菊地成孔≠BOSS THE NKが、〈スパンクハッピーとDCPRGのどちらにも加入できる/した、唯一の存在〉であり〈最初にして最後の、完璧なパートナー〉である小田朋美≠ODと結成した〈最終スパンクハッピー〉。始動から1年強でついに発表されたアルバムの5曲目には、驚くべきことに第二期の楽曲“アンニュイエレクトリーク”のかなり忠実な再録が収められている。他の楽曲と比べると、わかりやすく毒気がある同曲が継承ないし切断を担うことで、それ以前の4曲、そしてそれ以降の6曲へとなめらかな光を照射しているかのよう。

アルバムはファレル・ウィリアムス“Happy”のようなビートの“Nice Cut”で幕を開けるというか、膜を破る。“Nice Cut”で自身のキャラクターをひたすら弄んだ挙句に雪崩れ込むベック“Devils Haircut”の再解釈は、YMO“体操”を過激化したミニマルなピアノを中心に置いたもの。そして、ミュージカルかテクノかの二者択一を迫りながら〈まあ、どっちの要素も入ってるんですけど(笑)〉と笑う“雨降りテクノ”まで、どこまでも躁的だが、前述の“アンニュイエレクトリーク”以降は鬱的に沈み込んでいく。また、ヨレて訛ったポリリズム、トラップにハウスと、リズムやビートに対するアプローチも当然のように多彩だ。それと相似形に、ODの歌唱は、まるでライヴ中の衣裳替えのようにまったく異なるニュアンスを曲ごとに聴かせる。

総じて、このファースト・アルバム『mint exorcist』を聴く限り、〈最終形態〉はただひたすらにエレガンスを強調しているように思う。さんざん別物であることが強調されている第二期との比較はご法度だとはいえ、ペドフィリアまでその範疇に収めて性的倒錯を歌い、ときに露悪的でさえあった第二期(その唯一の名残が“アンニュイエレクトリーク”だと言える)とは、その点が大きな差異である。

〈赤坂〉と〈明洞〉を並べ、〈宇宙人〉と〈外国人〉との両義を持たせた〈エイリアン〉との幻想的で生々しい逢瀬を歌う“エイリアンセックスフレンド”、そして、けもの“tO→Kio”の見事な(この曲がまるでSPANK HAPPYのために書かれたものであるかのようにさえ感じさせるほどの)カヴァーは、そんな新たなバンドの性格を物語っている。資本主義を華麗に優しく褒め殺し、アクセラレイトするための、おそろしく誘惑的な糖衣に包まれたCD盤だ。

『mint exorcist』は、現在〈ビュロー菊地SHOP〉やライヴ会場で限定販売中。

※このレビューは2019年10月10日発行の「intoxicate vol.142」に掲載された記事の拡大版です