INTERVIEW

秦 基博 『evergreen』 Part.1

必要なのは、表情豊かなアコギの調べとエヴァーグリーンな歌声、ただそれだけ。黄昏の深い空の色にも似た、胸を締め付けるような弾き語りに心奪われたい……

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  • 2014.11.12
秦 基博 『evergreen』 Part.1

弾き語りは切り離せない表現

 秦基博の名前を聞いたとき、多くの人が最初に思い浮かべるのは、アコースティック・ギターを弾きながら歌っている姿だろう。実際、彼の音楽の中心にあるのは間違いなく、アコギと歌だ。ほとんどの楽曲がアコギの音色と共に生み出されていることを考えても、〈アコギの弾き語り〉は、彼の音楽そのものと言っても過言ではない。

秦基博 evergreen ARIOLA JAPAN(2014)

 そんな秦が、全曲弾き語りによるベスト・アルバム『evergreen』をリリースする。映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌としてヒットを記録した“ひまわりの約束”をはじめ、“アイ”“鱗(うろこ)”“キミ、メグル、ボク”などの代表曲、さらにアルバムやミニ・アルバムのタイトル曲の弾き語りヴァージョン(新録のスタジオ音源+ライヴ音源)のみで構成された本作は、彼の音楽性の本質をしっかりと際立たせている。本作のコンセプトについて秦は「ベストを作るのではなく、アコースティックなアレンジの曲や弾き語りをまとめようというところから始まったんです」と説明する。その直接のきっかけは、今年、約2年ぶりに開催された弾き語りが主体のライヴ・シリーズ〈GREEN MIND〉だったという。

 「もともと弾き語りは自分にとって切り離せない表現だったんですが、今年〈GREEN MIND〉をやったとき、自分のなかで(アコギの弾き語りが)ひとつの形になってきた、という手応えがあって。キャリア的にも、このタイミングで〈GREEN MIND〉を通してトライしてきたことを作品にまとめてみたいという気持ちになったんですよね。まとめ方や選曲についてはいろいろと悩んだんですが、シングル曲、アルバムの表題曲などに限定するのがいいかな、と。特にシングルには、そのときどきの自分のモードが出てるし、弾き語りで聴いてもらうことで、バンド・サウンドとは違う、声の倍音、ニュアンスもより感じてもらえるんじゃないかなって」。

 今回、新たに録音された“ひまわりの約束”“Girl”“グッバイ・アイザック”の3曲を聴くだけでも、秦の豊かな表現力を感じてもらえるはずだ。

 「“グッバイ・アイザック”はループ・マシーンを使ってるんです。リズムをその場で打ち込んで音を重ねていくスタイルはときどきライヴでも採り入れているから、そのやり方でスタジオで録ってみようと。“Girl”に関しては、実は初めて弾き語りで歌いました。もともとピアノやシンセが印象的なアレンジの曲だから、ライヴでもキーボードは欠かせなかったんですよ。今回は〈弾き語りでやる〉って決めたから、やるしかないなって(笑)。“ひまわりの約束”は、原曲のなかにある優しさ、温かさが強調されたミックスになってます。アコギの録り方、歌の質感、空間の作り方も、そういう雰囲気に近づけるようにしました」。

 

歌は生きてる

 すでに気付いた読者もいるだろうが、秦の弾き語りの表現は極めて多彩だ。そう、〈弾き語りは静かでゆったりと聴かせるもの〉という一般的なイメージを気持ち良く越えていく感覚もまた、本作の大きな魅力。もちろんそこには、2006年のデビュー以来——いや、彼がアコギを弾きはじめた瞬間から積み重ねられたものがしっかりと根付いている。

  「最初から〈ひとりでギターを持って歌う〉という形がいちばん自然だったんですけど、弾き語りのライヴに関しては、メジャー・デビューするまではせいぜい30~40分くらいの長さだったんですよ。つまり、2時間くらいのワンマン・ライヴをひとりでやるには足りないものだらけだったんですね。そのことを実感したのは、2009年の〈GREEN MIND〉。ひとりで21か所のツアーに挑んだのですが、そのときに弾き語りの捉え方があきらかに変わったんです。以前は〈曲が出来たときの形を、そのままやる〉という感じだったんですけど、その後は弾き語りのためのアレンジを考えるようになったんですよ。静かに聴かせるだけでなく、ビートやグルーヴを出すにはどうしたらいいか。限られた音数のなかで、しっかりピークを作るためには何が必要か。そういうことにひとつずつ挑んでいって、一式整ったのが2011年の武道館弾き語り公演だったんじゃないかって。いまはその時のように突き詰める感じではなくて、いまのスタイルをどうやって発展させるか、進化させるかってことを考えますね」。

【関連動画】秦基博“透明だった世界”2010年のライヴ映像

 

 さらに秦は「ライヴを経験するなかで、弾き語りの表情も変化していると思う」と言葉を続ける。

 「例えば目の前のお客さんが泣いていたら、歌も自然と変化するんですよね。そういう経験を重ねていくうちに、同じ曲でも違う表現になっていくというか。特に“鱗(うろこ)”はデビュー以降ずっと歌ってきたなかで、いろんな形が存在していて。今回収録したテイクは感情的というか、歌もギターも曲中で(音量が)かなり大きくなったり小さくなったりしているんです。歌は生きてると思うし、その瑞々しさを感じてもらえたらいいな、と」。

 アコースティック・ギターと歌という最小限のスタイルによって、みずからの奥深い音楽性を見事に描き出した本作。『evergreen』というタイトル通り、このアルバムはここから長い時間をかけて、幅広い層のリスナーに浸透していくことになりそうだ。最後に理想の〈弾き語り像〉について訊いてみると、「ジェイムズ・テイラーの在り方には惹かれますね」という答えが返ってきた。

 「奏法云々ではなくて、歌もギターも佇まいも、何であんなに自然でいられるんだろう?って。自分がパフォーマンスする時はどうしても昂揚するし、勝負してるみたいな感覚になることもあるんですけど、彼はまるで自分の部屋で話しているように歌うんですよ。それはある意味、究極の姿だと思いますね。そうなるためには、技術的なことはもちろん、人間力を高める必要があるんじゃないかって。そう考えるとやらなくちゃいけないことは多いし、まだまだ先は長いですね」。

 

 

▼秦基博の近作

左から、2013年作『Signed POP』、2014年のシングル“ひまわりの約束”、2014年のライヴ映像作品「Hata Motohiro Visionary live 2013 -historia-」(すべてARIOLA JAPAN)
※ジャケットをクリックするとTOWER RECORDS ONLINEにジャンプ

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