高い空にうろこ雲が浮かび、すっかり秋の気配に包まれたある日の放課後。ここはT大学キャンパスの外れに佇むロック史研究会、通称〈ロッ研〉の部室であります。どうやら文化祭の準備に勤しんでいるようですが……。

 

【今月のレポート盤】

FRIPP & ENO Live In Paris 28.05.1975 Island/DGMLive/WOWOW(1975)

 

 

杉田俊助「ユーは大学院生のクセにハッスルしすぎだよネ!」

弘明寺素子「文化祭といったら〈鉄板のモコ〉の出番だからね! 今年も作るよ~、名古屋風のドテ焼きそば!」

汐入まりあ「そんなことより、モコ先輩! 聞いてくださいよ~」

弘明寺「どうした、まりにゃん! もしや失恋!? 誰に振られたの?」

汐入「違います! キング・クリムゾンが再始動して9月からUSツアーを敢行していたことに気付かず、いま調べてみたらすでにそのツアーは終了していたんです! 悔やんでも悔みきれません」 

弘明寺「クリムゾンって、データが神のように崇めているプログレ・バンドの?」

汐入「私だって大好きです、うぅ……」

杉田「マリーア、最近キャラ変わったよネ、Ha! Ha! Ha! んじゃ、ジェントルマンなミーがこの音で慰めてあげるヨ!」

汐入「あっ、フリップ&イーノの『Live In Paris 28.05.1975』だ! ジョン君、もう買ったんだね!?」

弘明寺「イーノはブライアン・イーノでしょ!? で、フリップって誰?」

杉田「クリムゾンのリーダー、ロバート・フリップだヨ!」

汐入「2人は70年代に2枚のコラボ・アルバムを残しているのですが、本作はいままで一部の音源がブート盤などで流出していたものの、初めて正規リリースとなる75年のライヴ音源です」

杉田「ちなみにヴォリューミーな3枚組だヨ! なかでもライヴ時にベースとして使用されたループ音源を、いじらない状態で収めた激レアなDisc-3が、ミー的にはファンタスティックでエキサイティングだったネ、Ha! Ha! Ha!」

弘明寺「(無視して)ねえねえ、さっきから変な音がプゥ~ンとかポワ~ンとか鳴っているけど、いつ曲が始まるの?」

汐入「いえ、あの……この曲はずっとこんな感じです」

弘明寺「え!? 長いイントロかと思ったよ!」

杉田「じゃあ、ネクスト・チューンに進んでみよっか!?」

弘明寺「……これはうっすらメロディーみたいなものがあるね。う~ん、でも何だか味気ないや」

戸部伝太「モコ殿、それは聞き捨てなりませんな!」

杉田「データ、いつの間に!?」

弘明寺「だって、モコのイメージするクリムゾンとは全然違うんだもん!」

戸部「当然ですよ。本隊とは異なる実験的な音楽を希求したフリップと、非ロック的な素養を潤沢に持ち合わせていたイーノ──2人の才能が出会って生まれた実に知的なサウンドですからね!」

弘明寺「へ~(急速に興味喪失)」

汐入「イーノにとっては、この後のクラスターデヴィッド・バーン、最近のカール・ハイドまで続く数々の優れたコラボの第一歩という点でも大きいですね」

【参考動画】ブライアン・イーノとカール・ハイドのユニット、
イーノ・ハイドの2014年作『Someday World』収録曲“The Satellites”

 

戸部「いや、それ以上にここで開陳された持続音と反復フレーズという2つの要素は、あきらかに後のアンビエント・シリーズへと繋がるものであり、つまりイーノのなかで〈アンビエント・ミュージック〉という概念が萌芽した最初の一歩であることのほうが、歴史的には重要ですな」

汐入「確かにそうかもしれないですね。でもフリップのサステインを効かせたギターがロック感を醸し出していて、そこが私は好きです」

戸部「それは小生も同感ですぞ。またイーノがテープ・レコーダーを駆使して演奏をループ化し、さらにその上にフリップがギターを重ねていくという……」

汐入「あの、モコ先輩とジョン君が完全に寝ちゃっていますけど……」

戸部「し、失敬な!」

杉田「Ummm……Oh、ソーリー。サウンドが気持ち良くって、ウトウトしっちゃったヨ! ミーにとってフリップ&イーノは完全にチルアウトするための音楽だネ!」

汐入「モコ先輩、お茶を煎れるので起きてください!」

弘明寺「う~ん……焼きそばはもう売り切れま……ハッ! 2人の会話についていけなくて、半分夢の世界に行ってたよ~。でもこれって確かにセルアウトだね」

杉田「チルアウトだヨ!」

 むにゃむにゃ……おっと、ついついこちらまで眠りそうになってしまいましたが、まあ、〈睡眠の秋〉とも言いますし、今回はこのへんで幕を下ろすとしましょう。それではおやすみなさい。 【つづく】