(左から)馬渕啓、出戸学、勝浦隆嗣、清水隆史

タワーレコードのアナログ専門店〈TOWER VINYL SHINJUKU〉の〈太鼓盤〉をご紹介しているこの連載。今回は特別編として、OGRE YOU ASSHOLEのイヴェントをレポートします。

独自のモダン・サイケデリック・ロックを追い求めるバンド、OGRE YOU ASSHOLE(以下、オウガ)が新作『新しい人』をリリースしました。これを記念し、レコードを愛するメンバー4人の番組〈RECORD YOU ASSHOLE〉がTOWER VINYLに出張。それぞれが選んだ盤を聴きながら、ライター・松永良平(リズム&ペンシル)と語り合いました。

それでは、多数のファンが新宿店10階に詰めかけたイヴェントの模様を、どうぞ。

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Joe Tossini And Friends『Lady Of Mine』(89年)
“I'm In Love With An Angel”

松永良平「早速始めましょう。1番手は出戸くんです。これはどなたの、なんという曲ですか?」

出戸学(ギター/ヴォーカル)「ジョー・トッシーニの“I'm In Love With An Angel”という曲です。イタリア、シチリア生まれの人のプライヴェート盤に近いもので、最近再発されたレコードです。彼はお母さんを亡くして、2回も離婚して、心が病んでいたらしくて。これは、その治療の一環として制作されたというアルバムです」

松永「曲調はメロウとも言えますけど、ちょっとキモいとも言えますね(笑)」

出戸「打ち込みの感じやメロウなところ、スカスカ感は、僕らの今回のアルバムとも近いのかなと。僕はこんなに、まったりとは歌えないですけど」

松永「アルバム制作の背景も影響しているんでしょうけど、全体的に元気がない感じはしますね(笑)」

出戸「こんなにたくさんの人の前でかけることを想定していませんでした。選盤、間違えましたかね。これの後なら何をかけてもいい、ということで(笑)」

松永「トップバッターとしては最高だと思います(笑)。次は馬渕くんです」

 

Saâda Bonaire『Saâda Bonaire』(2013年)
“More Women”

馬渕啓(ギター)「サーダ・ボネールというドイツのグループが、80年代に7インチでリリースしたものですね。当時はあんまり売れなかったみたいで。これは最近いろいろな曲が追加されて、12インチで再発されたものです。ここ3年ぐらい、よく聴いた一枚ですね」

松永「ジャケットにアラビア文字がデザインされていて、多国籍? 無国籍? ちょっと不思議な感じです」

馬渕「フランクフルトの人のようで、アラビア感はメンバーとは関係ないみたいです。プロデューサーがいて、この(ジャケットに写っている)2人に歌ってもらっているという。

ディスコ要素と中東の辺境感のバランスがいいんですよね。この質感にかなりハマっていたので、今回の曲作りに影響していると思います」

松永「たしかにビートに対するギターの音のストイックな置き方とか、オウガの新作にも近いですね。続きまして、勝浦さんです」

 

安東ウメ子『IHUNKE』(2001年)
“ペカンベ ウク”

勝浦隆嗣(ドラムス)「安東ウメ子さんの“ペカンベ ウク”という曲です。アイヌ音楽で、(トンコリ奏者の)OKIさんがプロデュースしています。

最初に聴いたのは、一人で北海道旅行に行ったときでした。阿寒湖の湖畔にアイヌ村(アイヌコタン)というのがあって、そこで入ったお店の方に教えてもらって。なので、ものすごく抜群なシチュエーションで出会ったんです。

最初は〈民族音楽っぽいな〉って思いながら聴いていました。でも、ちゃんと聴くといろいろな音響処理がされていて、その混ざり具合がいんですよね。

CDで持っていたんですけど、最近ドイツのレーベル(Pingipung)からレコードで再発されたっていうのを知って、思わず買ってしまいました。ずっと聴いていても飽きないですね」

松永「ミニマルなループ感が気持ちいいですね。いまならこれはLPで聴くのが正解かも。では、清水さんです。これは言わずもがな、ですね」

 

Daniel Johnston & The Rhythm Rats『Big Big World』(91年)
“Big Big World”

清水隆史(ベース)「〈ダニエル・ジョンストン&ザ・リズム・ラッツ〉名義で出した“Big Big World”という曲の7インチです」

松永「この選盤は、ダニエル・ジョンストンが亡くなったばかりだということもあると思うんですが、世代的にも彼の存在は大きかったんですか?」

清水「そうですね。これは91年の盤で、当時買ったものです。レーベルは〈Seminal Twang〉という、ジャド・フェアとかハーフ・ジャパニーズとか、あのあたりの人たちの作品を出していたところですね。当時は〈ここのレコードは全部買っておく〉みたいに思っていたので、あまり考えずに手に入れたんだけど、聴いてすごく好きになりました」

松永「これは聴きやすいほうですよね。僕は初期の足踏みオルガンでの宅録作品のほうから好きになったので、むしろこういう普通にかっこいい感じの曲は後から知って意外に思ってもいたんです。出戸くんは聴いていました?」

※ダニエル・ジョンストンは80年代、チープなコード・オルガンを弾きながら歌った楽曲を多数録音している

出戸「高校生の頃に聴いていましたね。ダニエル・ジョンストンは好きな逸話があるんですよ。自作のカセットテープを売っていた初期の頃、彼は〈ダビング〉というものを知らなかったので、毎回カセット一本一本に直接歌を吹き込んで、それを買ってくれた人に発送していたっていう」

松永「一回だけ〈map〉の招聘で来日もしているんですよね。亡くなった直後に、そのときの苦労話みたいなエピソードもSNS上でいろいろと語られてましたね。ダニエル・ジョンストンの作品はたくさん出ているので、これで気になった方は、ぜひ他のも聴いてみてください。どれもかわいくて、いいんですよね」

清水「そうですね。今回は追悼ということで」

松永「ありがとうございました。イタリア、ドイツ、北海道、アメリカと、世界旅行感ありますね(笑)。次も、さらに世界旅行に行きます」

 

William Onyeabor『Atomic Bomb』(78年)
“Better Change Your Mind”

出戸「ウィリアム・オニーバーの“Better Change Your Mind”という曲ですね。これも発掘音源です。本当かどうかわかりませんが、ナイジェリアで最初の宅録ミュージシャンと言われている人で、電子音楽を取り入れた元祖でもあるとか。こういう埋もれていたけど、いまの感覚で聴くとめちゃくちゃいい、みたいな音楽ってありますよね」

松永「いわゆるアフロ・ファンクものの発掘が進むなかで、これは〈ついにここまできた! アフロ+電子音!〉みたいな感じで出たから、よく覚えています。ジャケットのアフリカン・カウボーイ感も謎だったし。勝浦さんはこのビート、ドラマーとしてどうですか?」

勝浦「すごくヨレていますけど、おもしろい。清水さんの独特のベースに合わせて叩くと、こういう味のある感じになりますね(笑)」

松永「本当は、この人の頭のなかではもっといろいろなパーカッションが鳴っているんだけど、それを引き算しているからこういうビートになっているのかなと」

出戸「いや、引き算していないと思いますね。僕らの音楽もよく〈引き算している〉って言われるんですけど、作っている身としては、これでちょうどいいと思ってやっているんです」

松永「なるほど。そう考えると聴こえ方も変わって感じられて、さらに興味深いです。次は馬渕くんの2枚目です」

 

Velly Joonas『Stopp, Seisku Aeg!』(2015年)
“Stopp, Seisku Aeg!”

馬渕「これは〈ヴェリー・ヨーナス〉って読むんですかね? 80年代に録音されたものの発掘音源で、エストニアの人だとか。調べてみたら、これはアバのメンバーの曲のカヴァーなんです。原曲(フリーダ“I See Red”)はもっとポップなレゲエで、僕としてはこっちのほうがいいんですよね」

松永「エストニアって言われてもイメージが湧かないんですが、ロシアのヨーロッパ側の端っこに接した国なんですね。そのあたりの人からすると、レゲエはこういうふうに聴こえるんでしょうか。そういうズレ感の気持ち悪さと気持ちよさの両方がある。馬渕くんが選んできてくれた盤は、いまのオウガのサウンドメイキングにも近いところがありますよね」

馬渕「そうですね。あえて、そういうものを選んできました。これも〈もろレゲエ〉じゃなくて、いろいろな要素が入っていて、なんとも言えないところがいいなあと」

松永「続いては勝浦さんです」

 

Roberto Ciotti 『Super Gasoline Blues』(78年)
“Blues Plays Me”

勝浦「ロベルト・チオッティの“Blues Plays Me”という、主語と述語が逆、みたいなタイトルの曲ですね。イタリアのクランプス・レコーズから出ています。イタリア人の方がブルースをやっているレコードなんですけど、〈どブルース〉ではない感じがいいというか」

松永「ドラムの変な感じとか、キャプテン・ビーフハートっぽいかも」

勝浦「たしかに。クランプスのレコードだからかもしれませんが、プログレっぽさも感じます。どこかブルースだけではない感じが好きなんですよね」

松永「ジャケットも、ちょっと普通じゃなさそうですしね。個人的には勝浦さんが普段こういうものを聴いているっていうのがおもしろいです」

出戸「これをブルースだと思って聴いていないっていうところが、さらに謎です(笑)。最近、ブルースにハマっているんですよね?」

勝浦「マディ・ウォーターズとか、聴いたことなかったんですよ。それで聴いてみたら、めちゃくちゃかっこよくて。そういうのと比べると、沈み込みがまだ浅いというか、悪い意味じゃなくドロドロ感が少なくて、すっきりしている」

松永「これを聴いて、ブルースじゃないものを感じ取れるっていうのが勝浦さんのユニークなところかもしれません。ナイジェリア、エストニア、イタリアと、世界旅行がまだ続いているなかで、最後は清水さんです」

 

Dinosaur L『24→24 Music: The Definitive Arthur Russell』(2011年)
“Tiger Stripes (Extended Version)”

清水「これは84年にリリースされたフェリックスの“Tiger Stripes”っていう曲なんですけど、アーサー・ラッセルの変名ですね。オリジナル盤は持っていないので、ボックス・セットからの1枚です」

松永「アーサー・ラッセルはアメリカのミュージシャンですけど、独特の異郷感が常にありますよね」

清水「ベースが出たり入ったりする感じもいいですし、音色も〈おいしい〉というか。好きなんですよね」

馬渕「僕もすごく好きなんですけど、曲の構造が全然理解できないんですよね。つかませてくれない、というか。彼は〈こういうふうに演奏して〉ってミュージシャンに頼んでいたらしいんですけど、結局は自分でテープをカットしてしまうんだとか。その編集作業をずーっと一人でやっていてスタジオ代はかさむし、彼の頭のなかでは曲が完全に出来上がっても誰も理解ができなくて」

出戸「編集がかなり入っているんだね。途中で曲のスピードが変わったりするし。バンドの演奏として捉えると、機材トラブルが発生していて、〈どうしたんだ?〉って思われちゃうようなアレンジだよね(笑)」

馬渕「でも、なんかキャッチーなんですよね」

清水「当時は売れていないんでしょうけど、いま聴くと自然というか、ちょうどいい感じなんですよね。亡くなってから再評価されるという」

松永「いい感じで2回りしましたね。本日はありがとうございました。最後に、オウガから何かありますか?」

出戸「『新しい人』というアルバムを出したので、リリース・ツアーが始まります。ぜひみなさん遊びに来てください。お待ちしております」

 


INFORMATION
TOWER VINYL SHINJUKU

東京都新宿区新宿3-37-1 フラッグス10F
営業時間:11:00~23:00
定休日:不定休(フラッグスの休業日に準じる)
電話番号:03-5360-7811

LIVE INFORMATION
OGRE YOU ASS HOLE『新しい人』release tour

9月29日(日)長野・松本 ALECX
10月6日(日)大阪 umeda TRAD
10月12日(土)INSA 福岡
10月22日(火)愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
10月26日(土)北海道・札幌 BESSIE HALL
11月4日(月)東京 EX THEATER ROPPONGI
http://ogreyouasshole.com/atarashihito

Kikagaku Moyo JAPAN TOUR 2019
10月5日(土)東京・渋谷 WWW X
出演:幾何学模様
スペシャル・ゲスト:OGRE YOU ASSHOLE
https://www-shibuya.jp/schedule/011360.php