Photo by Reuben Bastienne-Lewis

この伝説は時代を超越する——英国ポップシーンが誇る不動の4人が8年ぶりのニュー・アルバムで帰還! いまなお変化するバンドの刺激的な現在地とは?

悲願のウェンブリー

 去る7月8日と9日の二日間にわたり、ブラーは彼らのバンドの歴史において初めてウェンブリー・スタジアムでのライヴを実現させた。チケットはソールドアウト。ブラー結成からちょうど35年目の出来事となる。当日のファンのSNSではメンバーが楽しげにプレイする様子が刻一刻と届き、デーモンがステージ上で感極まって涙する様子も。そして、ほぼ時を同じくして届いたニュー・アルバム『The Ballad Of Darren』を聴いていても、恩讐を越えてこのメンバーだけでの演奏をそれぞれが心から楽しむ様子が音から伝わり、胸がいっぱいになる。プロデューサーのジェイムズ・フォードがキーボードを弾く曲があるのと、ストリングス奏者たちを除けば、参加ゲストはゼロ。最後にメンバーだけで作り上げたアルバムはどれだったかと調べてみたら、なんと93年の『Modern Life Is Rubbish』。つまり30年ぶりだ。

BLUR 『The Ballad Of Darren』 Parlophone/ワーナー(2023)

 ちなみに当時ブラーと同じようにチャートを席巻し、一世を風靡していたオアシスが、96年のネブワース公演をはじめとするスタジアムや野外での大規模ライヴを次々と実現させていたのは、ご存知の通り。翻って、〈ブリット・ポップ〉の旗手として当時のロンドンらしさを体現し、あの街に愛されたブラーが、ウェンブリー・スタジアムでライヴをしたことがなかったという事実に同時代を生きた筆者も驚いた。とはいえ、そもそも90年代半ばには、インディー・ギター・ロックの音を持つバンドが大スタジアムでやる機会自体がなかった(オアシス、そしてミューズが時代を開拓していったわけだ)。

 ちょうど昨年の今頃、ブラーのメンバーたちがウェンブリー・スタジアムでライヴをできるかもしれないという話を聞いた頃には、この9枚目のスタジオ・アルバム『The Ballad Of Darren』は影も形も、そもそもアイデアすらなかったという。ブラーは8年前のアルバムを最後に、基本的に活動休止状態だった。しかしブラーにとってウェンブリー・スタジアムでやるということは、ふたたびこの4人を集まらせるほどの悲願に他ならなかった。何しろ飛ぶ鳥を落としまくっていた90年代の彼らの最盛期でさえ、ウェンブリーでやれなかった。今回のこの機会を逃せば次はいつか、誰にもわからない。