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熊谷 祥(新宿店)
Kolektif Istanbul “Pirinsko Köçek”

ここ数年は雑誌やネット情報よりレコードショップやDiscogsで気になったアーティストの音源からお気に入りを見つけることが多くなっているのだがこのコレクティフ・イスタンブールも何の予備知識もなくお店でかかっているのを気に入って購入。グループ名から分かるようにトルコを含んだバルカン半島島南部の音楽家集団によるアルバム。アルバム全編良いのだが特に9曲目“Pirinsko Köçek”はPFMのマウロ・パガーニのソロ『地中海の伝説』やアレアのファースト辺りが好きな私にドンピシャ過ぎるキラー曲。ロック的なキーボードの前奏から管楽器によるオリエンタルなユニゾン決めフレーズをビシバシ繰り出してくる流れにアドレナリンが止まらなくなります。その他ボーカル曲とインスト曲のバランスも良く今年一番の掘り出し物。裏ジャケに書いてある〈プログレッシブ・ウェディング・ミュージック〉だけ未だに意味不明です。

 

望月 貴(情報システム1部)
Rage “Memento Vitae (Overture) ~ Resurrection Day”

2021年は(なぜか)個人的なレイジ・リバイバルブームだったところに登場した新作です。3人編成に思い入れがあったので4人編成でどうなる事かとドキドキしながら聴いたら、無駄に荘厳なオープニングから流れ込む1曲目でテンションが爆上がり。前作がメロディー的にインパクトに欠ける印象だったのですが、今作は〈らしい〉リフ回しやサビのメロディーが戻ってきた印象。キレッキレの鋭角ギターと男臭いボーカルはやっぱ止められない! 捨て曲が無いと思うのですが、やはり1曲目のタイトルトラックを激押し。

 

鈴木英之介(Mikiki編集部/bounce編集部)
파란노을 (Parannoul) “아름다운 세상 (Beautiful World)”

轟音ギター越しに、仄暗くも甘いピアノのフレーズがループする。そのサウンドの残酷なまでの甘美さは、もう戻れない青春のそれとどこか似ている。この曲が収録されたアルバム『To See The Next Part Of The Dream』について、パラノウル自身が載せているBandcampの紹介文を読むと、彼もまた〈過ぎ去った青春〉というものを痛切に意識していたことがわかる。彼の気だるい歌唱からは現在を生きるしかないことへの諦念が感じ取れるが、一方で青春への狂おしいほどの未練や郷愁もまた映画「リリィ・シュシュのすべて」からの引用箇所など随所に滲んでいる。こうしたアンビバレントで切実な表現は、受け手の感情を激しく揺さぶるものだ。私もまたこの曲を聴く度に、古傷が強く疼きだすような感覚を抱かずにはいられない。

 

田中亮太(Mikiki編集部)
Facta “Verge”

ダンス/エレクトロニックミュージックを中心に聴いた一年でしたが、そのなかでアルバムとして一枚挙げるならファクタの『Blush』。この“Verge”を筆頭に、アンビエントなシンセやアコースティック楽器の音色と、ユニークなビート構築で組み上げた、端正ながらもチャーミングなビートミュージック作品でした。レフトフィールドなのにバレアリック、という塩梅が絶妙。『LOVEBEAT』、『Point』、『red curb』の20周年にあたる2021年に聴きたい電子音楽という視点からもハマるのでは。

 

天野龍太郎(Mikiki編集部)
Aeon Station “Queens”

毎年、いわゆる年間ベストについて考える時期になると、〈今年も音楽を聴くのは楽しかったな〉〈新しい音楽を聴くのが楽しくないことなんて一瞬たりともないな〉としみじみ感じ入ります。とはいえ、この連載や他の媒体でも一年を総括する原稿をやまほど書いたし、だからこそ、個人的なフェイバリットの一曲を選ぶのってめちゃくちゃ難しい。でも、レンズのケヴィン・ウィーランが新しく始めたイーオン・ステイションの“Queens”には、ハートをがんがんに撃ち抜かれました。こんなに胸を強く、深く打つロックンロールはひさしぶりに聴いたな。2021年はヤング・ドルフやドレイコ・ザ・ルーラーが命を奪われて、悲しいことやつらいことがたくさんあった年でしたが、ロック、特にインディーロックにまたときめくことができた年でもありました。2021年にMikikiを読んでくださって、ありがとうございました。2022年もMikikiをどうぞよろしくお願いいたします!