(左から)桃井裕範、Gotch
 

2008年頃から6年半にわたってNYのジャズ・シーンで活動してきたドラマー、桃井裕範。彼は2014年に帰国すると、自身がヴォーカル/ギターおよびソングライターを務めるインディー・ロック・バンド、Potomelliを結成。その一方で中森明菜や稲垣潤一、山中千尋のサポート・ドラマーを務めるなど、ジャンルレスな活動を続けてきた。

このたびリリースされた桃井のソロ・アルバム『Flora and Fauna』は、彼にとっては2013年の『Liquid Knots』以来、8年ぶりとなる自身名義作。ニア・フェルダーやギラッド・ヘクセルマン、アラン・クワンといったNY時代の盟友のみならず、Gotch、なみちえ、ミゾベリョウ(odol)、角田隆太(モノンクル)、MELRAWなど多種多様なゲストが参加しており、ジャズを軸にしながら多方面へ広がる桃井の世界を堪能することができる。

アルバムからのリード・ソングはMikikiの連載〈桃井裕範の『Flora and Fauna』図鑑〉で桃井自身によって解説されてきたが、今回は収録曲“Fog”にフィーチャーされたGotchこと後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)と桃井の対談を企画。桃井は今回、Gotchという歌い手のどんな面に惹かれてオファーしたのか。注目の異才、桃井裕範の謎に迫る対談をお届けしよう。

桃井裕範 『Flora and Fauna』 FABTONE/GOON TRAX(2021)

アジカン“未来の破片”と、日本語ロックの新たなフェイズを告げたPotomelliの衝撃

――桃井さんは高校生のころ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのデビュー曲“未来の破片”(2003年)に衝撃を受けたそうですね。

桃井裕範「そうですね。バンド練習が終わってコンビニに溜まっているときに、たまたま聴こえてきたんですよ。高校生のころは軽音でレッチリやオアシスをコピーしていて、アジカンみたいな日本のバンドを全然聴いていなかった。衝撃を受けました」

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの2003年作『君繋ファイブエム』収録曲“未来の破片”
 

――それまで聴いていた洋楽と同じ肌触りのものが日本から出てきたという感覚?

桃井「そういう感覚ともちょっと違うんですよ。Gotchさんたちも海外のバンドみたいになりたかったわけじゃなかっただろうし、単純に音が格好よかったということなんでしょうね。バンドの持ってるエネルギーが爆発している感じがして、かきたてられるものがあった。ご本人の前で熱く語るのは恥ずかしいんですけど(笑)」

Gotch「恐縮です(笑)。バンドとしては、どうやってロック史の一部に自分たちの作品を残すかを腐心していた時期で、ロックの歴史に繋がりつつ、 自分たちらしく突き抜けるにはどうしたらいいかを考えていたというか。海外への意識がなかったわけじゃないんですけど、ドメスティックなシーンのなかで勝ち抜かなきゃいけないという思いのほうが強かった。

いろんな思いがこじれて“未来の破片”みたいな曲が出来たんでしょうね。それが当時の桃井くんに伝わったのなら嬉しいし、そんな人とのちに一緒にスタジオに入ることになるわけだから、不思議な感じがしますよね」

――Gotchさんが音楽家としての桃井さんを認識したのはいつごろですか。

Gotch「バンド(Potomelli)の音源を最初に聴かせてもらったのが最初で、ジャズ評論家の柳樂光隆さんが教えてくれたんですよ。すごくいいバンドだなと思いました」

――2017年2月26日、Gotchさんはこうツイートしてますよね。〈アナログフィッシュにも通じる、ちょっと不思議なメロディが素敵。無理なく日本語、でもサウンドは日本のバンドじゃないみたい〉と。このツイートのなかでも〈無理なく日本語、でもサウンドは日本のバンドじゃないみたい〉という部分がポイントなんじゃないかと思っていて。

Gotch「そうですね。自分は無理しながら日本語でやってきた世代だと思うんですよ。でも、今のバンドはみんな無理がないし、海外のバンドに対してコンプレックスがない。俺たちの世代ってまだコンプレックスあるというか、何をどう歌うかと格闘してきたと思う。社会や政治のことを含めてね。桃井くんの音楽は、そういうストラグルは超えちゃってますよね。フェイズがずいぶん進んだんだなと思いました」

Potomelliの2017年作『Potomelli』収録曲“S.O.S”
 

――桃井さんは作詞をするうえで何を重視していますか。

桃井「作詞の仕方って人それぞれだと思うんですけど、僕の場合は響きを重視してますね。母音の場所だったり、作詞していく過程で一番しっくりくるところを探していって、そこにどこまで意味のある言葉をはめていけるか。あと、こちらがすごくメッセージ性の強い曲を書いたとしても、それが100%受け取られることはないと思うんですよ。ふわっとした歌詞のほうが聴いてくれる人が解釈する余地もあっていいのかなとは思っています」