COLUMN

リゾ『Cuz I Love You』 さまざまな個性の在り方を豊かな音楽性で肯定した、多様性の時代を象徴する傑作を紐解く

LUKE GILFORD

 “Juice”のヒットでリゾの存在を知ったという人は多いだろう。セクシャルな歌詞の中で自身と同じプラスサイズな体型を肯定したこれは、「みんなが自分を好きになるような音楽を作りたい」というモットーを端的に表した80sポップ・ブギー調のナンバー。自分の内面に潜む暗い部分に向き合いながら自信をつけてきたという彼女が、その思いを全力で発信した一曲だ。

 突然出てきたように思われがちだが、2013年と2015年にソロ・アルバムを出していたリゾは、当時チャンス・ザ・ラッパーらと並ぶ新進気鋭のラッパーとして注目されていた。また、2011年からミネアポリスで活動している彼女はチャリスというガールズ・トリオの一員としてもアルバムを発表。そうした活動がプリンスの知るところとなり、2014年には殿下とサードアイガールの“BoyTrouble”で声を交えることに。同年にはクリーン・バンディット『New Eyes』の表題曲でラップをしていたが、人前でフルートを吹くユニークさも含めて彼女の才能をフルに活かしたのがリッキー・リードだった。そのリッキーがアトランティック傘下に立ち上げたナイス・ライフと2016年3月にメジャー契約したリゾは、EP『Coconut Oil』を経て、今年初めに“Juice”で時の人となったわけだ。

LIZZO Cuz I Love You Nice Life/Atlantic/ワーナー(2019)

 リオン・ブリッジズ『Good Thing』での好仕事も忘れ難いリッキーとネイト・マーセローが手掛けた“Juice”は、このたびリリースされたアルバム『'Cuz I Love You』を象徴する曲だとリゾは言う。つまりアルバムの内容は、その体型と同じく枠にとらわれず、良い意味で常道を踏み外している。加えて本作では、ラッパーとしての個性はキープしつつシンガーとしての才も発揮。ビッグ・ママ・ソーントンのような剛唱と図太いホーンの音でのしかかる表題曲やダメ男との恋を歌ったというハチロク調のバラード“Jerome”はX・アンバサダーズの制作で、彼らのロック・バンドらしいレトロなソウル・アプローチを受けて50~60年代のリズム&ブルース・シンガーを気取ったようなリゾが新鮮に映る。〈アレサ・フランクリンがラップの曲を歌ったら?〉と想定して作ったという“Heaven Help Me”は、クワイアの声を挿んだ点も含めてゴスペルのルーツを反映した曲だろう。

 “Crybaby”も力強い歌で迫るミッド・バラードだが、かつて〈80年代製の赤のコルヴェット〉の車中で男と一緒に泣いていた体験を綴ったというこれは、いわく「ミネアポリス・サウンドの曲」。それに続く“Tempo”がネイトによるプリンスばりの直情的なギターから始まるのも興味深いが、ライブラリー音源をループさせたミニマルでパーカッシヴなこのダンス・チューンはゲストに迎えたミッシー・エリオットにも通じていて、そのふくよかな体型にシンパシーを感じ、ラップのスタイルや表現方法も含めてミッシーを意識してきたことが明らかとなる。

 ヒューストン育ちでもある彼女はサウス・ヒップホップにも親しんできた。“Exactly How I Feel”では冗談でグッチ・メインの名前を挙げたら本当に参加してくれたらしいのだが、DJジュビリーを聴いてクラブでブーティー・シェイクしながら育ったという彼女はニューオーリンズ・バウンスもやりたかったようで、オーク制作の“Soulmate”でそれを実現。これを聴けばビッグ・フリーダの“Karaoke”(2018年)でフックを歌っていたことも合点がいく。同じくオークが手掛けた“Like A Girl”は〈あなたが女の子みたいに感じるなら女の子よ〉と勇気づけるLGBT観点のエンパワーメント・ソング。肌の色を超えた愛とセックスを歌った、ロックンロールとトラップのミックス的な“Better In Color”も含めて、痛みを知ることで持ち得たポジティヴな感情を派手な音を鳴らしながら堂々と歌っていく姿は、力強く尊い。

 デラックス盤には、SNSのチャレンジ動画でも注目を集めた2017年のシングル“Truth Hurts”も収録。バイラルを起こす要素に満ちた作品とも言えるが、そうした部分にとらわれずとも、現代ポップスの主要素が詰まった本作の音楽的豊かさは今年屈指のものと言っていい。

 


リゾ
88年生まれ、デトロイト出身のシンガー/ラッパー/女優。ヒューストンで育った時期にラップを始め、14歳で友人とグループを結成する。エリプシーズに参加して2010年にアルバム『Indescribable Colours』を発表した後、2011年にミネアポリスに移住。翌年にリゾ&ザ・ラーヴァ・インク名義やチャリスで作品をリリースする。2013年に初のソロ・アルバム『Lizzobangers』をリリース。プリンス&サードアイガールやクリーン・バンディットとのコラボで脚光を浴び、2015年の2作目『Big GRRRL Small World』発表後にアトランティックと契約。ビッグ・フリーダとのコラボや映画出演を経て、メジャーでの初作『Cuz I Love You』(Nice Life/Atlantic/ワーナー)をリリースしたばかり。

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