必要なのは、表情豊かなアコギの調べとエヴァーグリーンな歌声、ただそれだけ。黄昏の深い空の色にも似た、胸を締め付けるような弾き語りに心奪われたい……

弾き語りは切り離せない表現

 秦基博の名前を聞いたとき、多くの人が最初に思い浮かべるのは、アコースティック・ギターを弾きながら歌っている姿だろう。実際、彼の音楽の中心にあるのは間違いなく、アコギと歌だ。ほとんどの楽曲がアコギの音色と共に生み出されていることを考えても、〈アコギの弾き語り〉は、彼の音楽そのものと言っても過言ではない。

秦基博 『evergreen』 ARIOLA JAPAN(2014)

 そんな秦が、全曲弾き語りによるベスト・アルバム『evergreen』をリリースする。映画「STAND BY ME ドラえもん」の主題歌としてヒットを記録した“ひまわりの約束”をはじめ、“アイ”“鱗(うろこ)”“キミ、メグル、ボク”などの代表曲、さらにアルバムやミニ・アルバムのタイトル曲の弾き語りヴァージョン(新録のスタジオ音源+ライヴ音源)のみで構成された本作は、彼の音楽性の本質をしっかりと際立たせている。本作のコンセプトについて秦は「ベストを作るのではなく、アコースティックなアレンジの曲や弾き語りをまとめようというところから始まったんです」と説明する。その直接のきっかけは、今年、約2年ぶりに開催された弾き語りが主体のライヴ・シリーズ〈GREEN MIND〉だったという。

 「もともと弾き語りは自分にとって切り離せない表現だったんですが、今年〈GREEN MIND〉をやったとき、自分のなかで(アコギの弾き語りが)ひとつの形になってきた、という手応えがあって。キャリア的にも、このタイミングで〈GREEN MIND〉を通してトライしてきたことを作品にまとめてみたいという気持ちになったんですよね。まとめ方や選曲についてはいろいろと悩んだんですが、シングル曲、アルバムの表題曲などに限定するのがいいかな、と。特にシングルには、そのときどきの自分のモードが出てるし、弾き語りで聴いてもらうことで、バンド・サウンドとは違う、声の倍音、ニュアンスもより感じてもらえるんじゃないかなって」。

 今回、新たに録音された“ひまわりの約束”“Girl”“グッバイ・アイザック”の3曲を聴くだけでも、秦の豊かな表現力を感じてもらえるはずだ。

 「“グッバイ・アイザック”はループ・マシーンを使ってるんです。リズムをその場で打ち込んで音を重ねていくスタイルはときどきライヴでも採り入れているから、そのやり方でスタジオで録ってみようと。“Girl”に関しては、実は初めて弾き語りで歌いました。もともとピアノやシンセが印象的なアレンジの曲だから、ライヴでもキーボードは欠かせなかったんですよ。今回は〈弾き語りでやる〉って決めたから、やるしかないなって(笑)。“ひまわりの約束”は、原曲のなかにある優しさ、温かさが強調されたミックスになってます。アコギの録り方、歌の質感、空間の作り方も、そういう雰囲気に近づけるようにしました」。