YMOのスピリットを受け継ぐ精鋭バンド〈QUBIT〉がポップスの新時代を切り拓く
Daoko & 永井聖一 インタヴュー

 Daoko(ヴォーカル)、永井聖一(ギター)、鈴木正人(ベース)、網守将平(キーボード)、大井一彌(ドラムス)ら世代も音楽的バックグラウンドも異なる5人の敏腕ミュージシャンによって2023年4月に結成されたバンド〈QUBIT(キュービット)〉が、初アルバム『9BIT』を完成させた。

QUBIT 『9BIT』 コロムビア(2023)

 バンド結成の出発点となったのは2019年。YMO結成40周年記念のトリビュート・コンサート〈Yellow Magic Children(YMC)〉で初めて本格的なバンド演奏をバックに歌う機会を得たDaokoは「グルーヴ感を初めてステージ上で体感した。生音で歌うのはこんなに楽しいんだ」と感動し、当初はライヴのサポート・メンバーとして上記5人が集まった。だが次第に演奏にまとまりが生まれていき、2022年のDaoko 10周年記念ライヴ・ツアーの際に永井が「このままではもったいない」と切り出したことでバンド結成に至ったという。

 QUBITの音楽的支柱となっているのは網守将平だ。藝大作曲科出身のアカデミックな素養を持ちつつ、ポップスやテレビ番組の音楽からサウンド・アート/実験音楽まで縦横無尽に活動する鬼才。先に触れた〈YMC〉で網守と出会ったDaokoは、彼について「網守さんにしか作れない音楽が確実にある。エレクトロニック・ミュージックの音の気持ちよさもあるし、クラシックに精通した説得力もある。聴くたびに発見がある、凄みのある音楽だなって思います」と話す。バンドでの音楽の作り方について永井は「土台は我々全員で作るんですけど、網守くんをソングライターのメインに据えてアレンジの協力をしてもらい、最終作業を任せることによって、エレクトロニックかつポップな独自のバンド・カラーが出るんじゃないか」と語る。QUBITでは「編曲も作曲とほとんど等しい行為」(永井)という考えのもと、アレンジャーもコンポーザーとしてクレジットされているそうだ。

 もちろん、ベーシストの鈴木正人とドラマーの大井一彌も凄腕である。30年以上のキャリアを持ちジャズ・シーンでも活躍する鈴木は「テクニシャン。冷静に眺めてバンド全体のバランスを調整してくれる存在」(永井)。一方、メンバーのうち2番目に若い大井はyahyelをはじめ様々なグループ/プロジェクトで活動しているが、Daokoは「大井さんの持つダークさ、影みたいなものが、QUBITに深みをもたらしている」と話す。鈴木は網守とともに大貫妙子のステージで共演しており、大井は永井とともに高橋幸宏50周年記念ライヴに出演。メンバー全員がYMO周辺と関わりを持っているのも興味を唆る。「YMOがいなかったらQUBITは結成に至らなかったと思います。私の人生に大きなきっかけを与えてくれた存在です」とDaokoは語る。バンド・メンバーが楽器だけでなくプログラミングも手がけるところもYMOのスピリットを継承しているように思える。

 Daokoが2020年にリリースした4枚目のアルバム『anima』では、すでにQUBITのメンバーがレコーディングに参加していた。とりわけ網守が作曲/編曲を担った表題曲“anima”はQUBITを意識して制作されたようで、このたび完成した『9BIT』も「“anima”の延長上の作品」(永井)だという。バラエティ豊かなポップ・チューンが並ぶが、全体を貫くのはやはりDaokoの唯一無二の声だろう。「Daokoは表現の幅が広い。演じるように曲の世界に入り込む、とても完成度の高い表現力と技術を持っている」と評す永井は、本作については「バンドのフロントマンとしてブレていない。色々なキャラクターを演じるのではなく、いい意味で等身大のDaokoになっている」とも続ける。Daoko本人も新しい歌い方に挑戦したようで、「今回は自分の中のキャラクターを〈機械と人間の狭間〉に設定していました。歌い癖を意図的に排除して、〈人力ボカロ〉的な感覚でリズムに合わせたり強弱をつけたり」(Daoko)と明かす。

ポップスの新たな時代を切り拓くQUBIT。Daokoが「網守さんの作る音楽を形にしようとすると、私が人間の限界を超えていかないといけない」と意気込むと、永井は「それは楽器隊も同じ」と応じていた。精鋭バンドは今後さらなる進化を遂げるに違いない。

 


キュービット(QUBIT)
Daoko(ヴォーカル)、永井聖一(ギター)、鈴木正人(ベース)、網守将平(キーボード)、大井一彌(ドラムス)からなる5人組バンド。バンド・ネームは量子力学における最小単位が由来。Daokoが新たな活動形態を模索していた時期に〈Yellow Magic Children〉で網守と遭遇、ギタリストとしてTHE BEATNIKSに参加した永井が加わり、大井と永井は2022年9月に開催された高橋幸宏50周年記念ライヴに参加、鈴木と網守は大貫妙子のステージでも共演とするなどYMO周辺に縁があるメンバーが集まり、2019 年からDaokoのワンマン・ライヴのサポート・メンバーとして活動。2022年、Daoko音楽活動10周年記念ライヴ〈Daoko 10th Anniversary Live Tour 2022〉の初日に、永井の提案により正式に〈QUIBIT〉としてバンドを結成。2023年4月24日より活動を開始した。