WRというイデオロギーの生成……。

 70年代に隆盛を極めたフュージョン・ブーム。その後細分化(ポップ化、ロック化、ファンク化……)の波をものともせず、楽曲や音楽性、その演奏力の点において、シーンに多大な影響力を及ぼし続けたスーパー・グループ、ウェザー・リポート。その活動期間中のバンドの偉業はジャズ/フュージョンの歴史を語る上で外すことが出来ないものだが、86年に解散してから、30年近い月日が過ぎようとしている今、ウェザー・リポートとは一体どんなグループだったのかを多角的に分析した初の総括本が登場した。

松下佳男 『オール・アバウト・ウェザー・リポート』 シンコーミュージック(2014)

 監修はジャコ・パストリアス研究の権威である元アドリブ編集長、松下佳男氏。ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターという2人の稀有な才能の出会いがグループ誕生のきっかけとなり、ジャコ・パストリアスという〈天才〉が加わったことでグループをより進化させ、絶頂期へと導いてゆくストーリーはドラマティックそのものであり、去来する数々のメンバーの証言や裏エピソードから知る複雑な人間模様などの記述はどれも興味深い。また中心メンバーが作曲能力に長けていたせいで、数々の名曲が誕生し、それゆえバンドの存在そのものが当時の音楽ファンの記憶から消え去ることはなく、それが他のフュージョン・バンドと一線を画する点だとあらためて認識させられる。

77年作『Birdland』収録曲“Birdland”の78年のパフォーマンス映像

 この他、パット・メセニー、マーカス・ミラー、渡辺香津美、櫻井哲夫、ピーター・バラカンら、〈私の好きな一枚〉として選ぶウェザーのマイ・ベスト特集もあり、まさに〈オール・アバウト〉な内容は読み応え十分。本書とともに見逃せないのが、ジャコ関連の2作のCDのリリース。ひとつはデビュー前、74年にジャム・セッションした貴重な発掘音源集『Modern American Music... Period! (The Criteria Tapes)』、もうひとつは86年、ドイツのドルトムンドでの最後のライヴ音源『ラスト・ライヴ1986』。どうりで“天気予報”は最近猛暑続きだ。