EVENT & LIVE REPORT

〈Jazz The New Chapter〉の柳樂光隆が読み解く、ホセ・ジェイムズ来日公演

エレクトロニックなサウンドを生演奏だけで作り上げた新作『While You Were Sleeping』の全貌が見えた夜―7月26日 BLUE NOTE TOKYOセカンド・セット

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  • 2014.08.08
Photo by Tsuneo Koga

 

ホセ・ジェイムズが新作『While You Were Sleeping』リリース後の初の来日ツアーを行った。ギタリストのブラッド・アレン・ウィリアムズが加入し、ホセの新作は〈ギター・ロック〉化のような文脈でも紹介されることもあったが、僕の見解はそれとは違う。

僕は前作『No Beginning No End』との比較は意味をなさないと断言したい。なぜなら、僕は新作を、セカンド『Blackmagic』の延長にあるエレクトロニック・アルバムだと見ているからだ。あのアルバムで、フライング・ロータスムーディーマンら、トラックメイカーが作り上げたエレクトロニックなサウンドを、ジャズ・ミュージシャンの生演奏だけで新たに作り上げることが新作の目的ではないかと僕は考えている。

Photo by Tsuneo Koga

 

たとえば、ギタリストの加入と、黒田卓也の脱退は、人間臭いノイズが乗ってしまう管楽器を廃したものと見ていい。ギターの加入は、ギターが欲しかったのではなく、今までのバンドになかったエレクトリックなテクスチャーの獲得が目的だろう。アルバムのオープニングの“Angel”でさえ、ブラッド・アレン・ウィリアムズのギターはひたすら同じリフやリズムを奏で続け、エフェクトが徐々に強くなっていき、最後はギターよりもエフェクトによる歪みの印象だけが残る。

そう思って見てみると、あの日のブルーノート公演はするっと納得できる。ジミヘンばりのギターなんて一切弾かないギタリストと、淡々と歌うホセ・ジェイムズはその象徴だ。

Photo by Tsuneo Koga

 

ホセの歌唱の変化は、同じ日に披露された過去の作品からの楽曲と比べて聴けば明白だろう。前作からの“Trouble”、そしてファーストからはフリースタイル・フェローシップカヴァー“Park Bench People”を披露していて、それらの曲では明らかに歌いあげていたのに対して、新作からの楽曲の多くは力を抜き声の質感をコントロールし、ウワモノ的に楽曲に〈乗せる〉ような歌唱だ。それは『Blackmagic』でホセが見せたあくまでウワモノとしてトラックの中で〈声〉を機能させていく歌唱と同じものだろう。ジャズやソウルを歌いあげ、その流れでスキャット的に歌をラップ化させる技術はホセの代名詞でもある。しかし、僕はエレクトロニックな楽曲に自身の声を同化させるその適応力を含めた幅の広さこそ、ホセの個性だと考える。

そして、ベッカ・スティーヴンスの代役としてステージにあがったタリア・ビッリグの歌もホセと同じように機能していた。このバンドは、その声も含めて、全員がライヴ・ミュージックでエレクトロニック・ミュージックを乗り越えようとしていたのだ。

Photo by Tsuneo Koga

 

ブラッド・アレン・ウィリアムズはギターを引き倒すことよりも、繊細に音を散りばめるように奏でていく場面が増えていく。クリス・バワーズはラインを弾くとか、コードを乗せるとは全く違う考え方で、平面に色を重ねていくようにロング・トーンを空間に滲ませていく。ソロモン・ドーシーがエレキ・ベースと、シンセ・ベースをほぼ半々で使い分けていたのも印象的だ。前作で見せたドラムとベースが絡み合うようなネオ・ソウル型のリズム・セクションとは全く別の、ドラムとベースがそれぞれの音のレイヤーを重ねたようなドライな質感からもバンドの意図が見えてくる。ただし、カットアップされたようにレイヤーの位置関係が時々ねじれたりする様が目の前で行われているのは、きわめてスリリングだった。白眉はリチャード・スペイヴンのビートが絶品の“U R The 1”だ。

Photo by Tsuneo Koga

 

個人的に最もおもしろかったのは、アルバム未収録のニルヴァーナのカヴァー“Something In The Way”。ディストーションのかかったギターと、ボーカル・エフェクトに、リチャードのミニマルなビート。その背後でクリスのエレピが淡々とうごめく。チェロとアコギだけでミニマルに同じフレーズを繰り返すニルヴァーナのアシッドな曲をエレクトリックに置き換えてみせる。それはまるでマッシヴ・アタックの“Teardrop”をミニマルなアコギの弾き語りに置き換えたホセ・ゴンザレスのサウンドを、もう一度、(トリップホップ的な)エレクトロニックに引き戻してみる実験のような演奏で、ホセのバンドが取り組んでいるサウンドの意味を明白に浮かび上がらせていたような気がした。そして、そのことは、同じく今年リリースされたクリス・バワーズ、リチャード・スペイヴンの作品を並べてみればより分かりやすくなることだろう。

Photo by Tsuneo Koga

 

今回の来日で、ホセ・ジェイムズの新作の意図や全貌がようやく見えた人も少なくないのではないだろうか。少なくとも僕にはそんな意味のある公演だった。出来ることなら、もう一度見て、細部を確認したい。そんな欲望さえも生まれる素晴らしい一夜だった。

【参考動画】ホセ・ジェイムズの7月22日 東京・COTTON CLUBでのライヴ映像

 

【参考音源】ホセ・ジェイムズの2014年作『While You Wer Sleeping』収録曲“U R The 1”

 

【参考音源】クリス・バワーズの2014年作『Heroes + Misfits』収録曲“#TheProtester”

 

【参考音源】リチャード・スペイヴンの2014年作『Whole Other*』収録曲“Whole Other* feat. The Hics”