ファビオ・ビオンディ
2022年、神奈川県立音楽堂にて ©Tomoko Hidaki

ストイックなバッハ“無伴奏”に〈ビオンディ・マジック〉を!

 バッハが“無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ”を書いたドイツのケーテンは、寂しい街である。

 初めてケーテンを訪れた時、その静けさに驚いた。到着は夜だったのだが、ケーテンの街は、煌々と月の光が降り注ぐ野のなかにぽっつりと横たわっていた。こんな街だから、バッハがとことん音楽に向き合った“無伴奏”のような作品が生まれたのかもしれない、と思ったのである。おびただしいバッハの作品の中でも、“無伴奏”はストイックさにおいて極北の一つなのではないだろうか。多くのヴァイオリニストが、ことあるごとに無伴奏に〈向き合う〉のも理解できる。

 イタリアの古楽系ヴァイオリニスト、ファビオ・ビオンディも“無伴奏”に向き合った。コロナ禍で時間ができた時に、それまで演奏はしてきたが録音はしなかった“無伴奏”全曲を録音したのである。

 ビオンディとバッハ“無伴奏”。ビオンディの演奏を知っている方なら、ちょっと想像を絶する?かもしれない組み合わせである。ヴィヴァルディの“四季”で旋風を巻き起こして以来、眩いばかりの即興や装飾、大胆なアーティキュレーションや変幻自在のフレージング、イタリア人ならではの艶やかな美音がビオンディの個性だったのだから。緻密でストイックなバッハとは、あえて言えば正反対だ。

 だが化学反応は起きた。ビオンディの“無伴奏”のCD(2021、naïve)は新鮮な驚きに満ちている。何より驚かされるのは、緻密で隙のないバッハのスコアに、大胆な即興や多彩な装飾を滑り込ませていることだ。奏者が技量を発揮できるようにスコアに余裕を持たせているテレマンやヴィヴァルディと違い、バッハの音楽は初めから完璧で、奏者の自由をほとんど許してくれないが、ビオンディの演奏を聴くと、バッハの音楽でこんなことができるのか!と賛嘆させられる。スケールにまとわりつくカデンツァ、音と音の間にさりげなく挟まる前打音やトリル、フレーズのたびに変わるアーティキュレーション、変幻自在なフレージング。ビオンディならではの軽々とした超絶技巧や、艶やかで丸みのある美音も健在だ。それでいて、バッハへの敬意は痛いほど伝わってくる。

 来年2月、ビオンディの“無伴奏”全曲がいよいよ日本に上陸する。会場が、これまで彼がいくつものバロック・オペラで名演を披露し、「バロック作品の演奏に向いている」と気に入っている神奈川県立音楽堂なのも嬉しい限り。演奏のたびに違うのがバロック音楽の大きな魅力だが、ビオンディはバッハもまた例外ではないと示してくれるに違いない。

 


LIVE INFORMATION
ファビオ・ビオンディ
J.S.バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ 全曲

2024年2月17日(土)神奈川県立音楽堂
第1部
開場/開演:13:15/14:00

第2部
開場/開演:17:15/18:00

■プログラム
第1部    
ソナタ 第1番/パルティータ 第1番ロ短調/ソナタ 第2番イ短調

第2部    
パルティータ 第2番ニ短調、ソナタ 第3番ハ長調、パルティータ 第3番ホ長調

■チケット
全曲券(第1部+第2部): 一般 10,000円
単独券 : 第1部 一般 5,500円/第2部 一般 5,500円/シルバー5,000円(65歳以上)/車椅子席5,500円(付添席1名無料)/U24 2,750円(24歳以下)/高校生以下0円(小学生から高校生)
音楽堂ヘリテージ・コンサートリサイタルセット券16,000円(1月19日一般と2月17日(第1部/第2部)一般の3公演同時購入)
チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)
https://www.kanagawa-ongakudo.com/
※チケットぴあ、イープラス、ローソンチケット、神奈川芸術協会でも取扱あり
※セット券、U24、高校生以下、車椅子(付添)はチケットかながわのみで取り扱いシルバーはチケットかながわのほか、神奈川芸術協会でも取り扱いあり。いずれも枚数限定、要事前予約
※未就学児の入場はご遠慮ください(有料託児サービスあり。詳細はホームページを参照ください)

主催:神奈川県立音楽堂
音楽堂ヘリテージ・コンサート特設サイト:https://ongakudo-classic.com/