INTERVIEW

中田恵子『〈Joy of Bach〉J.S.バッハ:オルガン作品集』 日常に寄り添い、そっと支えてくれるバッハ

©Julien Creff

バッハの音楽は日常に寄り添い、そっと支えてくれる存在

 「アルゲリッチのように、本能的でエキサイティングな、クラシックをあんまり知らない人が聴いたとしても面白く感じられるような演奏をオルガンでも目指したいんです」と語ってくれたのは、デビュー盤が今年7月に日本で流通し始めたばかりの中田恵子。国際コンクールで優勝し、国内外で活躍する注目のオルガニストだ。バッハのオルガン曲に魅せられ、一般大学を卒業してから改めて藝大とパリ地方音楽院でオルガンを修めた彼女が最初のレコーディングに選んだのもやはりバッハ。しかもまだ若い頃に書かれた、華やかかつオルガンを聴く楽しみの詰まった作品を軸にしている。

 「まずは聴いて楽しんでもらいたいですし、自分が好きで弾きたい曲を集めていったら、そうした時期(ワイマール時代)の作品ばかりになっていて(笑)」

 力むことない自然体の話しぶりは演奏の魅力にも直結しているかのようだ。ことさらに何かを強調することなく、ちょっとした間合いのとり方によって感情が伝わってくる。「オルガンは弱く弾いたら弱く聴こえるっていう楽器じゃないですけれど、豊かな表現が可能なんです。私がフランスで習っていた先生は、〈聴こえてくる結果に対しての技術〉を教えてくれた方で、どう間合いを空ければ、どういう風に聴こえさせられるのかの引き出しを沢山学びました。そのお陰で自分の思いをどうやったらオルガンに乗せられるのか、頭でっかちにならず自然に出来るようになりましたね」

中田恵子 「Joy of Bach」 J.S.バッハ: オルガン作品集 arcantus/King International(2019)

 レコーディングに使用したのはスイスやドイツにも近いフランスのベルフォールにあるサン・ジャン教会のオルガン。日本でも多くのオルガンを手がけてきたマルク・ガルニエの手がけた楽器だ。「第一に、美しく人間味のあるパイプの音色、また楽器と空間のマッチした響きに魅せられ、ここに決めました。色彩豊かな明るいサウンドも私の思うバッハの音楽に最適でした」

 どのトラックも秀でた演奏を堪能できるが、本盤の白眉となるのは最後の《おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け》BWV622であろう。「キリスト教を信じていても、いなくてもキリストの受難の痛み、深みが理屈ではなく、心に訴えかけてくるものがあって、音楽にすごくあらわされている曲なんです。これも救いであり、魂の〈喜び〉でもあります」と彼女自身が語っているように、それとは気付かぬうちに頬を濡らしてしまうような演奏なのだ。バッハの音楽は日常に寄り添い、そっと支えてくれる存在になり得ることを誰よりも実感している中田だからこその演奏を出来るだけ多くの人々にお聴きいただきたい。

 


LIVE INFORMATION

ストラスブール・オルガン・フェスティバル(フランス)〈オルガン散歩〉
○8/22(木)10:00開演
会場:オベルネ、バール、ゲルストハイム(各30分のコンサート)

Joy of Organ ~CD発売記念コンサート~
○11/3(日・祝)14:00開演
会場:神奈川県民ホール(小ホール)

夕の祈り
○12/4(水)18:30開演
会場:聖ルカ礼拝堂(聖路加国際大学)

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