ラテンやアラビアンから最新ベース・ミュージックまで多様な音楽性を貪欲に採り入れながら、陽気で猥雑なハウス・ミュージックを作り出してきたベースメント・ジャックス。彼らが、キャリア初期のレア・トラックと近年のリミックスを集めた2枚組コンピ『Jaxx Classics Remixed (2016–2020) / Lost Tracks(1999–2009)』を日本独自企画盤としてリリースした

※2020年9月4日、製造上のミスにより商品の回収が発表されました。新発売日は2020年9月25日(金)。すでにご購入された方への交換のご案内など詳細については、日本盤レーベルBEATINKのこちらのページをご確認ください

ジャックスの約20年に及ぶヒストリーを支流の側面からおさめた、〈裏ベスト〉と言うべき本作を記念して、Mikikiはこの不世出な2人組をあらためてガイドしたい。そこで、彼らを愛聴してきた国内アーティストと音楽ライターに、お気に入りの1曲や好きなポイントを尋ねた。

答えてくれたのは8組。ダンス・ミュージック・カルチャーの生き証人にして、過去にジャックスのリミックスを手掛けたこともある大沢伸一(MONDO GROSSO/RHYME SO)。〈NEOかわいい〉を標榜し、ワールドワイドに評価されるロック・バンド、CHAI。エレクトロ~テクノ・シーンを牽引する80KIDZのJUN。片想いやザ・なつやすみバンドのメンバーであり、2014年の〈フジロック〉で彼らのライブを観たというmantaschool(a.k.a MC.sirafu)。そして、タワーレコード限定特典としてジャックスのオフィシャル・プロモ・ ミックスCDを作成した、東京拠点のハウス・ミュージック・コレクティヴ、CYKからDJ No Guarantee。さらに河村祐介、木津毅、Hiromi Matsubara(Romy Mats)というライターの3人だ。

なお、記事では選んでくれた楽曲ができるだけ時系列順となるように、参加者を配置。ベースメント・ジャックスがいかなる時代から生まれ、なぜ長きに渡ってダンス・ミュージックの第一線に立ってられるのか。その軌跡を概観できるものになっているので、ファンはもちろん今回のコンピをきっかけに彼らを知るリスナーにも楽しんでいただきたい。 *Mikiki編集部

BASEMENT JAXX 『Jaxx Classics Remixed(2016–2020)/ Lost Tracks(1999–2009)』 XL(2020)

 

河村祐介

81年生まれ。渋谷区幡ヶ谷出身。2004年~2009年「remix」編集部、LIQUIDROOM勤務やふらふらとフリーを経て、2013年より、OTOTOY編集部所属。その他、テクノ、ベース・ミュージック、その他ルーツからモダンまでダブをちょこちょことプラプラと書いたりしています。無戦略的積読家。
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ベースメント・ジャックスとの出会いと惹かれたポイント

90年代後半、この国の多くのテクノ・キッズがそうであったようにデリック・メイによる97年のミックスCD『Mix-Up Vol.5』収録曲で、という出会い。時を同じくして“Fly Life”(96年)のヒット、当時、ダフト・パンクやケミカル・ブラザーズなどなど、自らが好きな土壌(アンダーグラウンドのテクノ〜ハウスのカルチャー)から出てきた、ポップ・アーティストの誕生という部分にワクワクしたものでした。

 

特に好きな曲とその理由

“Eu Não”(96年のEP『Sleazycheeks EP』収録)

ということでやはり上記のミックスCDのクライマックスを飾る、この強烈なラテン・ハウスを。前後してリリースされた、彼らの出世作となる“Samba
Magic
”とともに、その後のラテン趣味を開花させた初期の楽曲でもあります。

 

今回のコンピ『Jaxx Classics Remixed(2016–2020)/ Lost Tracks(1999–2009)』を聴いてみての感想

90年代後半、シカゴ第2世代ディスコ・リコンストラクションが下地を作り、そしてダフト・パンクらフレンチ・ディスコが用意した〈ハウス〉〈ディスコ〉のポップな発展、かたや同じくUKにはビッグ・ビートとドラムンベースのブレイクビーツ・カルチャーとベースラインが交差してという状況で、それらを取り込むことで2000年代にフェス盛り上げ請負人として君臨した彼ら。

本アルバムを聴くと伝わるのは、DJカルチャーの雑食性と享楽性をさまざまなカルチャーをブリッジするためのエネルギーとした彼らの姿勢。同時代のアンダーグラウンド・カルチャーたるUKガラージ〜2ステップなどにも目配せしつつ、ドラッギーなサイケデリック性ではなく、ファンキーなハウスを下地にパーカッションとベースラインでパワフルに駆け抜けたわけだ。

 

木津毅

84年生まれライター。2011年にele-kingに寄稿を始め、以降、音楽、映画、ゲイ/クィア・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎の語り下ろし『ゲイ・カルチャーの未来へ』(Pヴァイン)。cakesにてエッセイ〈ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん〉連載中。
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ベースメント・ジャックスとの出会いと惹かれたポイント

高校生のときに出会った『Rooty』(2001年)がはじめてだったと思います。すでにダンス・ミュージックは好きだったものの、どちらかというとリスニング主体でテクノやIDMを聴いていたところ、ベースメント・ジャックスは「とにかくいますぐ踊って、腰を動かせ!」と誘っているように感じられました。まだクラブに行ったこともない自分にとって、ポップスとしてのキャッチーさとハウス・ミュージックのセクシーさが同時に詰まった彼らのトラックはとにかく刺激的で、家でひとりでヘッドフォンをして踊りまくっていたのを覚えています。ラテン・テイストもエロティックで最高でした。

いまから思えば、ダンス・ミュージックがフェスやビッグ・レイヴと合流し産業的に肥大化していくなかで、それらの巨大なオーディエンスの期待に応えつつ、アンダーグラウンドから生まれたハウス・ミュージックのルーツにも忠実であろうとしたのがその当時のベースメント・ジャックスだったと思うし、それは基本的に変わっていないように思います。

 

特に好きな曲とその理由

“Bingo Bango”(99年作『Remedy』収録)

ベースメント・ジャックスは歌ものシングルの〈歌謡性〉の高さも魅力だと思うのですが、いっぽうで、ひたすらわかりやすくダンスに振り切ったときの強度も抜群だと思います。このトラックは初期におけるそのサイドの代表で、とくにライブの終盤で披露されると否応なく盛り上がってしまいますね。中盤から入ってくるピアノの思わぬエレガントさに、彼らのセンスを感じます。

 

今回のコンピ『Jaxx Classics Remixed(2016–2020)/ Lost Tracks(1999–2009)』を聴いてみての感想

誰がどんな風にミックスしてようと、すぐに「あ、あの曲だな」とわかる。トラックごとのキャラクターの強さやクセがどんな形でも失われないのは、やはりベースメント・ジャックスのオリジナル曲の強さなのだと感じました。あと、10代のときの自分が感じたように、「とにかくいますぐ踊って、腰を動かせ!」という強い強いメッセージがあり、ひたすらクラブやレイヴが恋しくなるアルバムです。僕もパンデミック以降ずいぶん長くクラブに行けていないので、これを聴いてエナジーを溜めておこうと思います!