Marshall Gilkes @ Detroit Jazz Festival 2015 ©Takehiko Tokiwa

マーシャル・ジルケスの、WDRビッグバンドの共演第二作は、強い信念で前進する。

 ヨーロッパの名門ビッグバンドといえば、オランダのメトロポール・オーケストラとドイツのWDRビッグバンドが、双璧をなしている。ニューヨークの中堅トロンボーン・プレイヤー、マーシャル・ジルケスは2010年から2013年までWDRビッグバンドに在籍し、ジョー・ザビヌル(key)、ロン・カーター(b)、ジョー・ロヴァーノ(ts)らとの共演プロジェクトに参加し、研鑽を積んだ。2015年リーダーとしてWDRビッグバンドと共演、アルバム『Köln』はグラミー賞ラージ・ジャズ・アンサンブル部門にノミネートされ、大きな成果を残す。

MARSHALL GILKES,THE WDR BIG BAND Always Forward Alternate Side Records(2018)

 それから3年、ジルケスは再びWDRビッグバンドと、がっぷり四つに組んだアルバムを発表する。伝統を踏襲しながら、自らの音楽を常に前進させるという決意とともに、混迷する世界情勢の中でも、信念を持って突き進んでいく強い意志を反映して『Always Forward』とタイトルを付けた。

 トロンボーン協奏曲のごとくジルケスの高いテクニックを誇示しながら、それがアンサンブルと一体となる《Puddle Jumping》で、オープニングを飾る。スタンダード曲は2曲。尊敬するボブ・ブルックマイヤー(volve tb)は、スタンダード曲の換骨奪胎の名手だったが、《Easy to Love》と《Portrait of Jennie》には、ブルックマイヤーの影響が聴きとれる。ヨハン・ホーレン(as)、アンディ・ハンター(tb)らWDRビッグバンドを代表する名手たちもフィーチャーされた。アルバムの後半を盛り上げるのは3曲で構成される《デナリ組曲》は、2017年の夏、友人の結婚式で家族とともに訪れたアラスカ州のマッキンリー山で知られるデナリ国立公園の雄大な自然にインスパイアされた作品だ。そして強い信念を象徴するタイトル曲は、ジルケスがリリカルなメロディでリードを執って締めくくられた。新世代のビッグバンド・コンポーザーの、群雄割拠を象徴する作品である。