まるでハロプロの系譜をなぞってもいるようで、彼女たちがハロプロあるいはアイドル・シーンの20年という歴史の果てに生まれたユニットなのだと感じさせる。

2019年、令和というあらたな時代を迎えてさらに活気づくアイドル・シーンに、突如びよーんと威勢よく踊り出したハロー!プロジェクト発の新世代アイドル・グループ、BEYOOOOONDS。8月のメジャー・デビューより界隈ではすでに大きな注目を浴びている彼女たちだが、そんななか早くもファースト・アルバムがリリースされる。それは、彼女たちが早くもシーンの最前線に立ったということに気づかされる作品となった。

BEYOOOOONDS BEYOOOOOND1St zetima(2019)

BEYOOOOONDSとは、一岡伶奈、島倉りか、西田汐里、江口紗耶から成る〈CHICA#TETSU〉、高瀬くるみ、前田こころ、山﨑夢羽、岡村美波、清野桃々姫から成る〈雨ノ森 川海〉というふたつのユニットが合わさり、そこにオーディションで選ばれた平井美葉、小林萌花、里吉うたのの3人が加わった、2018年結成の12人体制の大所帯グループだ。

CDデビュー以前より先輩グループのオープニング・アクトや、ハロー!プロジェクトの
コンサートなどに出演して、そのデビュー前ながら完成度の高いパフォーマンスが一部ですでに注目を集めていたが、その後2019年8月に、シングル『眼鏡の男の子/ニッポンノD・N・A!/Go Waist』で満を辞してメジャー・デビューを果たす。“眼鏡の男の子”冒頭のセリフを借りるなら、〈この戦、勝てる!〉というアイドル・ファンからの熱気も後押しして、ハロー!プロジェクト所属グループとしては初となる、デビュー・シングルのオリコンウィークリーチャート初登場1位という偉業を達成した。そんな〈この娘たち、推せる!〉という勢いも覚めぬなかリリースされるのが、BEYOOOOONDS初のアルバムとなる『BEYOOOOOND1St』なのだ。

ファースト・アルバムとは得てして、アーティストの音楽性やそのキャラクター性まで含めた、いわば〈名刺代わり〉と形容されるもの。もちろんこの『BEYOOOOOND1St』もそうした性質を持つ、この一枚で彼女たちがどんなグループなのかわかるバラエティに富んだ作品となっている。しかし一方でその振り幅がとてつもなく、やはり令和型アイドルの勢いはすさまじいと痛感する、ファースト・アルバムにしてすさまじいクオリティーの一枚となってしまった。

本作は“OOOOOVERTURE”の壮大なイントロダクションから、ゴリゴリのメロディック・スピードメタル曲“アツイ!”で威勢よく滑り出したあとは、現代日本へ令和世代がコミカルに警鐘を鳴らす90年代J-Pop調のアンセム“ニッポンノD・N・A!”へとアグレッシブに突き進む。またヒャダインこと前山田健一による“きのこたけのこ大戦記”では、令和になっても決着のつかない例の争いをモチーフにした壮大なロック・オペラを聴かせるなど、新人らしい無邪気さでさまざまなジャンルを横断するさまはシンプルに爽快である。

またBEYOOOOONDSの特徴としては、上記の楽曲や先行シングル『眼鏡の男の子』でも聴かれる、曲中にセリフをふんだんに盛り込んだ演劇的なアプローチが挙げられる。歌とダンスがシアトリカルなパフォーマンスによって展開されるというのは現代アイドル的であるが、それがまた12人というメンバーで見せることができるというのはきっと彼女たちの今後の大きな武器となっていくだろう。

他方で本作ではCHICA#TETSU、雨ノ森 川海、また〈平井・小林・里吉〉といったユニット楽曲も収録されており、それぞれユニットやメンバーのキャラクターに注目して聴くのも楽しい。

そういった〈BEYOOOOONDSらしい〉魅力に溢れた本作だが、加えて実に〈ハロプロらしい〉アイドル・ソングというのも、当然本作でたっぷり堪能することができる。ダンス・ミュージックひとつとっても、オーセンティックなディスコから近年のエレクトロニックなアプローチまでさまざまな時代のエッセンスを取り入れているが、それはまるでハロプロの系譜をなぞってもいるようで、彼女たちがハロプロあるいはアイドル・シーンの20年という歴史の果てに生まれたユニットなのだと感じさせる。