天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。新年、あけましておめでとうございます! 今年も〈PSN〉をどうぞよろしくお願いします」

田中亮太「2021年最初の記事は、特別企画〈2021年期待の新人洋楽アーティスト20〉をお届けします。昨年の〈2020年期待の洋楽アーティスト50!〉と同様の趣旨ですね」

天野「ただ、今回は新人に絞っています。まだアルバムやEPをリリースしていない、あるいは発表したばかりのアーティストがほとんどで、日本では知られていないミュージシャンやバンドばかりだと思います」

田中「ジャンルはポップ、ロックに始まり、ヒップホップ/R&B、エレクトロニック、アフロビーツ、ダンスホール、レゲトンまで、世界のポップ・シーンを広く見渡しました。〈PSN〉が厳選した今年活躍することまちがいなしの20組、ぜひ楽しんでください!」

 

【POP / ROCK】
Rose Gray


田中「セカンド・サマー・オブ・ラヴのダンス・ポップやトリップ・ホップをほうふつとさせるサウンドが魅力のローズ・グレイからスタート! 彼女は英ロンドンを拠点に活動するシンガーです。グレイの楽曲はどれも、ゆったりとしたブレイクビーツとヒプノティックなウワモノにコケティッシュな歌声がハマっていますね。セイント・エティエンヌみたいだ……なんて思っていたら、実際に“Nothing Can Stop Us”をカヴァーしていました。しかも、コピーかと思うくらいオリジナルに忠実なアレンジ……。ちなみに、幼少期の彼女はピュアなポップが好きだったそうですが、継父はベス・ギボンズが大好きで、〈ローズよ、お前の進むべき道はこれだ〉と言い聞かされたのだとか。僕みたいな〈90年代おじさん〉は喜ばずにはいられないサウンドですが、若い人にも新鮮に響くのでは」

 

Holly Humberstone

田中「ホリー・ハンバーストーンはイングランド東部の街、グランサム出身のシンガー・ソングライターです。彼女はルイス・キャパルディと親しくて、彼のツアーに帯同したことで注目を集めました。2020年には、デビューEP『Falling Asleep At The Wheel』をリリース。厳かなバラードから浮遊感が仄かに漂うポップ・ナンバーまでが収録されていて、〈居眠り運転〉というタイトルがぴったりな、穏やかでありながらも少しばかり危うげな緊張感が漂っている作品でした。ジュリアン・ベイカーやフィービー・ブリジャーズが好きな人には特におすすめの新人です」

 

Drug Store Romeos


天野「ドラッグ・ストア・ロメオズは、現在のUKインディーでイチオシのバンドです! イングランド、ハンプシャーの郊外フリート出身で、チャーリー(Charlie)、ジョニー(Jonny)、サラ(Sarah)という10代の男女3人組。ヤング・マーブル・ジャイアンツに似たドリーミーでローファイでイノセントなサウンドが魅力ですが、現代のインディ-・ロックやベッドルーム・ポップの文脈にしっかりと接続していて、すごくいいんですよね。そして、フレッドペリーがいち早く取材しているのも納得のアイコン感。これからかなり注目を集めることでしょう」

 

Yard Act


田中「ソリッドなギター・サウンドと角ばったリズム・コンビネーションに痺れる! イングランドのポスト・パンク・バンド、ヤード・アクトも2021年に注目すべきバンドです。フロントマンのジェイムズ・スミス(James Smith)がシニシズムを漂わせながら歌うのは、資本主義に憑りつかれた富裕層への哀れみや、家庭内の不和がもたらす暴力の予感。なお、彼らはリーズを拠点に活動していますが、リーズ出身のポスト・パンク・バンドといえばギャング・オブ・フォーですよね。ヤード・アクトにも同地のレジェンドが持っていた凶暴性とインテリジェンスが受け継がれているのではないでしょうか」

 

Meet Me @ The Altar


田中「フォール・アウト・ボーイやパラモアを輩出してきたポップ・パンクの名門レーベル、フュエルド・バイ・ラーメンが送り出すニューカマー、ミート・ミー・アット・ジ・オルター! 甘酸っぱさの漂う痛快なパンク・サウンドが最高ですね。テクニカルなメタルの要素もありますし、これは思春期にポップ・パンクやニュー・メタルにハマっていた天野くんの大好きなラインでは(笑)。ピンクのドレッド・ヘアがキュートなフロントウーマン、エディス・ジョンソン(Edith Johnson)のヴィジュアルにまず目がいきますが、他のメンバーも黒人やアジア系で、編成からしてフレッシュ。今年の〈サマソニ〉で観たい!」

 

KALI


田中「カリ・フラナガン(Kali Flanagan)によるソロ・プロジェクトのカリは、2020年の11月にデビュー・シングル“Back To The Start”をリリースしたばかり。驚くことに、彼女はまだ16歳です。ドリーミーで優雅な“Back To The Start”はシンセ・ストリングスやダイナミックなギターを使ったアレンジが凝っていて、この曲を聴くだけでも彼女の類まれな才能が窺えます。ちなみに、彼女は幼い頃からビートルズをカヴァーしたり音楽のプライヴェート・レッスンを受けたりしていたそうです。また、インディー・ポップ・バンド、ビッグ・ウェンズデー(Big Wednesday)のメンバーでもあって、地元LAのティーンの間ではなかなか人気があるみたい。今年のベッドルーム・ポップ・シーンにおける最注目のニューカマーと断言します!」

 

glaive


田中「次はなんと15歳の少年、グレイヴです! 米ノースカロライナに暮らすアッシュ・グティエレス(Ash Gutierrez)は、COVID-19のパンデミックを受けて音楽制作を始めたそうです。外出ができないなか、何気なく見ていたインターネットで有名無名のプロデューサーたちを見つけ、自分でも音楽をやりたくなったんだとか。サウンドはエモ・ラップやグリッチ・ホップ、ハイパーポップの要素が強く、基本的に2分に満たない楽曲の短さもイマっぽい。リリックのテーマは、理由のない怒りや自殺念慮といった10代ならではの悩みや葛藤を映し出したもの。もしかしたら彼の曲は、今後〈世代の声〉になっていくのかもしれません。ちなみに楽曲を完成したら、まずお母さんに聴かせているそう。微笑ましいですね」

 

Skullcrusher


天野「スカルクラッシャーことヘレン・バレンティーニ(Helen Ballentine)は、僕が以前から注目していた才能です。NY生まれ、LA在住のSSWの彼女が初めて作曲したのは、2019年の“Places/Plans”。キャリアはまだ1、2年しかないのに、USインディーの名門シークレットリー・カナディアン(Secretly Canadian)と契約しています。天才なんでしょうか……。70年代のアシッド・フォークのような幽玄なサウンドと透き通った歌声、パーソナルな表現からは、アメリカの奥深い森を想起します。2021年、もっとも注目すべきインディー・フォークの新鋭でしょうね。初期のボン・イヴェールやスフィアン・スティーヴンス、ジェシカ・プラットなどを重ねてしまいますし、これからものすごいアーティストに成長していくのではないでしょうか」

 

Claire Rosinkranz


天野「昨年、TikTokに投稿した“Backyard Boy”が運命の一曲になったクレア・ローゼンクランツ。カリフォルニア生まれ、弱冠16歳のSSWです。なんの気なしにTikTokにポストしたという同曲は瞬く間にヴァイラル・ヒットし、彼女はなんとメジャーのリパブリックと契約を交わしました。まさにTikTok時代のシンデレラ・ストーリー! その曲を聴いてもらえればわかるとおり、ものすごくささやかで手作り感あふれるベッドルーム・ポップなんですよね。軽快でファニー、キュートで明るい“Backyard Boy”は、コロナ禍に見舞われた世界で清涼剤のように響きます。2020年のEP『BeVeRLy Hills BoYfRiEnD』に続くデビュー・アルバムが待ち遠しいです」

 

【HIP HOP / R&B】
YNW BSlime


天野「以前〈PSN〉で紹介したラッパーのYNW・ビースライムは、YNW・メリー(YNW Melly)の弟です。2007年生まれで、まだ13歳という若さ。日本では中学生ですね。新曲“Need You”のビデオで戯れている女性は、ビースライムのお姉さんにしか見えません(笑)。それはさておき、彼はイマドキのラップ/トラップらしいメロディアスに歌うフロウが特徴で、甘いハイトーン・ヴォイスが耳に残ります。低年齢化著しいアメリカのラップ・シーンの象徴のような彼は、これからどんなラッパーになっていくのでしょうか。メリーは殺人罪で起訴されていますし、あまりサグな道を歩まないでほしいな……」

 

Taphari


天野「NYブルックリン・ブラウンズヴィルのカリブ系アメリカ人アーティスト、タファーリ。彼のことは、マイク(MIKE)の『War In My Pen』(2018年)やアデ・ハキム(Adé Hakim)の『Happiest People In The World Wide Web』(2019年)に参加していて知りました。タファーリが作ったプレイリストにはマイクやキーヤー、ピンク・シーフの曲が入っているので、僕がいま注目しているアメリカのアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンに近い存在なんだと思います。マイク周辺のアーティストはローファイでアヴァンギャルドなビートが特徴ですが、彼の曲にはトラップを意識したテイストや未来的な電子音とエフェクトが入っていて、かなり独特。これからが楽しみな才能です」

 

Ivorian Doll


天野「いまロンドン・ドリル・シーンで注目を集めているアイヴォリアン・ドール。ドリルやギャングスタ・ラップは男性ばかりのシーンですから、女性MCだというのがまず珍しい。ドイツ生まれで東ロンドンに移り、YouTubeでのスキャンダラスな言動で話題になった……、というUK版カーディ・Bのような彼女。2020年4月に発表したシングル“Rumors”がヒット・ソングになり、ドリルMCの顔役であるヘッディ・ワン(Headie One)の傑作『Edna』への参加も印象的でした。ドスの効いた歌声と力強いフロウで男性中心主義的なシーンに殴り込んだ彼女は、痛快きわまりない存在感を発揮していますね」

 

Bree Runway


田中「ロンドンの中心部ハックニーから登場したブリー・ランウェイは、すでにネクスト・ブレイクまちがいなしと囁かれているシンガーです。最近ではリナ・サワヤマのヒット曲“XS”のリミックスにフィーチャーされていましたね。ランウェイは昨年の11月にデビュー・ミックステープ『2000AND4EVA』をリリースしていて、同作はミッシー・エリオットやヤング・ベイビー・テイトが参加したパワフルな作品でした。ティンバランドやネプチューンズによる2000年前後のサウンドに強く影響されているようで、フューチャリスティックなトラックがかっこいい。ラウドなギターを取り入れたロック色の強い楽曲も多く、それはリナ・サワヤマとハモるだろうな、という印象」

 

Jany Green


田中「ジャニー・グリーンはアラスカ出身で、現在はLAを拠点にしているSSW/プロデューサーです。彼の特徴はラップと歌のちょうど真ん中を行くかのようなメロディアスなヴォーカルと、陽性でキャッチーなサウンド。NMEのインタビューでは影響を受けた存在にアウトキャストとドミニク・ファイクの名前をあげていて、彼らの音楽と同様の不思議なミクスチャー感覚が魅力的。音楽的なルーツはラップのようですが、とにかくインディー・ポップが大好きみたいです。個人的には、サード・アイ・ブラインドやシュガー・レイといった90~2000年代のメインストリーム・ロック感があるのもツボですね」

 

【ELECTRONIC】
Logic1000


田中「豪シドニー出身、現在はベルリンを拠点にしているロジック1000は、サマンサ・ポールター(Samantha Poulter)のプロデューサー・ネームです。彼女は、2018年にリリースした“DJ Logic Please Forgive Me”がフォー・テットから絶賛されたことで有名になりました。以降オリジナル・トラックの精力的な発表に加えて、クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンズやカリブーなどのリミックスを手掛けています。音楽的にはメロディアスなヴォーカル・テクノを中心にしつつも、UKのベース・ミュージックやブレイクビーツ・ハウスまで、多彩なアプロ―チを聴かせています。1月22日(金)にはニューEP『You’ve Got The Whole Night To Go EP』のリリースを控えていて、彼女のバンガ―が今年のダンスフロアを彩るといいですね。ロジック1000の曲はクラブで聴きたいので、パーティーのある日常が戻ってくることを切に願っています」

 

For Those I Love


田中「フォー・ゾーズ・アイ・ラヴは、アイルランド・ダブリンを拠点にしているデイヴィッド・バルフェ(David Balfe)のソロ・ユニット。彼のことは、プロデューサー/SSWというよりも〈詩人〉と呼んだほうがいいかも。ピアノの演奏やサンプリングしたフレーズをコラージュ的に組み合わせたエレクトロニック・ビートに乗せて、人生における悲哀や憂鬱を、思索するかのように呟いていきます。彼の半生についてはGuardianに掲載されたインタビューに詳しいので、そちらをぜひ読んでください。なお、彼は2020年にBandcampで『Into A World That Doesn't Understand it, Unless You're From It』というフリー・ダウンロードのミックステープをリリースしています。1トラック47分にも及ぶ組曲的、DJミックス的な作品で、これがめちゃくちゃ素晴らしい。待望のアルバムは、2021年後半にリリースを予定しているそうです」

 

【AFROBEATS】
Rema


天野「ナイジェリア南部、ベニン・シティ出身の〈アフロポップ・プリンス〉ことレマ。2000年生まれでまだ20歳の彼は、バラク・オバマの〈Summer Playlist 2019〉に選ばれた“Iron Man”で知られるようになり、その後ドレイクやリアーナらがレマのシングル“Dumebi”(2019年)をInstagramなどにポスト。一躍セレブから愛されるアーティストに。サウンドはアフロビーツがベースなのですが、独特の呪術的なムードのフロウやナイジェリア風メロディーが個性的。アルーナ&ケイトラナダの“The Reicipe”(2020年)でフックアップされたことが示唆するとおり、これから米欧のシーンでどんどん活躍していくと思います」

 

【DANCEHALL / REGGAE】
Projexx

天野「プロジェックスは、ジャマイカ・キングストンのダンスホール・アーティスト。ヒップな感覚が魅力で、〈チャラい〉と言ってもいいかも(笑)。キング・ジャミーの孫で〈ジョン・ジョン〉ことロイド・ジェイムズ・ジュニアの息子、という彼は生粋のレゲエ一家に生まれています。メジャーのワーナーとサインして2020年11月にミックステープ『Fully Vol. 1』を発表、ダンスホールに留まらずトラップなどをどん欲に取り込んでいて、メインストリームに切り込む気概を感じる傑作です。昨年の話題作であるウィズキッド『Made In Lagos』に参加していますし、今後ポップカーンのようにダンスホールの枠組みを越えて、米英アフリカのシーンでも活躍していく才能になるんじゃないかと期待しています」

 

Jada Kingdom

天野「ジェイダ・キングダムはジャマイカのダンスホール・シーンにおけるライジング・スターで、シングル“Banana”(2018年)で注目を集めました。The FADERは彼女のことを〈痛みを表現するジャマイカのオルタナティヴな声〉と形容しています。最新シングルはトラップ調の“Green Dreams”。昨年はミックステープ『E-Syde Queen: The Twinkle Playlist』を発表していますが、今年はアルバムのリリースに期待したいところです。最近、いろいろな場所で彼女の名前を見かけますね。2020年のヒット作であるポップカーンの『FIXTAPE』にも参加していましたし、注目度の高さが窺えます」

 

【REGGAETON / LATIN TRAP】
Princesa Alba

天野「プリンセサ・アルバはチリのシンガーです。“Mi Only One”(2017年)のヒットで頭角を現した才能で、日本ではほとんど知らていないと思いますが、Instagramのフォロワーはなんと56万人(2021年1月現在)! チリ、ひいては南米やスペインなどではスターなんでしょうね。レゲトンやラテン・トラップから、まるでK-Popのようなダンス・ポップ“Ya No Quieres Quererme”(2020年)まで、さまざまなスタイルの楽曲を歌いこなす彼女。かすれた歌声がかなりセクシーですし、強烈なカリスマ性の持ち主でもあるので、これからアメリカでも注目されていくのではないでしょうか」