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 シージ、メルヴィンズ、マイク・パットン(フェイス・ノー・モア、ミスター・バングル、ファントマス、トマホーク、デッド・クロスなど)、スレイヤー――このへんのアーティストにピンとくる方ならば必聴だろう。ビフィ・クライロのサイモン・ニールと元オーシャンサイズのマイク・ヴェナートによるエクストリーム・メタル・バンド、エンパイア・ステイト・バスタードがファースト・アルバム『Rivers Of Hersey』にてデビューを飾った。不穏すぎるジャケのアートワークからもわかる通り、ダークかつヘヴィーな音楽性で真っ向勝負している。冒頭で列挙したアーティスト名はサイモンとマイクが影響を受けた人たち。興味深いのは、80年代のボストン・ハードコア・シーンで活躍したシージの名があること。彼らはグラインドコアの始祖と言えるナパーム・デスを筆頭に、ファストコアやパワーヴァイオレンスといったサブジャンルの確立にも影響を与えた。話は横道に逸れるが、再結成で人気再燃中のパンテラのフィル・アンセルモがブラスト・ビート連発のドロップデッドのTシャツをよく着ているが、そのバンド名もシージの曲名から借用されている。

 そうしたアンダーグラウンドなハードコアから、オルタナ・ロックの王者であるメルヴィンズや鬼才マイク・パットン、そしてスレイヤー関連で言うと、『Rivers Of Hersey』のドラマーはなんとデイヴ・ロンバードが務めているのだ。そう、彼はスレイヤーの初代ドラマーであり、近年ではマイク・パットンと共にデッド・クロスを立ち上げ、クセの強いハードコア・サウンドを鳴らしている。その意味でエンパイア・ステイト・バスタードの音楽にはデッド・クロスに近似した雰囲気を感じられなくもないが、それだけでは語り切れない魅力も秘められている。

 そもそもエンパイア・ステイト・バスタードの成り立ちは、サイモンとマイクが2002年に出会ったことに端を発する。その後、5作目『Only Revolutions』(2009年)を発表してバンド人気が上昇していたビフィ・クライロにツアー・ギタリストとしてマイクが参加。そのツアー中にサイモンとマイクは〈最高にヘヴィーでアヴァンギャルド〉、あるいは〈最高に病的で不快な音楽〉をお互いに聴かせ合っていたという。その頃からサイモンの頭には〈エンパイア・ステイト・バスタード〉というバンド名があったらしく、長い歳月を経て、ようやくこのファースト・アルバム『Rivers Of Hersey』が完成したというわけだ。口当たりのいい音楽を拒否して破壊衝動を貫いた本作では、緩急のある激重グルーヴや奇抜なアレンジも大きな聴きどころになっている。

EMPIRE STATE BASTARD 『Rivers Of Heresy』 Roadrunner/ワーナー(2023)

 オープナーの“Harvest”からサイモンは金切り声のシャウトをかまし、さながらコンヴァージのジェイコブ・バノンを彷彿とさせる野獣ぶりを発揮。けれど、そこにメロディアスな歌声を挟んで豊かな表現力もアピール。続く“Bluser”においても怒号シャウトを突きつけ、ヘヴィーなリフで押しまくる演奏にも興奮せずにはいられない。そんな阿鼻叫喚ソングが連発された後、次の“Moi?”でガラッとムードはチェンジ。一気にテンポを落とし、動静の起伏に富むストーリー性とシンガロング・パートで盛り上げていく。かと思えば、“Tied, Aye?”はサイモンの絶叫とデイヴの極太ビートで構成されたシンプルなアプローチで度肝を抜かれる。作品後半に入るとスラッジ/ストーナー・ロック風味の地を這うヘヴィネスが振り撒かれ、多彩な切り口を見せながらもアルバム・トータルでは不穏なヤバさが充満している。

 マイクは「自分にできる最高に毒気のある下劣なレコードを作ろうとした」と本作の目論見を語っているが、〈まさに!〉と膝を打ちたくなる仕上がりだ。サイモンとマイクの〈ヘヴィー・ミュージック愛〉が結実した本気の一枚をぜひ食らってほしい。

 


エンパイア・ステイト・バスタード
サイモン・ニール(ヴォーカル/ギター)、マイク・ヴェナート(ギター)によるエクストリーム・メタル・デュオ。ビフィ・クライロのニールと、同バンドのツアー・メンバーを務めるヴェナート(ブリティッシュ・シアター/元オーシャンサイズ)によって2023年に結成。ドラムスにデイヴ・ロンバード(スレイヤー)、ベースにナオミ・マクラウド(ビッチ・ファルコン)を迎えてレコーディングを進め、このたびファースト・アルバム『Rivers Of Heresy』(Roadrunner/ワーナー)をリリースしたばかり。