RCAから離脱し、自身の新レーベルを興して放った5年半ぶりの新作。昨年のBLM運動再燃の前から〈Black Is Beautiful〉的なテーマで作りはじめたというアルバムで、掠れた燻し銀の歌声に変わりはないが、ドクター・ドレーを意識したという音像はいつにも増して重厚だ。マニュエル・シールと組むジャーメイン・デュプリとの再会も謳い、彼らがソウル名曲を引用するなどして手掛けたバラードにはディープなサザン・フィーリングが充満。一方、リック・ロス客演で9thワンダーが制作したブーンバップ系、ビンクの制作でリル・ジョンが無遠慮に声を挿むトラップ調ではアンソニーが歩んできた時代の音を辿るかのよう。ルーサー・ヴァンドロス版に倣ったジェニファー・ハドソンとの“Superstar”にも聴き入る滋味深い一枚だ。