉で紹介していない曲も入ってきましたね。その選曲理由もきちんと説明しようと思います」

天野「そうですね。ランキングを楽しみにしている方には申し訳ないのですが、ちょっとネタバレ。10曲中7曲が女性アーティストのものです。それだけ2019年は女性ミュージシャンが力強かった、ということの証拠ですね。さて、前置きはこれくらいにして、まずは1位から!

 

1. black midi “Crow's Perch”
Song Of The Year (So Far)

天野「近年、特に海外ではロック・バンドに勢いがない、売れないという状況が続いています。そんななか、〈こんなに勢いのあるロック・ナンバーは久しぶりに聴いた! しかもイギリスから!! 彼らこそがロックの希望だ!!!〉という感動を込めて1位を選びました。ちょっとオーヴァーですけど」

田中「そんなわけで、〈PSN〉的2019年上半期洋楽ベスト・ソングは、ブラック・ミディの“Crow's Perch”です! 彼らはアデルやキング・クルールらと同じくブリット・スクール出身の4人組。イギリスのみならず、ここ日本でも本当に話題ですよね」

天野「ええ。東京・大阪公演の先行チケットが即完売したり、多くのリスナーやアーティストが話題にしていたり……とにかく、とんでもなく注目されている印象です」

田中「ここ数年、ファット・ホワイト・ファミリーら南ロンドンのバンドを中心にイギリスのロック・シーンはまた盛り上がっていると思うんですけど、ブラック・ミディが起こしているセンセーションは段違いだと思います。天野くんは何がそんなに特別だと感じていますか?」

天野「まずは複雑で緻密な曲をなんなくプレイする技術と、それを演奏しているのが弱冠19~20歳のメンバーだというインパクト。あとは、単なる上手さを凌駕するロック的な勢いと熱。僕がグッとくるのは、保守化が進んでいるロックの世界で、新しさをちゃんと感じさせてくれたところです。ポスト・パンクやマス・ロックにも近いサウンドなのですが、〈○○っぽい〉という形容を拒否するかのような得体の知れなさがあって。彼らの音楽からは未来に突き進んでいこうとする強い意志を感じますし、そこに希望が見えるんです。というわけで、文句なしの1位!」

 

2. Billie Eilish “bad guy”

天野「2位はビリー・アイリッシュの“bad guy”。彼女はまだ17歳ですが、2019年を代表するポップ・アイコンといっても言い過ぎではありません。3月にリリースしたファースト・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、全米/全英チャートで初登場1位に。政治的な発言や活動も積極的にしていますし、10代のオピニオン・リーダーでもあると思います」

田中「〈PSN〉では3曲も紹介しましたし、1位をビリーにするかどうかは迷いましたよね。ただ、どの曲にするのかは票が割れて。僕は“bury a friend”を推したんですけど、天野くんの“bad guy”推しに負けました……。この曲、連載では取り上げなかったんですけど、にもかかわらず〈これだ!〉と推したポイントは?」

天野「まずは彼女の最大のヒット曲だということです。ライヴでのシンガロングもすごい! サウンドも攻めていて、後半で突然トラップになったり、超フレッシュな一曲です。強烈な低音を発するサブベースも印象的ですし、ステレオタイプな男らしさに疑問を投げかけるような歌詞もおもしろい。いまのポップを象徴する曲だと思います!」

 

3. Beyoncé “Before I Let Go”

天野「3位はビヨンセの“Before I Let Go”です。〈ビーチェラ〉と呼ばれ、歴史的な偉業と謳われた2018年の〈コーチェラ〉でのライヴ。その模様を収めた『Homecoming: The Live Album』から。〈PSN〉では〈アメリカ黒人国家〉と呼ばれる“Lift Every Voice And Sing”を、そのメッセージ性から紹介しました

田中「でも、2019年のポップ・ソングといったら、話題性も含めてこっちかなと。原曲はメイズの81年のディスコ・ソングで、これはアルバムのために新録されたカヴァー。歌詞もビヨンセが付け足していて、〈コーチェラでかましたぜ!〉という内容です」

天野「最高のカヴァーですよね! このメロディーやリフレインが頭から離れません。力強いニューオーリンズ・ブラスやパーカッションが加わっていることで、ちゃんと〈ビーチェラ〉のサウンドにもなっています。ドレイクが“Nice For What”(2018年)で取り入れていたニューオーリンズ・バウンスっぽいパワフルなビートも超かっこいいです」

 

4. ROSALÍA “Aute Cuture”

天野「続いて第4位。アーバン・フラメンコ/ネオ・フラメンコの新たなスター、ロザリアの“Aute Cuture”です。今年はジェイムズ・ブレイクの新作『Assume Form』に参加したり、〈コーチェラ〉に出演したりと、存在感を発揮して大活躍でした。MVPは彼女にあげたいくらいです」

田中「僕は、ラテン・トラップのトレンドを押さえたJ・バルヴィン&エル・グインチョとの共演曲“Con Altura”のほうを推したんですが、またしても天野くんに押し切られてこっちになりました。でも、どっちもいい曲!」

天野「すみません(笑)。“Aute Cuture”はネイル・アートや女性の美容をテーマにしていて、ビデオも含めてフェミニズム的なシスターフッド、つまり女性どうしの連帯を打ち出した曲です。なので、ベスト10にふさわしいかなと。とにかく、ロザリアはいまノリにノっているので、2019年の後半も注目です」

 

5. Big Thief “UFOF”

田中「トップ5の最後を飾るのは、ブルックリンのインディー・バンド、ビッグ・シーフの“UFOF”。5月にリリースしたサード・アルバム『U.F.O.F.』からのシングルです」

天野「アルバムはかなり評判でしたね。この“UFOF”もそうですけど、古典的なフォークへと回帰しながら、微細で趣向を凝らしたサウンド・プロダクションも高評価の理由かなと思います。一聴してフォーク・ロック風のこの曲もさりげなく、奇妙な質感の音作りで」

田中「ビッグ・シーフの『U.F.O.F.』については、よくレディオヘッドの作品が引き合いに出されますよね。確かに、レディオヘッド『In Rainbows』(2007年)の延長線上にあるサウンドにも思えます。また、この“UFOF”の歌詞は、時代性を反映したテーマです。〈UFOに乗った友だち〉とは〈異なる文化や言語を持った他者〉の暗喩だとか。そんなわけで今年、ビッグ・シーフは一気に最重要バンドの仲間入りを果たしましたね」