Photo By Tom Moore.

ジルクスの身近なテーマや社会問題意識が、普遍性を帯びた雄弁なストーリーへと昇華する。

 ニューヨークのファースト・コール・トロンボーン・プレイヤーで、コンボからビッグ・バンドまで広いフィールドで活躍するマーシャル・ジルクスのリーダー8作目にして、ドイツ、ケルンの名門WDRビッグ・バンドとの共演作がリリースされた。ジルクスは、2010年にWDRビッグ・バンドに招聘され、4年間そのメンバーとして活躍した後、2014年の1月のジルクスが作編曲を手がけた送別コンサートを録音した、『Köln』をリリース。グラミー賞に、2部門でノミネートされた。2017年にも再び共演のチャンスを得て『Always Forward』を制作、そして本作で3度目のコラボレーションとなり、WDRとの蜜月関係は成熟期に至っている。

MARSHALL GILKES, THE WDR BIG BAND 『LifeSongs』 Alternate Side(2024)

 ジルクスが、2022年に発表したトップ・ジャズ・ミュージシャンのリズム・セクションと、クラッシック・ブラスの名手8人のコンビネーションの野心作『サイクリック・ジャーニー』を、「個人的な日常、最も身近なものを熟考することで辿り着いた」と、評している。本作は、このコンセプトの延長線上にあり、「曲の多くのテーマが、自らの今日の生活や世界で起こっていることと、直接関係している」とジルクスは語る。

 勇壮な“Back In The Groove”は、コロナ・パンデミックからの復活を高らかに宣言し、キュートな“Cora’s Song”は、娘のために描いた楽曲に、オーケストレーションを施した。アメリカ銃社会を反対する切実な祈りを描いた“My Unawswered Prayer”、ジルクスが、初めて書いたシンガーとビッグ・バンドの共演曲の“All The Pretty Little Horses”は、彼の母が歌っていた、子守唄を思い出して作曲した。ジルクスの身近なテーマや社会問題意識が、荘厳なアンサンブルと、ヴァーチュオーソなジルクスのインプロヴィゼーションによって、普遍性を帯びた雄弁なストーリーを紡ぐ。