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【Pop Style Now】第55回 エンジェル・オルセンの壮大な新曲、パフューム・ジーニアスの実験的ダンス・チューンなど、今週の洋楽ベスト・ソング5

2019年9月6~13日

【Pop Style Now】第55回 エンジェル・オルセンの壮大な新曲、パフューム・ジーニアスの実験的ダンス・チューンなど、今週の洋楽ベスト・ソング5

天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。毎週のように訃報が届いている気がしますが、先日も偉大な音楽家が亡くなりました……」

田中亮太「ダニエル・ジョンストンが9月10日に心臓発作で逝去。エキセントリックさと不思議なキュートさを併せ持っていた彼の歌は、さまざまな音楽家に影響を与えました。ベックやジャック・アントノフ、ジェニー・ルイスら多くのアーティストが追悼コメントを出しています。ウィルコ、フレーミング・リップス、ナショナルらは、直近のライヴで彼の楽曲をカヴァーしたみたいですね」

天野「ここ日本でも多くのミュージシャンやインディー・レーベルの関係者、ライターたちが、それぞれの思いを発信していました。Homecomingsの福富優樹くんとか、彼の大ファンでしたよね。めちゃくちゃ愛された人だったな……としみじみ感じ入っちゃいましたよ」

田中「きっと天国で〈真の愛を見つけて〉いることでしょう。ダニ、また会おうね。それでは気持ちを切り替えて、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Angel Olsen “Lark”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はエンジェル・オルセンの“Lark”。彼女が10月4日(金)にリリースする新作『All Mirrors』からのリード・シングルです。先に公開された表題曲“All Mirrors”も8月に〈PSN〉で取り上げましたね

田中「なので、今回は〈選ばなくてもいいかなー〉とも思ってたんですが、やっぱりすごい曲なので……。6分を超える大曲で、静謐なイントロからスタートし、徐々にパワフルなドラムや弦楽器が加わっていく壮大なナンバー。14人編成のストリングスも圧巻です。天野くんは“All Mirrors”について〈まだピンときてない〉と言っていましたが、今回はどうでした?」

天野「いい意味でインディーっぽいというか、聴き手に近くて親しみやすいところが彼女の魅力の一つだったと思うんです。でも、彼女を尊敬する後輩たちが出てきて、自分の存在感が大きくなってきたことに合わせたのか、“All Mirrors”は大仰に感じて。ただ“Lark”を聴いて、歌のパワーとサウンドを研ぎ澄ませていく新作の方向性が見えた気がしました。ドラマティックで凄みのある最後の1分間は強烈ですね。エンジェル・オルセンのアーティストとしての決意が表れているかのようです」

田中「なるほど。ミツキやジェニー・ヴァルなどの作品でも知られるアシュリー・コナーが手掛けたミュージック・ビデオも素晴らしいです。オルセン本人が出演し、悲しみとともに家を飛び出した女性が自然に触れ、感情のままに叫ぶさまを描いています。映像も美しく、観るだけで心がデトックスされていくようなMVですね」

 

2. Perfume Genius “Eye In The Wall”

天野「2位はパフューム・ジーニアスの“Eye In The Wall”。妖しく、センシュアルで、ダンサブル。すばらしい、と同時に、とんでもなくエクスペリメンタル……!」

田中「これは振付師のケイト・ウォーリッチとダンス・カンパニー〈The YC〉とのコラボレーション・プロジェクト『The Sun Still Burns Here』で披露される新曲です。『The Sun Still Burns Here』は、コンテンポラリー・ダンスとパフューム・ジーニアスが作った音楽の生演奏、という2つを中心としたパフォーマンスになるようです」

天野「だからこそ自由で先鋭的、実験的な試みが詰め込まれていますね。前半はパーカッションが効いた16ビートのリズムとサイケデリックなギター、パフューム・ジーニアスの不安げな歌が混然一体となっています。中盤のベースラインも含めて、『Kid A』(2000年)の頃のレディオヘッドっぽいかも。一方、後半はどんどんアブストラクトに。テンポが上がり、ビートが細かく刻まれていきます。聴いていると音の渦に飲み込まれそうな感じ」

田中「パフューム・ジーニアスって、それほど日本では知られていない気もしますよね。2作目の『Put Your Back N 2 It』(2012年)で高い評価を得てから、『Too Bright』(2014年)、ブレイク・ミルズとの『No Shape』(2017年)と傑作を連発しているのですが……。インディー・ロックからR&B、エレクトロニック・ミュージックまで、ジャンルが混在した音楽性もわかりづらさの原因になっているのかもしれません。でも、ゲイという自身のセクシュアリティーと向き合った歌も魅力的ですし、もっと知られてほしい音楽家ですね」

 

3. slowthai & Denzel Curry “Psycho”

天野「3位は英ノーサンプトン出身の怒れるラッパー、スロウタイと、来日公演も話題になった米フロリダのラッパー、デンゼル・カリーがチーム・アップした“Psycho”。3分弱という短い曲ですが、かなり緊張感があります」

田中「スロウタイとデンゼルは、5月にそれぞれ『Nothing Great About Britain』『ZUU』というアルバムを発表。いずれもメディアや批評家から絶賛されたことも記憶に新しいですね。デンゼルはアニメ『キャロル&チューズデイ』のフライング・ロータス制作曲でラップしていた人、といえば伝わるかも」

天野「国や地域はちがえど、既存のシーンからちょっと浮いた異端児っぽさのある2人。このコラボレーションも、なんとなく納得です。スロウタイのラップや音楽はかなり英国的だと思うのですが、10月からブロックハンプトンとアメリカやカナダをツアーするそうで、北米圏でもファンが増えそう」

田中「そのツアー、観たいですね! この“Psycho”は、スロウタイの楽曲の多くを手掛けるクウェス・ダーコがプロデュース。ホラー映画っぽいストリングスのサンプルが執拗に反復されるので、アルフレッド・ヒッチコックの映画『サイコ』(60年)を思い出します。〈ターバン〉〈ペルシャ人〉〈ベラ・ハディッド〉といった言葉や、デンゼルが歌うサビの〈さあ暴動の時間だ、粛清を始めよう!〉というフレーズから、英米に渦巻くイスラム恐怖症についての曲なのでは……と予想します」

 

4. Pussy Riot “1937”

天野「4位はプッシー・ライオットの“1937”。ライオット・ガールの思想を受け継ぐロシアのフェミニスト・バンドで、男性主義的な社会に〈NO〉を突きつける流動的な音楽集団。音楽のみならず、さまざまな表現で発信していて、創設メンバーのマリヤ・アリョーヒナが書いたエッセイ集『プッシー・ライオットの革命』は、邦訳書も話題になりましたね」

田中「〈ライオット・ガール直系〉というとパンクでアグレッシヴなサウンドを想像しちゃいますけど、彼女たちはサウンド面も一筋縄ではいかないのがおもしろい。この曲も、サイケなトラップ・ビートとウィスパー・ヴォイスの歌が独特です。それにしてもタイトルの〈1937〉ってどういう意味なんですか?」

天野「ロシアという国にとって、〈1937〉は忘れてはならない年を指しているんです。同年、ソ連時代にスターリンが行った大規模な政治弾圧、いわゆる〈大粛清〉で、何十万という人が政治犯として処刑されました。この曲は、先週末に実施されたロシアの統一地方選挙に向けて発表されたもの。現在投獄されている活動家やブロガーの解放を訴えるステートメントも併せて発表しました。なので、バンドとしてはリスナーの政治意識を高めるねらいがあったのかな……と。サウンドからはそんなこと、微塵も感じさせないところがおもしろいですね。それにしても亮太さん、もっと近現代史を勉強したほうがいいですよ!」

田中「すみません……。でも、こうやってポップ・ミュージックを通じて歴史や社会について学べることはいいですよね。この連載も、聴き手が世界を理解することへの手助けができていたらいいんですけど」

 

5. FKA Twigs feat. Future “holy terrain”

天野「5位はFKAツイッグスの“holy terrain”です。4月に3年ぶりの新曲“Cellophane”をいきなりリリースしたことにも驚かされましたが、ついに完全復活! 新作『MAGDALENE』が10月25日(金)に発表されます」

田中「先日も〈バーバリーのコレクションを観に来ていた〉なんて報道されていましたが、ファッション・アイコンとしてここ日本でも人気のある人だけに、話題ですよね。俳優である恋人のシャイア・ラブーフと破局したんじゃないか、というゴシップも報じられていました(笑)」

天野「FKAツイッグスはビョークとも比較されるようなアーティストですが、もともとダンサーですし、ミュージシャンであるというアイデンティティーがそこまでないんじゃないか、と僕は思っています。もちろん、歌声や先鋭的なサウンドへの志向性は大好きなんですけど、なんかもっと〈総合アーティスト〉っぽいというか。芸能人って感じもありますし」

田中「なるほど。で、この新曲には米アトランタを代表するスター・ラッパー、フューチャーが参加。このあたりの派手な客演も〈らしい〉かも。アフリカのチャントっぽい歌の引用や、〈いよ~っ〉という、おそらく日本の音楽からのサンプリングもユニーク。制作はツイッグスに加え、売れっ子のジャック・アントノフに、なんとスクリレックス。歌詞は〈理想の男なら私の聖なる地(holly terrain)に立っていいわ〉という、なんとも官能的なもの。ささやくようなヴォーカル表現はさすが。というわけで、今週はアリアナ・グランデとマイリー・サイラス、ラナ・デル・レイが共演した『チャーリーズ・エンジェル』の“Don't Call Me Angel”や、英ドラマ『トップ・ボーイ』のアルバムに収録されたドレイクのフリースタイル“Behind Barz”といった超話題曲をスルーした、なかなか攻めた5曲でした!」

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