ありのままの自分をさらけ出すことで、光を見い出したマイク・ハドレアス。大胆なエレクトロニック・サウンドは、生まれ変わった天才の決意表明だ。
まずは、シン・ホワイト・デューク時代のデヴィッド・ボウイをアップデートしたかのようなジャケットを、過去2作のお手製コラージュによるアートワークと比較すれば、楽曲を聴くまでもなく胸騒ぎを感じるんじゃないかと思う。何やら様子が違うぞ、と。パフューム・ジーニアス名義で活動するマイク・ハドレアスのサード・アルバム『Too Bright』は実際、得意のピアノ・バラード“I Decline”で幕を開けるが、2曲目“Queen”でさっそく胸騒ぎの理由があきらかになる。そう、妖しく煌めくこの挑発的なシンセ・ポップは、彼にとってまったく新しい表現。以降、本作はマイクが愛するゴスペルやソウルの匂いを漂わせつつ、アコースティックとエレクトロニック、内省と挑発、不安と自信の間を振れながら進行していく。彼いわくそれは感情の振れ幅の表れであり、人生のドン底にいた自分がUSインディー界きっての成長株と目されるまでに至った、ここ数年の急速な変化に折り合いを付けようとしているのだとか。
「自分がやるべきことをやっているという確信はどんどん強まっていくけど、昔から抱いてきた疑念は完全には消えない。自分はここにいちゃいけないんじゃないかと感じてしまう。アルバムではまさにこの疑問と向き合っていて、一方ではそういう気持ちを分析し、他方では断固否定しているのさ。本当に不思議なもので、誰よりも僕が優れているんだという思いと、自分は最悪なんじゃないかという思いが常に混在しているんだ(笑)」。
米国のシアトル郊外で生まれ育ち、幼い頃からピアノを学んでいたものの、本格的に曲作りを始めたのは20代後半になってから。それまでNYで荒んだ生活を送り、リハビリを経て帰郷したマイクにとって、繊細なピアノ弾き語り曲を集めた宅録のファースト・アルバム『Learning』(2010年)は、壊れた自分を修復するセラピーみたいな作品だった。続いて、前作の路線を自然に進化させた2作目『Put Your Back N 2 It』(2012年)で高い評価を得た彼は、今回より幅広い層に訴えるポップな曲を書こうと試みたという。
「努力はしたんだけど、どの曲も情熱や信念に欠けていた。で、それを諦めたら、僕は凄く反抗的になれたんだ。他人が聴きたいものじゃなくて、いまの自分に大切なことを表現すればいい、と。そして以前よりリスキーな作品をめざしたのさ。ダークになりたい時は、思いきりダークになることを恐れないでね」。
そんなスタンスがエレクトロニックな実験へと彼を導き、二極化した方向性に準じて2名のプロデューサーを起用。アコースティック寄りの曲は前作のエンジニアだったアリ・チャントが、エレクトロニック寄りの曲はポーティスヘッドのエイドリアン・アトリーが手掛け、エイドリアンが所有するアナログ・シンセの数々がマイクのヴィジョンを洗練された表現に置き換える一方、ピアノ主体の曲にもより細やかなアレンジを施し、かつてなく凝ったサウンドを鳴らしている。歌い手としても、往年のロカビリー・シンガーたちにオマージュを捧げたり、ファルセットを響かせたり、低声で威嚇したり、声を自在に操って新境地を開拓。人前で演じる気分で歌ったという話にも納得できる。
「僕は歌のレッスンを受けたことがないし、歌い方も声もヘンテコなんだけど、ここへきてそれを最大限に活かす方法を学んだのさ。あと、PJ・ハーヴェイにも多大な影響を受けた。彼女は凄く秘密めいた詞を、実に誇らしげに歌う。大胆不敵で、軽佻浮薄なところが一切ないところが好きなんだ」。
確かにここでのマイクも大胆不敵。例えば、同性愛者であることを公言している彼だが、“Queen”然り、“Fool”然り、社会がカリカチュア化したゲイ男性像を逆手にとって現実を直視させている。自身のセクシュアリティーについてこれほど声高に主張するのは初めてだ。そしてラストの“All Along”では、「僕はつい何でも他人に承認を求めてしまうけど、自分で自分を認めるのが怖いからであって、他人の意見など必要ないんだ」と歌い、力強くアルバムを結ぶ。それでいてタイトルに選んだ〈Too Bright〉の2語には、「世のポジティヴィティーは、僕には眩しすぎて手に負えない」と戸惑いを映すマイク。葛藤を抱えながらも、彼は少しずつ光に身体を慣らして輝きを増している。
▼関連作品
左から、パフューム・ジーニアスの2010年作『Learning』、同2012年作『Put Your Back N 2 It』(共にMatador)、パフューム・ジーニアスが参加したケイト・ル・ボンの2014年作『Mug Museum』(Turnstile)、ポーティスヘッドの94年作『Dummy』(Go! Beat/Polydor)
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