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ロックンロールへの情熱が止まらない78歳のソウル・ボーイ

 若者がダンスに興じる鉛筆画によるジャケットのイラストのムードは、一見すると映画「アメリカン・グラフィティ」さながら。リトル・リチャード、チャック・ベリー、ジェリー・リー・ルイス、ビル・ヘイリーらのご機嫌なナンバーが聴こえてきそうだ。しかも、中心で踊っている男女がどちらも黒人で、周囲には白人も黒人もいる、というところが、「アメリカン・グラフィティ」とは異なる点で個人的にはグッとくる。

 1945年8月、アイルランドはベルファスト生まれのヴァン・モリソンは現在78歳。スウィンギング・ロンドン時代に活動していたゼムのヴォーカルを経てソロへ。68年の『Astral Weeks』、70年の『Moondance』といった初期ソロ作のいくつかはシンガー・ソングライターの時代と呼応した名盤と評されることが多く、同じ頃にはザ・バンドと合流しロビー・ロバートソンと“4% Pantomime”(71年)も共作している。71年のアルバム『Tupelo Honey』はドゥービー・ブラザーズらが登場していた頃のアメリカ西海岸録音。ベルファストへ戻った後はアイルランドのチーフタンズと組んでケルト音楽への愛着を見せるなど、近年に至るまで、ルーツを掘り下げるような活動を展開している。だが、どの作品でも姿勢は変わらない。それはロックンロールへの思慕だ。彼は徹底して、リズム&ブルーズやソウルはもちろん、カントリーやアイリッシュ・トラッドにも向き合い、それらが混在するハイブリッドな音楽こそがロックンロールという視座を持ち続けてきた。

VAN MORRISON 『Accentuate The Positive』 Virgin/ユニバーサル(2023)

 そんなヴァン・モリソンの最新作が『Accentuate The Positive』だ。通算45作目にして、スキッフルに挑んだ『Moving On Skiffle』に続く、今年2枚目のアルバム。2010年代以降もヴェテランとは思えないほど精力的に作品を発表していて、その多くがカヴァーをメインとする内容だったりするが、今作も彼の原点である〈ロックンロール〉のカヴァー集になっている。と言ってもそこはヴァン・モリソン流、共通しているのはイカしたグルーヴィー・ナンバーばかりということ。レイ・チャールズ版が有名な“You Are My Sunshine”に始まり、エヴァリー・ブラザーズ“When Will I Be Loved?”、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツ“Two Hound Dogs”……と有名曲が続くが、いずれも太い歌声で惜しみなくダイナミックに聴かせる。他にも、ジョニー・キッド&ザ・パイレーツの“Shakin’ All Over”、ジョニー・マーサーとハロルド・アーレンのペンによる曲でビング・クロスビーの歌唱で知られるアルバム・タイトル曲、そしてお馴染みチャック・ベリーの“Bye Bye Johnny”など原曲と聴き比べるのも楽しい選曲。リトル・リチャード“Lucille”、ビル・ヘイリー&ヒズ・コメッツ“Shake, Rattle And Roll”にタジ・マハールが参加しているのも嬉しい。

 なかでも感動的なのは今年1月に亡くなったジェフ・ベックと、ヴァン・モリソンと同じく60年代から活動するシンガーのクリス・ファーロウが参加した“Lonesome Train”だ(オリジナルはロカビリー・バンドのジョニー・バーネット・トリオ)。共に60年代からブラック・ミュージックへのリスペクトを持って活動してきた者たちの共演は実にエネルギッシュ。ギター・ヒーローの印象が強いジェフ・ベックはもともとヤードバーズのメンバーだったし、クリス・ファーロウはローリング・ストーンズの“Out Of Time”“Ride On Baby”などをソウルフルな歌声で聴かせていた。ブラック・ミュージックへ想いを馳せて切磋琢磨してきた彼らの心意気がここに集結しているかのようだ。

 ロックンロールにかける情熱はコロナ禍でさえも止まることはなく、アンチ・ロックダウンを主張するチャリティー曲を公開するほどだったが、本作を聴くと、その情熱に邪気がまったくないことがわかる。ブレないヤツ、それがヴァン・モリソンだ。

ヴァン・モリソンの近作を一部紹介。
左から、2022年作『What’s It Gonna Take?』、2023年作『Moving On Skiffle』(共にVirgin)