COLUMN

山口美央子の神秘なる音世界――トリプルファイヤー鳥居、ミツメnakayaan、パソコン音楽クラブ柴田からコメント

セルフ・カヴァー作『FLOMA』特集

80年代にシティ・ポップとシンセ・ポップを横断する独自の作品を作り上げ、〈シンセの歌姫〉と謳われた山口美央子。アイドルを中心に多くの歌手への提供曲でも知られていた彼女の音楽は、2010年代後半にYouTubeなどを介して国内外で再び注目を集めはじめた。

そんな山口が36年ぶりの新作『トキサカシマ』(2018年)を発表。さらに、2019年7月にはセルフ・カヴァー・アルバム『FLOMA』をリリースした。これをきっかけとしたコラム〈山口美央子の華麗なる復活――再評価のいまシンセの歌姫に迫る〉に続き、今回Mikikiは現在のシーンで活躍する音楽家たちのコメントを掲載。鳥居真道(トリプルファイヤー)、nakayaan(ミツメ)、柴田(パソコン音楽クラブ)の3者が山口の音楽に何を聴くのか? それぞれの視点をぜひ楽しんでほしい。 *Mikiki編集部

山口美央子 FLOMA pinewaves(2019)

 

柴田(パソコン音楽クラブ)

山口美央子さんの楽曲には、東洋のエッセンスで描かれる綺羅びやかなメロディーと、少女の夢想のような感傷的な言葉、それらの隙間から手招きする妖美なシンセサイザーにとても魅力を感じていました。また、張り詰めたような神秘的な空気から、異国情緒までも操る視野と音楽的語彙の幅広さ……一つの切り口だけでは説明できない、これら独特の世界をポップにまとめ上げられるのは山口美央子さんしかいないと思います。今作『FLOMA』は そんな彼女の魅力の詰まった楽曲群から、80年代にリリースされたものを現在の感覚とテクノロジーで再構築した内容となっており、これが2019年に聞けるのは1ファンとしてとても喜ばしいです。

PROFILE:パソコン音楽クラブ
2015年結成。〈DTMの新時代が到来する!〉をテーマに、ローランドSCシリーズやヤマハMUシリーズなど90年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを用いた音楽を構築。tofubeatsをはじめ、他アーティスト作品への参加やリミックス、演奏会、ラフォーレ原宿グランバザールのTV CMソングなど幅広い分野で活動。2018年に初となるフィジカル作『DREAM WALK』、2019年9月4日(水)にセカンド・アルバム『Night Flow』をリリース。

LIVE INFORMATION
パソコン音楽クラブ “Night Flow” Release Party

9月7日(土)大阪・南堀江 SOCORE FACTORY
出演:パソコン音楽クラブ(+イノウエワラビ)/長谷川白紙
開場/開演:17:00/18:00
前売り/当日:2,500円/3,000円(いずれもドリンク代別)https://socorefactory.com/schedule/2019/09/07/パソコン音楽クラブ-night-flow-release-party/

10月12日(土)京都 CLUB METRO
出演:seaketa/©OOL JAPAN/Stones Taro(NC4K)/寺田創一/パソコン音楽クラブ/SEKITOVA
開場/開演:22:00
前売り/当日:2,500円/3,000円(いずれもドリンク代別)
https://www.metro.ne.jp/single-post/191012b

10月26日(土)東京・渋谷 WWW
出演:パソコン音楽クラブ(Guest Vocal:イノウエワラビ)/長谷川白紙
開場/開演:17:00/17:30
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
https://www-shibuya.jp/schedule/011365.php

 

nakayaan(ミツメ)

シンセサイザーの音が好きだ。
特に昔のチープな音像のものが大好きである。
60~70年代のアナログシンセも、80年代のFMシンセもそれぞれに味があり、当時のミュージシャンの想像力にいつもワクワクさせられる。
山口美央子さんの80年代諸作の音像はとても可愛く、愛すべき要素しかない。
『夢飛行』『NIRVANA』『月姫』はそれぞれに異なって追求している部分を感じ、3作ともが素晴らしい完成度のアルバムになっている。
個人的には2nd Albumの『NIRVANA』はアルバムを通してのアレンジの自由さと風通しの良さが、聴いていてとても爽やかな気分になり最も好きだ。
今作『FLOMA』でも“NIRVANA”のカバーは新鮮かつ刺激的に感じ、非常に興奮した。
セルフカバー集である『FLOMA』は、アレンジが大胆に変わったり、サウンド全体がレンジの広い高音質となったりという違いはあれど、シンセサウンドにひたすら馴染んで心地よい山口美央子さんの声は、80年代諸作にも劣らず魅力的に響いていて感動した。
80年代諸作と本作を交互に聴くのは2019年ならではの楽しみであると思う。
そっと目を閉じ、曲が想起させる世界に思いを馳せよう。

PROFILE:nakayaan
ミツメのベーシスト。STUTSのセカンド・アルバム『Eutopia』や竹川天志郎(JAPPERS)によるボーボーなど、多数のプロジェクトに参加。DJやリミキサーとして活躍する一方、2014年にソロ・アルバム『EASE』をリリース。バンド・セットでのライヴも行っている。2019年秋、de.te.ri.o.ra.tionから7インチ・シングル『immigrant / proslava』をリリース予定。

 

鳥居真道(トリプルファイヤー)

山口美央子さんのことを知ったのは大変恥ずかしながら今年の頭のこと。昨年末に姫乃たまさんから楽曲依頼をいただいてあれこれ思案していた頃に、友人と友人の奥さんと食事する機会があり、その話をしたら、話題は好きなガールズポップの曲に移っていった。友人の奥さんはCoCoの“はんぶん不思議”が好きだと言う。

家に帰ってから、音源をSpotifyで探しつつWikipediaでCoCoのページを見ていた。楽曲提供した作家のリンクに飛んで略歴を読むなどしていて、山口美央子さんのページにまとめられた提供曲一覧に斉藤由貴の名前を見つけたので、早速ググってYouTubeで聴いてみたところ、心を鷲掴みにされたのが“Yours”だった。

斉藤由貴の91年作『LOVE』収録曲“Yours”

“Yours”は陰りがあり、微かにセンシュアルで、哀切だが過度にウェッティではなく、鳩尾あたりに痛気持ち良さを感じさせつつ、俗世からわずかに遊離した甘い響きがあって、仕上がりはエレガントというような曲が好きでたまらない私のツボをぐいぐいっと押すような曲だったから、一瞬にして虜になった。

そうした音楽の例を他に挙げろと言われたらプリンスの“The Ballad Of Dorothy Parker”だとか藤井隆の“わたしの青い空”と答えたい。この2曲はややビターな味わいだが、“Yours”はもう少し甘酸っぱいかもしれない(ところで、YouTubeのコメント欄で知ったことだが、斉藤由貴の“Yours”はダン・メイソンというVaporwaveないしFuture Funkのアーティストによってサンプリングされているとのこと。私事だが、2010年代も相変わらずチャック・レイニーのフレーズをコピったりしているような人間だからなのか、Vaporwaveがどういうものなのか未だに把握できていない。Synthwaveはパロディが即物的だし映画やドラマでも使われているからまだわかるのだが……)。

その夜、早速Wikipediaの情報をもとに山口美央子さんが提供した曲をSpotifyのプレイリストにまとめて聴いたのだった。斉藤由貴に提供した曲は、“回転木馬”“ホントのキモチ”“いつか”など素晴らしい曲が多く、特に“終りの気配”の繊細なメロディにはため息が漏れる。武部聡志によるアート・オブ・ノイズ調のアレンジも素敵だ。

鳥居真道のSpotifyプレイリスト〈山口美央子ワークス〉

今井美樹に提供した“夜の夢”は不倫を扱った歌だが晴れ晴れとしたメロディが清涼感をもたらしている。数年前までシティポップというものはこうした手練手管の大人たちによって作られた洗練された表現の音楽だと思っていた。都会的といえば、〈和製ニュー・ソウル〉調の佐藤聖子の“BABY CRY”も素晴らしい。西田ひかるの“HAPPY EVER AFTER”も同じくソウル調で楽しい一曲。作詞も担当した金井夕子の“可愛い女と呼ばないで”はどこか筒美京平調で、ユーモラスで愛くるしい曲。ご本人によるカバーは『NIRVANA』で聴くことができる。

ライトなバレアリックファンとしては、鷲尾いさ子への提供曲を見逃すわけにはいかない。“下級生”のメロディの浮遊感、やや不穏な感じ、そして繊細さ。山口美央子さんのメロディが好きにならずにはいられない所以はここにある。“蝶の骨”も山口さんの繊細さが眩い一曲。バレアリック的ということでいえば、渡辺満里奈の“もう夢からさめないで”もそのように解釈できないこともない。

川越美和の“ジェーン・バーキンのように泣けばいい”はポスト・ヨットロック的なアレンジが施されたムーディーな曲だが、メロディにはヨーロッパ的な気品が漂う。ウェットとドライのバランスを扱う手さばきが本当に見事だとしか言いようがない。“ジェーン・バーキンのように泣けばいい”は今回リリースされるセルフカバー集『FLOMA』にもボーナストラックとして収録されている。

PROFILE:鳥居真道
87年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドの多くの楽曲の作曲を手がける。バンドでの活動に加え、他アーティストのレコーディングやライヴへの参加および楽曲提供、選曲/DJ、音楽メディアへの寄稿、リミックスやトーク・イヴェントへの出演も行う。「Rolling Stone Japan」で〈モヤモヤリズム考 − パンツの中の蟻を探して〉を連載中。

LIVE INFORMATION
アルティメットパーティー7-1
11月22日(金)東京・渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:トリプルファイヤー
開場/開演:18:30/19:30

アルティメットパーティー7-2
11月29日(金)東京・渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:トリプルファイヤー
開場/開演:18:30/19:30

前売り(1日券):3,500円(ドリンク代別)
チケット:ぴあ(Pコード:159-985)/ローチケ(Lコード:73830)/e+(https://eplus.jp/triplefire)/O-nest

 


LIVE INFORMATION
山口美央子『FLOMA』リリース・ツアー

FLOMA Tour in Tokyo
9月19日(木)東京・南青山 MANDALA
開場/開演:18:30/19:30
出演:山口美央子/松武秀樹
チケット販売(LivePocket):https://t.livepocket.jp/e/yamaguchimioko

FLOMA Tour in Nagoya
9月20日(金)愛知・名古屋 Live & Lounge Vio
開場/開演:19:00/19:30
出演:山口美央子/松武秀樹
チケット販売(LOGIC STORE):https://mttklogic-store.com/items/5d39577566d86c6acfe78fe4

FLOMA Tour in Kyoto
9月21日(土)京都・木屋町 UrBANGUILD
開場/開演:18:30/19:00
出演:山口美央子/松武秀樹
チケット販売(LOGIC STORE):https://mttklogic-store.com/items/5d3963f38e69195d8ffef977

https://yamaguchimioko.jp/

40周年プレイリスト
pagetop