Photo by Dante Ascaino

現代の〈ネオ・フォルクローレ〉の流れを汲む、アルゼンチンの室内楽的プロジェクト

 チェロ・トリオと、ヴォーカリスト&ギタリストが合体したプロジェクト。楽器編成の面では、クラシックの室内楽的プロジェクト、と呼ぶこともできるかもしれない。が、主に3挺のチェロと一本のナイロン弦ギターによる演奏に乗せて、女性ヴォーカリストが新旧のアルゼンチンの曲を中心に歌っている――同国のロック・ヒーローの一人であるフィト・パエス、パット・メセニー・グループのメンバーだったこともあるペドロ・アスナール、ネオ・フォルクローレ系グループのデュラティエラなどの曲を――だから適当な比較対象が思い浮かばない。

 フロール・スール・チェロ・トリオは、2015年にアルゼンチンの第2の都市、コルドバで結成された3人の女性チェロ奏者によるグループ(現在は女性2人+男性一人)。一方、アイレナ・オルトゥーベ(ヴォーカル)とフリアン・ボウリュー(ギター)は、公私にわたるパートナーでもあるデュオだ。こんなアルゼンチンの2組の初めてのコラボレーション作品が、『ウン・ソロ・ハスミン』。フィジカル(CD)としては、日本独自のリリースとなる。

FLOR SUR CELLO TRÍO, AIRENA ORTUBE, JULIÁN BEAULIEU 『Un Solo Jazmín』 Shagrada Medra/大洋レコード(2022)

 フロール・スール・チェロ・トリオのセカンド・アルバム『Andorinha』(2020)は、カルロス・アギーレが主宰しているレーベル、シャグラダ・メドラからデジタル配信された。また、『ウン・ソロ・ハスミン』には、同じくシャグラダ・メドラからアルバムがデジタル配信されているシンガー・ソングライター、マルティン・ネリの曲も取り上げられている。これらのことからも、『ウン・ソロ・ハスミン』が、現代の〈ネオ・フォルクローレ〉の流れを汲んでいることが想像できるだろう。

 フロール・スール・チェロ・トリオとアイレナ&フリアンによる歌と演奏は、たおやかな清流のようで、しかも軟水のように優しい。もちろん、雑味などはなく、その代わりに旨味が感じられる。ボサノヴァの名曲のタイトルを借りるなら、この音楽は、まさに“おいしい水”だ。