INTERVIEW

パソコン音楽クラブ『Night Flow』 フェティッシュな愛で描いた新作が宿す、いつか失われていく感覚とは?

パソコン音楽クラブ『Night Flow』 フェティッシュな愛で描いた新作が宿す、いつか失われていく感覚とは?

 80~90年代のシンセサイザー/音源モジュールのみで組み立てた懐かしくも新しいサウンド、ダンス・ミュージックの昂揚とベッドルーム・ポップの内省感を併せ持った楽曲で、聴き手にいつかどこかで体験したことのあるような夢を幻視させるユニット、それが共に90年代生まれの柴田と西山の二人から成るパソコン音楽クラブだ。80年代テクノ・ポップや往時のシティー・ポップ~フュージョンとの共通項も感じさせるその音楽性は(実際に坂本龍一の“Thousand Knives”をカヴァーしたこともある)、昨今のリヴァイヴァル文脈で捉えることもできるが、彼らがインスパイアされているのは、それらのジャンルというよりも、当時の機材そのものが備えた固有の魅力だ。

 「当時の機材の多くは特定の楽器や役割を明示されていないプリセット音色が多く搭載されているように感じており、それが創作意欲を掻き立てます」(以下、発言はすべて共通)。

パソコン音楽クラブ Night Flow パソコン音楽クラブ(2019)

 その楽器としての可能性をフェティッシュに追求したうえで、〈終わらない夢〉(“Inner Blue”)を描いたのが、初のCD作品となった作品の『DREAM WALK』だったわけだが、続く今回のニュー・アルバム『Night Flow』で彼らは、作品全体を通して夜から朝へと向かう時間を表現することで、終わらない夢の続きと物事が移ろい行くことの感傷を結晶化する。

 「自分たちにとって〈夜〉は、見知ったはずの物さえ違って見え、いろいろなものにときめきを感じる魔法のような時間です。こういう感覚は年齢を重ねるにつれてどんどんと鈍くなり、いつか失われるような気がしています。この作品はタイムリミットが来る前に自分たちのこの感覚を覚えておけるようにしたいという思いで作りました」。

 前作リリース以降はクラブで演奏することが増えたとのことで、自然と「クラブ・ミュージックの持つ低音の豊かさが反映された」という本作。テクノ草創期の熱を呼び覚ます“Air Waves”などのインスト曲を挿みつつ、unmoの儚くも寄り添うような歌声に「夜、ふと何かから逃げ出したくなったりして散歩をしてみたとき、星の音に耳を澄ますことも許されるこんな時間が永遠に続けばな……」という願いを託した“Yukue”といったヴォーカル曲が、いつか終わりが訪れるであろう夜の物語を形作る。前作の“Inner Blue”などに続きイノウエワラビが歌うメランコリックなアーバン・ダンサー“reiji no machi”は最初のピークタイム。「時間が折り返し、刻一刻と夜(あるいは自分自身の感性)が終わっていくことに気付いた時に、夜の街のときめきをいつまでも繋ぎとめておきたいという気持ち」が午前零時の街を覆う。その一方で、「特別な時間が終わる寂しさを歌っているだけでなく、その終わりを受け入れ、自分自身が変化していくことへのポジティブな部分に注目した曲」が同じくイノウエ歌唱の“Time to renew”。そしてアルバムは長谷川白紙をヴォーカルに迎えた煌びやかなドラムンベース“hikari”で夜明けに達する。

 「この曲は、夜が明けて街が色付きはじめるとき、昨夜を歩き続けた自分には眠りが訪れ、夢のように感じた時間から眠りの夢に移る曖昧な境界線に立ち尽くしながらも、いま自分が息をしていることだけはわかっている、といったことをテーマにしています。アルバム全体で言うと、流れていく夜と共にどこかへ消えていく青年期のような感覚へのすがりつきと、更新されていく自分の感覚を受け入れるグラデーションをどこかしらの部分で描けていたらいいなと思います」。

 モラトリアムでさえも希望に映る現代において、彼らが奏でるのは、何でもない日常や忘れ去られた機材に新しい光を与える救済のポップ・ミュージック。例え夢から覚めたとしても、夜は我々のもとに何度でも平等に訪れるのだ。

 「僕らは公園や広場といった〈誰にでも開放された場所〉のようなグループであることを大切にしています。今後も誰にでも開かれた〈部活〉としての姿勢は変わらずに、海外など活動の場を広げられれば嬉しいです」。  

 


パソコン音楽クラブ
柴田、西山を中心に複数の部員で構成されるDTM集団。関西を拠点に2015年11月に活動を開始。2016年にbouquetのコンピ『Young Folks in Metropolis』に楽曲を提供し、2017年にMaltineから『PARKCITY』を配信して脚光を浴びる。同年に『She Is A』を自主リリース。並行してYackleやPoor Vacationらのリミックス、CM音楽の制作、演奏会など多岐に渡る活動を展開していく。2018年にTVアニメ「電影少女 -VIDEO GIRL AI 2018-」のサントラに参加し、tofubeats“ふめつのこころ”のリミックスを手掛ける。同年に初のフィジカル作品となるフル・アルバム『DREAM WALK』を発表。9月2日にニュー・アルバム『Night Flow』(パソコン音楽クラブ)をリリースする。

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