バンド名の由来はゆらゆら帝国の『空洞です』とはっぴいえんどから。本稿の主役、えんぷていはサイケデリックかつ心地良い浮遊感を湛えたサウンドと、日常のなかで揺れ動く風景を詩情豊かな日本語詞で描く歌で、支持を広げているロック・バンドだ。2019年に名古屋で結成され、現在は東京を拠点に活動。昨年12月に、かねてからリズム隊としてサポートを務めていた神谷幸宏、赤塚舜が正式に加入し、5人組となった。

 「僕らは名古屋のシーン――特に(ライヴハウスの)KDハポンとブラジルコーヒーに育ててもらったバンドだと自負しています。yawarakai hitotachiとか先輩バンドにも恵まれていたし、すごくのびのびと自分たちの音楽性を伸ばしていけたんです。たぶん最初から東京だと軋轢や焦りも多くて、続けられなかったんじゃないかな」(奥中康一郎:以下同)。

 2022年11月にファースト・アルバム『QUIET FRIENDS』をリリース。マック・デマルコやリアル・エステートなどを彷彿とさせるローファイ~ギター・ポップを基調に、コールマインやカーマ・チーフからの諸作といった現行のメロウなソウルにも共振するバンドの音は、同作ですでに確立されていた。

「僕にとってもっとも存在の大きいバンドは、東京事変とはっぴいえんどの2組なんですが、マックも細野(晴臣)さん経由で知ったんです。それから(マックと同郷の)カナダのインディー……メン・アイ・トラストとかオールウェイズを聴くようになりました。メン・アイ・トラストはジャズやR&Bの素養を持つメンバーがあえてインディー・ポップをやっているところに惹かれています。〈できるのにやらない〉という選択に対して、強い憧れがあって。僕らもプレイヤーとしてのスキルは高くありたいと思うんです」。

 そんなえんぷていのセカンド・アルバムが、今回リリースされた『TIME』だ。「インディーっぽさにこだわらず、僕らのいろいろな面を打ち出すアルバムをめざしました」と語るように、初作よりも音楽的なレンジを広げている。

 「前作は平熱感を大事にしていたんです。メロディーも抑揚を付けすぎないようにしていたし、インパクトを出すより、何度でもリピートできるスルメ感みたいなものを意識していた。今回はもっとパッションを表現していいと思っていたし、結果的に、強弱やメリハリもある種のスルメ感に繋がるという発見がありました」。

えんぷてい 『TIME』 SPACE SHOWER(2024)

 スペイシーなインスト“Turn Over”で幕を開ける『TIME』。その後は清涼感に溢れたネオアコ・テイストの“whim”、甘美な空気感のなかをギター・ソロが滑空する“秘密”と続き、最初のピークは4曲目に据えられた8分の6拍子のエモーショナルなロック“あなたの全て”だ。

 「“あなたの全て”は、あらゆる時代の音楽を並列に聴ける僕らの世代ならではの視点を用いたうえで、えんぷていの〈クラシック〉を作ろうとしました。かつてないほど全力で歌った楽曲ですし、いちばんパッションの出ている楽曲ですね」。

 快いFMシンセの鳴る“ハイウェイ”、「ギターの比志島(國和)がタイのインディーやアジアのポップスに影響されて作った」というリゾート感が眩い“琥珀”、『The Bends』期のレディオヘッドが重なるフローティンなオルタナ“宇宙飛行士の恋人”など粒揃いの楽曲を貫いているのは、タイトルに冠した〈時間〉というテーマ。10曲の主人公たちは、過ぎ去っていく瞬間に想いを馳せている。

 「時間を止められたらいいのに、でも時間は止まらないよな、という感情が全曲を通してうっすらと描かれています。加えて、〈タイムレス〉〈普遍性〉というのは、初期からえんぷていの楽曲で軸にしてきたもの。その視点はバンド自体にも向けられていて、長く続けることが僕らの目標なんです。えんぷていは、僕らにとっての居場所、シェルターみたいな空間であってほしいし、ここを守るために舵を取るのが僕の役目だと思っていますね」。

 


えんぷてい
奥中康一郎(ヴォーカル/ギター)、比志島國和(ギター)、石嶋一貴(キーボード)、赤塚舜(ベース)、神谷幸宏(ドラムス)から成る5人組バンド。2020年に名古屋で結成され、EPやライヴ音源のリリースを重ねたのち、2022年にファースト・アルバム『QUIET FRIENDS』を発表。以降は全国各地のフェスやイヴェントに出演するなか、このたびセカンド・アルバム『TIME』(SPACE SHOWER)をリリースしたばかり。4~5月には初の東名阪ワンマン・ツアーを開催する。