バンドネオンを乗せて、1985年製の愛車SR500と共に日本全国の旅へ
この数十年で我が国のバンドネオン奏者は結構な数に増えた。〈タンゴ〉という音楽が復権したわけでもないのに奏者が増えるのは不思議だが、楽団のパーツとしてのプレイヤーではなく、それぞれ独自の世界を構築しようとするアーティストが増えてきている気がする。
そんな奏者の一人、早川純が新作をリリースした。それも全編バンドネオン・ソロのアルバムだ。実はバンドネオンのソロ・アルバムはアルゼンチンの奏者を含めても余り出されていないのだが、早川はなんと2作目のソロ・アルバムになる。ライブ感を重視した前作に比べて緻密なアレンジを施したという15曲を収録した本作では、右手と左手が奏でるアンサンブルが迫力のサウンドを生み出し、たった1台の楽器が鳴っているだけとは思えない世界を聴かせてくれる。
収録されたレパートリーも興味深い。「となりのトトロ」から“風の通り道”、『思い出の夏』から“The Summer Knows”、「イージー・ライダー」から“Born to Be Wild”などのスクリーンテーマから、A.C.ジョビンの美しいテーマをモチーフにドンドンと展開する“Insensatez”。そして早川とトリオを組むL.テルージによる“De Otro Bando”のような現代音楽のような作品。“四季の歌（メドレー）”や“荒城の月”といった日本のメロディ。そして早川自身の手によるオリジナル曲が並んでいる。さてタンゴは?となると4曲だけ。全体の1／3にも満たないが、バラエティに溢れる曲を耳にした後にこの4曲のいずれかを聴くと、なぜか故郷に戻ってきたかのような感情が湧き上がってくるから不思議だ。
デジタルでの音楽配信が全盛の時代に、アートワークや曲順なども含めて作り込んだCDというフォーマットに拘る早川は、最近は二輪車にも興味が向き、愛車であるSR500のリアキャリアにバンドネオンを積み込み、国内ツアーを駆け抜ける。ある意味でアナログ的な彼の活動は世紀を超えるバンドネオンという楽器に、新たな可能性をもたらすことにもつながるだろう。そして本作はその過程の重要な記録だといえるはずだ。
LIVE INFORMATION
2nd Solo Album「Bandoneón errante ～さすらいのバンドネオン」Release記念ツアー
2022年4月20日（水）香川・丸亀 珈琲倶楽部
開演：19:00
2022年4月21日（木）香川・高松 珈笛画廊 ほのほ
開演：19:00
2022年4月22日（金）滋賀・近江八幡 願故寺
開演：18:00
2022年4月23日（土）神奈川・大船 ポルトガル料理 メルカド
開演：19:00
2022年4月27日（水）東京・四谷 小さな喫茶店homeri
開演：19:30
2022年4月29日（金）埼玉・加須 古民家ギャラリー花おん
開演 ：15:00
